べるぞね

朝、タオルをたたんで、コップをふくろに入れて、水とうにお茶を入れて、連絡帳にサインして、ぼうしをさがす。その横で、子どもはテレビを見ています。「これ、全部ぼくがやることなのかな」と思いながら、時間がないので今日も自分でかばんにつめる。でも、このままで来年の年長、その次の小学校は大丈夫なのか——年中の子を園に通わせていると、ふと立ち止まる朝があります。親が全部やるものなのか。全部やっていると、自分でやる力は育たないのか。どうすれば子どもが自分でやるようになるのか。今回は、この3つを、大学の実験と国の資料から調べました。

通園かばんに自分でタオルを入れる子供と、手を後ろに組んで見守るパパ。壁には絵だけのしたく表があるドット絵イラスト

親が全部やるもの?——国の指針は「自分でする」を目標にしている

最初の問いの答えは、はっきりしています。親が全部やるものではありません。園での教育・保育のもとになっている国の文書に、そう書いてあります。

幼稚園教育要領と保育所保育指針(どちらも平成29年告示)は、3歳以上の子どものねらいとして、次の2つをあげています。

「身の回りを清潔にし、衣服の着脱、食事、排泄などの生活に必要な活動を自分でする。」
「(園)における生活の仕方を知り、自分たちで生活の場を整えながら見通しをもって行動する。」

さらに、小学校に入るまでに育ってほしい姿のひとつとして「自立心」をあげ、「しなければならないことを自覚し、自分の力で行うために考えたり、工夫したりしながら、諦めずにやり遂げることで達成感を味わい、自信をもって行動するようになる」と説明しています。

つまり、園の先生たちは、子どもが自分で支度できるようになることを目標に、毎日かかわっています。園で朝、子どもが自分でタオルをかけ、コップを出しているのはそのためです。家での準備だけ親が全部やっている、という家庭は多いはずですが、家でも少しずつ子どもにわたしていくのが、国の考える道すじです。

4〜5歳は、どのくらい自分でできるのか

では、年中の子に「自分でやって」は早すぎないのでしょうか。ベネッセ教育総合研究所が2022年3月に、首都圏の母親4,030人に聞いた「第6回 幼児の生活アンケート」に、手がかりがあります。母親が「できる」と答えた割合です(4歳・5歳とも620人)。

4歳:一人で洋服を着たりぬいだりできる93.8%
5歳:一人で洋服を着たりぬいだりできる97.2%
4歳:遊んだあとの片付けが一人でできる83.5%
5歳:遊んだあとの片付けが一人でできる89.2%

母親が「できる」と答えた割合(2022年、首都圏)。ベネッセ教育総合研究所「第6回 幼児の生活アンケート」より作成

着がえは、4歳で9割以上が一人でできています。「園の準備」そのものを聞いた項目はありませんが、体の動かし方としては、タオルをかばんに入れる、コップをふくろにしまう、といったことは十分にできる年ごろです。

医学の側の目安も見ておきます。アメリカの疾病対策センター(CDC)と小児科学会は2022年、子どもの発達の目安を見直しました(Zublerら、医学誌Pediatrics)。「その年齢の子の75%以上ができること」を集めた一覧です。

  • 4歳:「お手伝い」をしたがる/大人が見ていれば、自分で食べ物をよそったり、水をついだりする/ボタンをいくつか外す
  • 5歳:かんたんな家の手伝いをする(くつ下を組にする、食べたあとに食器を下げる、など)/ボタンをいくつかとめる

4歳は「やりたがる」時期、5歳は「実際にやる」時期。年中は、ちょうどその橋わたしのところにいます。なお、これは4人に3人ができることの一覧で、できないからといって遅れているという意味ではありません。

自立心は育たない?——代わりにやると、次の課題であきらめるのが早くなった

2つ目の問いです。親が全部やっていると、自分でやる力は育たないのでしょうか。「朝の準備」を直接調べた研究は見つかりませんでした。ただ、大人が代わりにやってしまうことの影響を、4〜5歳の子で確かめた実験があります。

アメリカのペンシルベニア大学のJulia Leonardらは2021年、発達心理学の専門誌Child Developmentに、「大人が代わりにやると、子どもはねばらなくなる」という題の研究を発表しました。中心になる実験には、平均4.9歳の子ども90人が参加しています。

子どもに、むずかしいパズルをわたします。10秒ほど取り組んだところで、大人は3つのうちどれかの行動をとりました(各30人)。

  • 代わりにやる:「むずかしいね。やってあげるよ」と言って、大人がパズルを完成させる
  • 教える:手は出さず、言葉とヒントで、子ども自身に完成させる
  • 何もしない:大人はかかわらない

そのあと、子どもに別のおもちゃの箱をわたします。じつはこの箱は開かないように作られていて、子どもが何秒あきらめずに取り組むか(最長4分)をはかりました。

大人が代わりにやった子32.5秒
大人に教えてもらって自分でやった子80.5秒
大人が何もしなかった子63.5秒

次の課題(開かない箱)に取り組んだ時間のまん中の値(棒は100秒を右はしとした長さ)。Leonard et al. (2021) の著者公開原稿より作成

直前に大人が代わりにやってしまった子が次の課題に取り組んだ時間は、教えてもらって自分でやった子の半分以下、何もされなかった子とくらべても約半分でした。パズルと箱はまったく別のものなのに、です。

同じ論文には、親子34組(子どもは4〜8歳)を観察した調査ものっています。むずかしいパズルで親が代わりにやる回数が多い家庭ほど、親から見た子どもの「ねばり強さ」が低いという関係がありました。

玄関で大あわてで通園かばんにタオルやコップをつめるパパと、その横でぼんやり立っている子供のドット絵イラスト
この実験から言えることと、言えないことを分けておきます。言えるのは、目の前で大人に代わられた直後、4〜5歳の子は次のことをあきらめやすくなった、ということです。相手ははじめて会う大人で、見ているのは直後の1回だけ。「親が準備をしていると、自立心が育たない」と証明されたわけではありません。また、「教える」と「何もしない」のあいだには、はっきりした差はありませんでした。悪かったのは「手伝うこと」ではなく、「取り上げること」です。

長い目で見た研究もあります。アメリカのバージニア大学のWhiteらは2019年、小児科の専門誌で、子ども9,971人の記録を分析しました。小学校に入る前の学年(アメリカの幼稚園)で家の手伝いをよくしていた子ほど、小学3年生のときに「勉強も友だちづきあいもうまくやれている」と自分で感じていて、算数の点も高いという関係がありました。オーストラリアのラ・トローブ大学の研究(Tepperら、2022年、5〜13歳の子の親207人)でも、自分の身のまわりのことを少ない助けでできている子ほど、覚えておく力やがまんする力の点が高くなっていました。

どちらも「関係があった」という研究で、手伝いをさせたからそうなった、とまでは言えません。もともとしっかりした子が、手伝いもよくしているだけかもしれません。それでも、自分のことを自分でする経験が、あとの育ちと同じ方向を向いていることは、くり返し報告されています。

どうやって自分でやるようになる?——助けを少しずつ引いていく

3つ目の問いが、いちばん大事です。「自分でやりなさい」と言うだけでは、子どもは動きません。かといって全部やってしまえば、いつまでも親の仕事です。そのあいだを、どうつなぐのでしょうか。

「足場かけ」という教え方

この問いに50年前に答えを出した、有名な研究があります。イギリスのノッティンガム大学のDavid Woodと、Jerome Bruner、Gail Rossが1976年に発表した研究です。3歳・4歳・5歳の子ども10人ずつ、合わせて30人に、21個の積み木でピラミッドを組み立ててもらいました。1人ではできないむずかしさの課題で、大人が1人、横について教えます。

教える大人は、あらかじめ次のきまりを決めていました。

  • できるだけ、子ども自身にやらせる
  • 助けるときは、まず言葉で。それで通じなかったときだけ、もっと直接に手を貸す
  • 子どもがうまくいったか、つまずいたかを見て、次の助けの大きさを決める

Woodらは、このような助け方を、建物を建てるときに組む足場にたとえて「足場かけ」と呼びました。1人ではとどかないところに手がとどくようにするための、かりの支えです。建物ができたら、足場は外します。

この研究でおもしろいのは、年齢によって、必要な助けがまったくちがったことです。

3歳18%
4歳40%
5歳57%

大人が言葉で教えたとき、それがうまく通じた割合。Wood, Bruner & Ross (1976) より作成

言葉で教えて通じた割合は、3歳で18%、4歳で40%、5歳で57%。やって見せた場合は、それぞれ40%、63%、80%と、どの年齢でも言葉より高くなりました。大人がじかに手を出した回数は、3歳では4歳の2倍、5歳の4倍でした。

Woodらは、大人の役目を次のようにまとめています。4歳の子には「言葉でうながして、ちがっていたら直す人」。5歳の子には「できたかどうかを確かめる人」。年中は、ちょうどこの2つのあいだです。「手を出す人」の時期はもう終わりかけていて、「言葉でうながす人」から「確かめる人」へ移っていく途中にいます。

30人の小さな研究で、家の朝の支度を調べたものではありません。それでも、「全部やる」と「全部まかせる」のあいだに、手を出す→やって見せる→言葉でうながす→確かめるだけ、という段があることを教えてくれます。子どもが自分でやるようになるのは、ある日とつぜんではなく、この段を1つずつ下りていった先です。

忘れるのは、「知らない」からではない

もうひとつ、親が知っておくと楽になることがあります。「毎日やっているのに、なぜ言わないとやらないのか」の答えです。

イギリスのハートフォードシャー大学のLia Kvavilashviliらは2001年、心理学の専門誌Developmental Psychologyで、「あとでやることを覚えておく力」の実験を発表しました。4歳・5歳・7歳の子どもに、絵カードの名前を次々に言ってもらいます。そのとちゅうで、「動物のカードが出たら、箱にかくしてね」とたのんでおきます。動物のカードは4回出てきます。

  • 4回とも思い出せた子は、4歳で40人中15人、5歳で40人中20人、7歳で40人中30人
  • 4回とも忘れた子は、4歳で40人中18人、5歳で15人、7歳で9人
  • 別の実験では、4回とも忘れた子に「何をするんだったっけ?」と聞くと、87%が正しく答えられた

つまり、4〜5歳の子は、やることを知らないのではなく、その場面で自分から思い出すのが苦手なのです。別のことに夢中になっていると、なおさら思い出せません。朝、テレビの前でかたまっている子は、まさにこの状態です。

では、どうすれば思い出せるのでしょうか。5歳と7歳の子ども160人の実験(Ryderら、2022年)では、目当ての物によく似た絵のカードを手がかりとして見せると、思い出せる回数がふえました。似ていない絵や、関係のうすい絵では効果がありませんでした。

ここから、「したく表」の作り方が見えてきます。文字や記号ではなく、その子が実際に使っているタオルやコップによく似た絵(できれば写真)を、支度をする場所にはります。親が毎朝「タオルは?コップは?」と言うかわりに、表に思い出させてもらいます。

チェック表は、子どもだましの道具ではありません。ハーバード大学のAtul Gawandeらのチームは2009年、医学誌New England Journal of Medicineで、世界8つの病院で手術の前後に19項目のチェック表を使った結果を発表しました(Haynesら)。手術を受けた患者の死亡率は1.5%から0.8%に、合併症は11.0%から7.0%に下がりました。何千回も手術をしてきた医師でも、表があると抜けがへります。4歳の子が表にたよるのは、はずかしいことでも、甘やかしでもありません。

経営学のヒント:「相手が覚えていないのは、自分が教えなかったのだ」

会社で新人に仕事を教えるとき、世界中の工場で使われてきた型があります。TWI(企業内訓練)の「仕事の教え方」です。第二次世界大戦中のアメリカで、経験のない人たちに短い期間で仕事を覚えてもらうために作られ、戦後の日本にも入ってきて、製造業の現場に広まりました。

教え方は、4つの段階に分かれています。

  1. 習う準備をさせる。気楽にさせる。何の作業かを話す。知っていることを聞く
  2. 作業を説明する。ひとつずつ、やって見せながら話す。いちどにたくさん教えない
  3. やらせてみる。本人にやらせて、まちがいを直す。分かったと確かめられるまで続ける
  4. 教えたあとを見る。ひとりで仕事につかせる。ときどき見に行く。だんだん見る回数をへらす

そして、この教え方には有名な標語があります。

「相手が覚えていないのは、自分が教えなかったのだ。」

きびしい言葉ですが、教える側を責めるためのものではありません。「何度言ったら分かるの」と相手のせいにしているあいだは、何も変わらない。教え方のほうを見直せば、打つ手が見つかる、という意味です。

夜のリビングで、タオルのたたみ方をやって見せるパパと、同じタオルを持って真剣にまねをする子供のドット絵イラスト

ふり返ってみると、子どもに園の準備を「教えた」ことはあったでしょうか。毎朝、親がやっているのを子どもは横で見ていた(見ていなかった)だけで、タオルのたたみ方も、コップをどのふくろに入れるかも、いちども教わっていないかもしれません。それなら、できなくて当たり前です。

4つの段階は、さきほどの「足場かけ」とそのまま重なります。やって見せる→やらせて直す→ひとりでやらせて見に行く→見る回数をへらす。工場の教え方と、発達心理学の実験が、同じ道すじにたどり着いています。そして、教えるのに向いているのは、急いでいる朝ではなく、時間のある前の晩です。

今日からできること

研究と、仕事の教え方の型をもとにした進め方です。「したく表」に目当ての物に似た絵を使う点は上の実験にもとづきますが、ほかは考え方を家庭向けに置きかえた工夫で、この手順そのものの効果を確かめた研究があるわけではありません。

  1. まず、1つだけわたす。全部いっぺんにまかせません。「タオルをかばんに入れる」だけ、のように、いちばんかんたんな1つをえらびます。それが続くようになったら、2つ目を足します。
  2. 前の晩に、やって見せる。「これから、タオルの係をおねがいするね。見ててね」。ゆっくり1回やって見せて、次に子どもにやってもらいます。まちがえたら、その場でいっしょに直します。朝ではなく、ねる前の落ち着いた時間にします。
  3. 「したく表」を、絵で作る。その子のタオル、コップ、ぼうしの写真や、よく似た絵をならべます。終わったらマグネットを動かす、シールをはるなど、「できた」が見える形にします。はる場所は、支度をするところの、子どもの目の高さです。
  4. 物の置き場所を、子どもの手のとどく高さに決める。タオルがたんすの上の段にあったら、自分ではできません。かばん、タオル、コップを1か所にまとめます。場所の作り方は、環境の工夫の記事にくわしく書きました。
  5. 朝は、助けを小さいほうから出す。まず何も言わずに待つ。動かなければ「表を見てごらん」と指さす。それでも止まっていたら「次はコップだね」と言葉で。手を出すのは最後です。やっている最中に口や手を出さないことの大事さは、手伝いすぎの記事で書きました。
  6. 最後に、親が確かめる。「ぜんぶ入ったかな。いっしょに見よう」。わすれ物があっても、責めずに入れ直してもらいます。確かめるのは、まかせていないからではありません。5歳の子に対する大人の役目は「確かめる人」だと、研究にも書かれています。
かばんを背負い、ぼうしをかぶった子供が、したく表の最後のマグネットを動かしている。玄関でパパがばんざいしているドット絵イラスト

うまくいかない日は、かならずあります。ねむい朝、きげんの悪い朝は、助けを1段もどしてかまいません。足場は、いつでも組み直せます。どうしても時間がない日は、とちゅうで取り上げるのではなく、はじめに「今日はパパがやるね。あしたはおねがいね」と言ってから、親がやります。

連絡帳のサインや、水とうにお茶を入れることなど、親にしかできないことは親の仕事のままで大丈夫です。全部を子どもにわたすのが目標ではありません。子どもにできることを、子どもの仕事にもどす。それだけで、朝の親の手は少しあき、子どもには「自分でやった」が1つ残ります。

まとめ

  • 親が全部やるものではない。国の幼稚園教育要領・保育所保育指針は、「生活に必要な活動を自分でする」「見通しをもって行動する」をねらいにし、育ってほしい姿に「自立心」をあげている
  • 着がえが一人でできる子は、4歳で93.8%、5歳で97.2%(ベネッセ、2022年)。アメリカの発達の目安では、5歳で「かんたんな家の手伝いをする」(CDC、2022年)
  • 大人が代わりにやってしまうと、4〜5歳の子が次の課題に取り組む時間は、教えて自分でやらせた子の半分以下だった(Leonard et al., 2021)
  • 家の手伝いをよくしていた子は、小学3年生での自己評価や算数の点が高かった(White et al., 2019)。ただし、原因と結果は言い切れない
  • 助けは、手を出す→やって見せる→言葉でうながす→確かめるだけ、と小さくしていく。4歳には「うながす人」、5歳には「確かめる人」(Wood, Bruner & Ross, 1976)
  • 4〜5歳は、やることを知らないのではなく、その場で思い出すのが苦手(Kvavilashvili et al., 2001)。目当ての物に似た絵の手がかりが助けになる(Ryder et al., 2022)
  • 「相手が覚えていないのは、自分が教えなかったのだ」。前の晩に、1つだけ、やって見せるところから