「お片付けしようか」「だってパパも出しっぱなしじゃん」。「もう寝る時間だよ」「まだ眠くないもん。パパだって起きてるでしょ」。5歳になって、言い返しがどんどん上手になってきました。理屈が通っている分、こっちもカチンときて、つい声が大きくなる。これは反抗期なのか、しつけがうまくいっていないのか。今回は、幼児が親にどう逆らうのかを年齢ごとに調べた研究と、親の返し方の研究から調べました。

先に分かったことを書きます。
- 年齢とともに、逆らい方は「上手」になっていきます。無視やかんしゃくが減り、「いや」と言う・交渉する、が増える。これは発達の研究で確かめられている流れでした。
- あとの問題につながっていたのは、「下手な逆らい方」だけ。交渉のような逆らい方は、問題とは結びついていませんでした。
- 「5歳は中間反抗期」という言い方の、学術的な根拠は見つかりませんでした。
だから、口答えをゼロにするのを目標にしなくていい。ただし、言い方や、守ってほしいことは伝えていい。その分け方を、研究をもとに考えていきます。
5歳は「反抗期」?言葉の出どころを調べた
まず、よく聞く言葉から確かめました。辞典を見ると、「反抗期」は第一反抗期(幼児期)と第二反抗期(思春期)の2つに分ける考え方が一般的とされています(改訂新版 世界大百科事典)。第一反抗期の時期は、「おおよそ2歳から4歳」(同)、「3歳ごろ」(日本大百科全書)、「3〜4歳」(日本国語大辞典)と、辞典によって少しずつちがいます。
ネットでよく見る「中間反抗期」は、子育て情報のサイトで「俗に」そう呼ばれる、と紹介されている言葉で、時期は小学校の低学年〜中学年(9歳前後)とされていました。「5歳は中間反抗期」と言い切る学術的な資料は、今回は見つけられませんでした。
つまり、5歳の口答えは、「反抗期だからしかたない」とも「反抗期でもないのにおかしい」とも、言葉の定義からは決められません。そこで、名前ではなく、中身を調べた研究を見ていきます。
年齢とともに、逆らい方は「上手」になる
心理学者のクチンスキーとコチャンスカの研究(1990年)は、母親と子ども51組を、子どもが1歳半〜3歳半のときと、5歳のときの2回観察しました。子どもが母親の言うことを聞かないとき、どんなやり方をしているかを分けて数えています。
- 減ったもの:直接の反抗(かんしゃく・わざと逆のことをする)、受け身の不従順(聞こえないふり・無視)
- 増えたもの:単純な拒否(「いや」「やらない」と言う)、交渉(理由を言う・条件を出す・別の案を出す)
そして大事なのが、母親の言うことに従う割合そのものは、幼児期から5歳まで変わらなかったという点です。5歳になって「聞かなくなった」のではなく、聞かないときのやり方が、無視やかんしゃくから、言葉で言い返すやり方に変わっていた、ということになります。
さらに、あとで行動の問題があると評価されることを予測したのは、「下手な」逆らい方だけでした。交渉や「いや」と言うことは、問題とは結びついていませんでした。同じ著者の学会発表の原稿には、うまくいっている家庭でも、親の頼みや禁止に子どもが従わない割合は40〜50%にもなるという報告がある、とも書かれています。
別の研究(Kochanska ら、2001年)でも、子どもが心から従う割合は、2歳ごろまでぐんと伸びたあと、3歳台後半(45か月)で57%と横ばいになっていました。「言えばすぐ聞く子」は、研究の上でも半分くらい、と考えてよさそうです。
口答えは、自分で決めたい気持ちのあらわれ
1〜2歳の子を調べた研究(Dix ら、2007年)は、幼いころの親への抵抗は、悪い子育てや親子関係のこじれではなく、子どもが「自分で物事を動かしたい」という動機のあらわれであることが多いと結論しています。5歳の研究ではありませんが、理屈をこねる口答えも、その延長にあると見ることはできそうです。
子どもの抵抗についての研究をまとめた論文には、子どもの抵抗は大人の自己主張と変わらず、人間がもつ「自分で決めたい」という普遍的な動機のあらわれだ、という考え方も紹介されています。そして、問題につながるのは、社会的に未熟な、あるいは感情をおさえられない形の抵抗だけだ、としています。

言い返されたとき、親はどう返す?研究で分かっていること
1. 指示は、短く・具体的に・1つずつ
3〜7歳の子と親204組のやりとりを観察した研究(2025年)では、具体的でまっすぐな指示のほうが、遠回しな指示より、子どもが従う確率がずっと高くなっていました。一方で、指示の回数が多いほど、従う割合は下がっていました。論文では、立て続けに次々と出す「早撃ち」の指示も取り上げられています。
ここで言う「まっすぐな指示」は、命令口調という意味ではありません。研究者は、具体的で、その子の発達に合っていて、「何をすればいいか」を前向きな言葉で伝えるものとしています。「ちゃんとしなさい」ではなく「ブロックを箱に入れてね」。「走らない!」ではなく「歩こうね」。
2. 理由の説明だけでは、従うとはかぎらない
意外だったのは、幼児6人を1人ずつくわしく調べた研究(Wilder ら、2010年)で、指示に理由をそえても、6人全員で従う割合は上がらなかったことです。人数がとても少ない研究なので、「理由を言っても意味がない」とまでは言えません。ただ、「ちゃんと説明すれば分かってくれるはず」と、説明を重ねるほど言い合いが長くなる経験は、私にもあります。理由は短く1回、そのあとは何をするかに戻る、くらいがよさそうです。
3. 気持ちを言葉にして受けとめる
「Tuning in to Kids」という親向けプログラムの試験では、4〜5歳の子の親216人を、プログラムを受けるグループと、待つグループにくじ引きで分けました。プログラムは、子どもの気持ちに気づいて言葉にし、受けとめる関わりを練習するものです。受けたグループでは、子どもの気持ちの理解が進み、親と先生の両方から、子どもの問題行動が減ったと報告されました。
親向けプログラム77件の評価をまとめた研究(Kaminski ら、2008年)でも、効果が大きかった内容として、親子の前向きなやりとりを増やすことと、気持ちを伝え合う力が挙げられていました。
4. 怒鳴る・叩くは、その場でも効かず、あとに残りやすい
アメリカ小児科学会は2018年の声明で、怒鳴ったり、恥をかかせたりするしつけは、短期的にはほとんど効果がなく、長期的には効果がないとしています。
叩くこと(おしりを叩くなど)については、16万人以上の子どもの研究をまとめた分析(Gershoff と Grogan-Kaylor、2016年)があります。
叩いても、その場で言うことを聞くこととの関連ははっきりせず、一方で攻撃性や親子関係の悪化などとは関連していました。日本でも、3歳半で叩かれていた子は、5歳半で行動の問題が多くなる関連が、約3万人の調査(Okuzono ら、2017年)で報告されています。
怒鳴ることだけを、幼児で長く追った研究は、今回は見つけられませんでした。よく引用される「きつい言葉のしつけが問題行動を増やす」研究(2014年)は13歳が対象で、子どもの問題行動が親のきつい言葉を増やす、逆向きの関係も見つかっています。売り言葉に買い言葉は、どちらからでも始まる、ということかもしれません。

経営学のヒント:「離脱」より「発言」を選んでくれている
経済学者アルバート・ハーシュマンの『離脱・発言・忠誠』(1970年)は、組織や商品に不満をもった人が取る道を2つに分けました。お客さんが買うのをやめる、メンバーが組織を去るのが「離脱(イグジット)」。不満を直接、経営側に伝えるのが「発言(ボイス)」です。ハーシュマンは発言を、逃げ出すのではなく、変えようとするあらゆる試みと定義し、それはかすかな不平から激しい抗議まで、段階のある「やっかいな」ものだとも書いています。
会社にとって、文句を言ってくるお客さんは、だまって去っていくお客さんより、ある意味ありがたい存在です。何が不満なのかが分かり、直すチャンスがあるからです。
5歳の口答えも、そう見ることができそうです。クチンスキーらの研究では、年齢とともに減っていったのは無視や聞こえないふり、つまり言葉を使わずに「離脱」するような逆らい方でした。かわりに増えたのが、「いや」と言う・交渉する、つまり「発言」です。子どもは、だまって離れるかわりに、言葉で変えようとしてくれている、とも言えます。
ただし、会社がお客さんの声を全部そのとおりにしないのと同じで、親も全部を受け入れる必要はありません。私が分けておきたいのは、この3つです。
- 聞く:何が不満なのか(「まだ遊びたかったんだね」)
- 変えられる:順番や方法(「あと1回遊んだら片づける?それとも今から一緒に?」)
- 変えない:安全や約束(寝る時間、道路を走らない など)
そして、言い方については別に伝えます。「パパも出しっぱなしじゃん」は、内容としては正しいこともあります。それは「そうだね、パパも片づける」と受けとめて、「でも、その言い方だとパパは悲しいな」と、言い方だけを分けて返す。発言の窓口は開けたまま、ルールは守る。理想どおりにはいきませんが、目指す形としてはこれかな、と思っています。
今日からできること
次の手順そのものを家庭で試して、口答えが減ると確かめた研究があるわけではありません。研究から分かったことを、家で使える形にした私の整理です。
- 指示は1回、具体的に。「ちゃんとして」ではなく「靴をそろえてね」。立て続けに言わない。
- 言い返されたら、まず気持ちを一言で返す。「まだ遊びたかったんだね」。正しいかどうかの議論は、そのあと。
- 変えていいことは、選ばせる。「青と緑、どっちのシャツにする?」「先にお風呂?歯みがき?」。
- 変えないことは、短く同じ言葉で。理由は1回だけ。何度も説明し直さない。
- 言い方は、内容と分けて伝える。「言いたいことは分かった。でもその言い方は悲しい」。
- カッとしたら、自分が離れる。怒鳴りそうになったら「パパ、ちょっとお水飲んでくる」。叩く・怒鳴るは、その場でも効きにくい。
- 落ち着いたら、言い返しが上手だったことも認める。「さっきの、ちゃんと理由を言えてたね」。

まとめ
- 「反抗期」は幼児期と思春期の2つに分けるのが一般的。「5歳は中間反抗期」の学術的な根拠は見つからなかった
- 年齢とともに、無視やかんしゃくが減り、「いや」と言う・交渉するが増える。従う割合そのものは5歳まで変わらなかった
- あとの問題につながっていたのは「下手な逆らい方」だけ。言い返しは、むしろ上手な逆らい方
- 指示は具体的に1つずつ。理由の説明だけでは従うとはかぎらない。気持ちを受けとめる関わりは問題行動を減らした報告がある
- 怒鳴る・叩くは、その場で聞かせる効果がはっきりせず、攻撃性や親子関係の悪化と関連していた
口答えが上手になったのは、言葉で親を動かそうとしている証拠でもありました。全部に応えなくていい。でも、「言っても聞いてもらえない」と思わせて、だまって離れていくほうに追いやらないこと。それが、5歳の言い返しとの付き合い方なのかもしれません。
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心から従う割合:Kochanska G. et al. (2001) Child Development
抵抗は自分で動かしたい気持ち:Dix T. et al. (2007)、子どもの抵抗についての論文(PMC6366431)
指示の出し方:親子204組の観察研究(2025年、PMC12362398)、理由をそえる指示:Wilder D.A. et al. (2010)
気持ちを受けとめる関わり:Havighurst S.S. et al. (2010) Tuning in to Kids、Kaminski J.W. et al. (2008)
怒鳴る・叩く:アメリカ小児科学会(2018)、Gershoff E.T., Grogan-Kaylor A. (2016)、Okuzono S. et al. (2017)、Wang M.T., Kenny S. (2014)
反抗期の言葉:コトバンク「反抗期」(改訂新版 世界大百科事典・日本大百科全書・精選版 日本国語大辞典)
離脱と発言:Hirschman A.O. (1970) Exit, Voice, and Loyalty. Harvard University Press。企業や組織についての本で、子育ての研究ではありません。