べるぞね

朝の玄関で、子どもがくつをはいている。左右が逆だし、かかとも入っていない。時計を見ると、もう出る時間。「かして、パパがやるから」と手を出すと、「自分でやる!」と怒って、最初からやり直し——年中の子と暮らしていると、毎朝のようにある場面です。待ったほうがいいとは思うけれど、待つ時間がない。今回は、親が手を出しすぎると子どもに何が起きるのか、どんなときに親は手を出したくなるのか、いつなら手伝っていいのかを、大学の研究から調べました。

玄関でくつを自分ではこうとがんばる子供と、手を出したいのをこらえてそばで見守るパパのドット絵イラスト

子どもが集中しているときの手出しが、いちばん響く

スタンフォード大学のJelena Obradovićらは2021年、Journal of Family Psychology誌に「手放すことを学ぶ」という題の研究を発表しました。4〜6歳の子ども102人とその親に研究室へ来てもらい、いっしょに遊ぶ、おもちゃを片付ける、新しいゲームを覚える、といった場面を録画しています。そして、親と子のふるまいを1秒ごとに記録しました。

研究チームが注目したのは、子どもがすでに自分から課題に取り組んでいるときに、親がどれだけ指示や手助けをはさんでいるかです。結果は、次のようになりました。

  • 子どもが自分で取り組んでいる最中に親が口や手を出す時間が長いほど、子どもが自分の気持ちや行動をおさえる力のテストの成績が低かった
  • 子どもがぼんやりしているとき(自分から動いていないとき)の手助けには、この関係は見られなかった
つまり、手助けそのものが悪いのではありません。「いま、自分でやっている最中」に入ってくる手助けが、子どもから練習の機会をうばっているようです。なお、これは1回の観察で関係を見た研究で、「手を出したから力が下がった」とまでは言い切れません。もともと自分をおさえるのが苦手な子に、親がつい手を出している可能性もあります。

「自分でやらせる」は、1歳のころから効いている

もっと小さい子を追いかけた研究もあります。モントリオール大学のAnnie Bernierらは2010年にChild Development誌で、80組の母子を調べた研究を発表しました。子どもが1歳〜1歳3か月のときに親子の様子を観察し、母親の関わり方を3つの面から点数にしています。

そのうちの1つが「自分でやるのを支える関わり」です。子どもの代わりにやってしまわず、子どものペースに合わせ、ヒントは必要な分だけ出す関わり方を指します。この点数が高かった子ほど、1歳半と2歳2か月のときに、覚えておく力・がまんする力・切り替える力のテストの成績が高いという結果でした。3つの面のうち、この関わりがいちばん強く関係していました。

赤ちゃんに近い年齢の研究なので、年中の子にそのまま当てはまるとは限りません。それでも、「自分でやらせてもらった経験」が早い時期から積み重なっていくことは分かります。

親が手を出したくなるのは、急いでいるとき

では、なぜ分かっていても手を出してしまうのでしょうか。クラーク大学のWendy Grolnickらは2002年にDevelopmental Psychology誌で、母親60人と小学3年生の子どもの実験を発表しました。親子でいっしょに、地図の課題と詩を作る課題をしてもらいます。

このとき母親の半分には、「お子さんがちゃんとできるようにするのが、あなたの役目です。あとでテストします」という意味のプレッシャーをかけました。残りの半分には、そうした話をしませんでした。

すると、プレッシャーをかけられた母親は、詩の課題で指示や口出しで子どもを動かそうとする関わりが増えました。そして、そのように関わられた子どもは、あとで1人で詩を作ったとき、できばえの独創性が低くなりました。

小学3年生の研究ですが、朝の玄関にもよく似ています。「遅刻させてはいけない」「ちゃんとはかせなければ」と思うほど、親の手は早く出ます。手を出してしまうのは、親の性格の問題というより、時間と結果に追われている状況がそうさせているのだと考えられます。

経営学のヒント:「自分でやったほうが早い」というわな

仕事の世界にも、まったく同じ悩みがあります。部下にまかせるより、上司が自分でやったほうが早くて確実。だから、つい自分でやってしまう。経営学では、仕事と決める権限を部下にわたすことを「権限委譲」と呼び、管理職のいちばんむずかしい仕事のひとつとして扱います。

まかせると、その場では時間がかかり、できばえも落ちます。それでもまかせるのは、まかされた回数だけ、相手ができることが増えるからです。上司が全部やる職場では、上司はいつまでも忙しく、部下はいつまでも育ちません。うまくまかせる上司は、次のようにすると言われます。

  • まかせる範囲を先に決める。全部ではなく、「ここからここまで」を区切ってわたす
  • 途中で口をはさまない。やり方がちがっても、結果が出るまで待つ
  • 助けを求められたら、すぐに応じる。放り出すのと、まかせるのはちがう

家庭に置き換えると、くつをはくのに3分かかるのは、子どもがおそいからではありません。練習中の人にまかせるときにかかる、ふつうの時間です。その3分を、朝の予定に先に入れておけるかどうかが分かれ目になります。

今日からできる対処法

1と2は上の研究から言えること、3〜5は研究の考え方をもとにした工夫です。

  1. やっている最中は、手も口も出さない。左右が逆でも、まずはき終わるまで待ちます。直すのは、終わってから「こっちの足のほうが、はきやすいよ」とひとこと。
  2. 手が止まったときだけ、手伝う。子どもがぼんやりしているとき、こまって止まっているときの手助けは、じゃまになりません。「どこがむずかしい?」と聞いてから、そこだけ手を貸します。
  3. 「自分でやる時間」を先に予定に入れる。くつに3分、ボタンに5分かかるなら、そのぶん早く声をかけます。急いでいるときほど手が出るので、急がなくていい状態を作るほうが近道です。
  4. まかせる範囲を区切る。全部を待てない日は、「右足は自分で、左足はパパ」「ボタンは下の2つだけ自分で」と分けます。全部うばうより、半分でも残すほうが練習になります。
  5. 本当に時間がない日は、先に言う。とちゅうで取り上げるのではなく、はじめる前に「今日は時間がないから、パパがやるね。帰りは自分でやろう」と伝えます。

毎回待てなくても、気にしすぎることはありません。研究が見ているのは、ふだんの関わり全体の傾向です。10回のうち何回か、最後まで見ていられれば、それがそのまま練習の回数になります。

まとめ

  • 4〜6歳の子が自分で取り組んでいる最中に親が手や口を出す時間が長いほど、自分をおさえる力の成績が低かった。ぼんやりしているときの手助けには、この関係はなかった(Obradović et al., 2021)
  • 1歳のころに「自分でやるのを支える関わり」を多く受けた子は、その後の覚える力・がまんする力の成績が高かった(Bernier et al., 2010)
  • 結果へのプレッシャーをかけられた母親は、指示が増えた。そう関わられた子は、1人でやったときの独創性が低かった(Grolnick et al., 2002)
  • 「自分でやったほうが早い」は、仕事でも同じわな。まかせた回数だけ、相手ができることが増える
  • やっている最中は待つ。手が止まったときだけ手伝う。そのための時間を先に予定に入れる
参考にした情報
手を出しすぎと自分をおさえる力:Obradović, Sulik & Shaffer (2021) Journal of Family Psychology/Stanford University の発表
1歳のころの関わりとその後の力:Bernier, Carlson & Whipple (2010) Child Development
プレッシャーと親の関わり方:Grolnick, Gurland, DeCourcey & Jacob (2002) Developmental Psychology