「アイス食べたい!」「今ないよ」「アイス食べたいの!!」「お店、もうしまってるしな……」「アイス食べたい!!」。おでかけでも同じです。「水族館行きたい!」「今月は仕事で行ける日がないんだ。来月行こうね」「うん」。ほっとした3秒後に、「水族館行きたい!」。……聞いてた? こわれたラジオのように、同じ言葉がえんえんと流れてきます。説明しても、もう話を聞いてくれません。こちらの頭がおかしくなりそうです。子どもの中では何が起きているのでしょうか。本当に聞いていないのでしょうか。どう返せばいいのでしょうか。時間のことばの研究、園児の実験、そしてお店の「品切れ」の調査から調べました。

子どもの中で、何が起きているのか
「来月」は、4〜5歳にはまだ「遠さ」のない言葉
「来月行こうね」「うん」のあとに、すぐ「行きたい!」。ここには、時間のことばの問題がかくれています。
アメリカのオーバリン大学のWilliam Friedmanは2000年、発達心理学の専門誌Child Developmentに、4歳から10歳の子ども261人を調べた4つの研究を発表しました。「今日のあとのほう」から「ほぼ1年先」までの出来事について、どのくらい先のことかを答えてもらっています。
- 4歳:出来事までの遠さを、区別できなかった
- 5歳:数週間〜数か月先のことと、もっと先のことは区別できた。ただし、「もうすぐのこと」と「このあいだのこと」を取りちがえた
- 8〜10歳:1年のこよみを思いうかべて、正しく答えられるようになった
別の研究もあります。Katharine Tillmanらは2017年、専門誌Cognitive Psychologyで、3歳から8歳の子に「きのう」「あした」「先週」などの言葉を1本の線の上にならべてもらいました。「きのうは前のこと、あしたは先のこと」と、その順番は、4〜6歳で分かるようになっていました。ところが、「どのくらいはなれているか」が分かるのは7歳よりあとでした。
同じTillmanとDavid Barnerの2015年の研究では、「分」「時間」「日」「週」「月」「年」といった言葉について、小学校に上がる前の子は、どちらが長いかの順番は見当がついても、実際の長さはほとんど分かっていませんでした。
こう考えると、あの「うん」の意味が変わってきます。子どもは「水族館には行ける」ことは受け取りました。でも「来月」は、「あした」とも「ずっと先」とも区別のつかない、中身のない言葉かもしれません。大人は「いつ行くか」に答えたつもりでも、子どもにとっては、まだ答えをもらっていないのと同じです。だから、もう一度言います。「水族館行きたい!」。
ほしい物が手に入らないとき、言葉でうまく頼める子は少ない
次は「食べたいの!!」のほうです。アメリカのカリフォルニア州立大学ノースリッジ校のFahmieらは2020年、応用行動分析の専門誌Journal of Applied Behavior Analysisに、園に通う4.1歳から5.9歳の子ども21人の実験を発表しました。言葉のおくれで支援を受けている1人をのぞいて、診断などの記録のない子どもたちです。
遊んでいる子に「これは〇〇ちゃんの番だよ」と言って、おもちゃを取り上げて友だちにわたす。こうした場面を短い時間つくって、子どもの様子を見ました。
1つの場面だけで反応した13人のうち、11人は「おもちゃを取り上げられた場面」でした。ほしい物が手に入らないと、年中〜年長の子の大半は、何かしらこまった行動が出る。そして、そのとき言葉でうまく頼める子は、まだ少ない。同じ言葉を大きな声でくり返すのは、この年ごろの子が持っている数少ない手のひとつ、と見ることができます。
「聞いていない」のかどうかは、実は分かっていない
では、子どもは親の返事を聞いていないのでしょうか。調べたところ、4〜5歳の子が、ことわられたあとに同じお願いをくり返す理由を直接しらべた研究は、見つかりませんでした。
近いものでは、もっと小さい子の実験があります。Grosseらが2010年に専門誌Developmental Psychologyに発表した研究では、1歳半から2歳半の子は、お願いがまちがって伝わったときは言い直しました。一方、正しく伝わったうえでもらえなかったときは、言い直しませんでした。2歳の子でも、「伝わっていない」と「伝わったけれどだめだった」を分けているのです。
4〜5歳にそのまま当てはめることはできません。ここからは私の考えです。年中の子が同じ言葉をくり返すのは、耳に入っていないからではなさそうです。「ほしい気持ち」はことわられても消えないこと、そして「来月」「あとで」が答えとして受け取れていないこと。この2つが重なっているのではないでしょうか。
どう返せばいいのか
「だめ」だけで終わらせず、「かわり」か「いつなら」をつける
ことわり方をくらべた実験が、1つだけ見つかりました。Maceらが2011年にJournal of Applied Behavior Analysisに発表した研究です。最初にことわっておくと、対象は13歳の自閉症の男の子1人で、年中の子ではありません。「パソコンを使いたい」というお願いを、3つのやり方でことわりました。
- 「だめ」+理由を説明する:こまった行動は、ずっと多いままだった
- 「だめ」+かわりの好きな遊びにさそう:こまった行動は、一度も出なかった
- 「いいよ、このプリントが終わったらね」:軽い文句や大きな声は出たが、それより強い行動は出なかった
たった1人の結果なので、年中の子にも同じことが起きるとは言えません。それでも、「理由をくわしく説明すれば分かってくれる」とは限らないこと、「かわりにできること」や「いつならできるか」をいっしょにわたすやり方があることは、手がかりになります。「今ないよ」「お店しまってるしな」は、どちらも「ない理由」の説明です。子どもには、次にどうすればいいのかが見えません。
「待って」「だめ」を受け入れる練習は、園児でもできる
「パパ見て見て」の記事でも紹介したHanleyらの2007年の取り組みでは、3歳から5歳の園児16人に、「待って」と言われたら「いいよ」と言って30秒待つことを教えました。待っているあいだは、「しずかに待てば、ほしいものがもらえる」ととなえます。ただ、このときは「待つ」までで、「だめ」と言われたときの練習は、これからの課題とされていました。
そこに取り組んだのが、LuczynskiとHanleyの2013年の研究です。学校でつまずく心配があるとされた園児6人に、上手な頼み方といっしょに、待たされること・ことわられることを受け入れる練習をしました。教えなかった6人とくらべて、技が身につき、こまった行動を防げたと報告されています(くわしい数字は、今回読めた要旨には書かれていませんでした)。
翌年の続きの研究では、教えるのをやめて3か月たっても、技の多くは残っていました。ただし、別の先生の前でも同じようにできたのは、その先生が「何を教えたか」「どう教えたか」を知ってからでした。家で言えば、パパとママ、おじいちゃんおばあちゃんで、返し方をそろえておくことに当たります。
気持ちを言葉にして返す
「アイス、食べたかったね」。子どもの気持ちを言葉にして返すやり方は、育児の本でよくすすめられています。根拠はあるのでしょうか。
オーストラリアのHavighurstらは2010年、専門誌Journal of Child Psychology and Psychiatryに、4歳から5歳の子の親216人を2つのグループに分けた試験を発表しました。片方の親は、子どもの気持ちに気づき、言葉にして受け止める方法を、6回の講座で学びました。学んだグループでは、親の受け止め方が変わり、親と先生の両方が、子どものこまった行動がへったと答えました。
ただ、期待しすぎないほうがいい理由もあります。同じ考え方の講座33の研究をまとめた2023年の分析では、子どものこまった行動への効果は「小〜中くらい」でした。この講座の研究25のうち23に、講座を作った本人が著者として入っています。そして、「食べたかったね」の一言だけで、おねだりのくり返しがへるかを確かめた実験は、見つかりませんでした。

根負けして応じると、どうなるのか
「ときどき折れると、ますますしつこくなる」。これもよく聞く話です。もとは動物の実験で、毎回ごほうびが出るより、ときどき出るほうが、やめにくくなるという結果があります。
ところが、ふつうの幼児のおねだりで、これを確かめた研究は見つかりませんでした。Lermanらが1996年に発表した、重い知的障害のある3人の治療の記録では、「ときどき応じてもらっていた行動のほうが消えにくい」とは言えない結果でした。
もうひとつ、「応じるのをやめると、いったんひどくなる」という話もあります。LermanとIwataは1995年、それまでに発表された113のデータを数えなおしました。
いったんひどくなったのは4回に1回ほどで、「かならず」ではありませんでした。そして、「応じない」だけで押し切るより、かわりのやり方を教えることと組み合わせたほうが、ひどくなりにくいという結果です。
ここからは私の考えです。気をつけたいのは、折れるかどうかより、「どんなときに願いがかなうか」だと思います。大きな声で10回くり返したときにだけアイスが出てくるなら、子どもが学ぶのは「10回言えば出てくる」です。かなえてあげられる願いは、ふつうの声で1回頼めたときに、早めにかなえる。かなえられない願いは、何回言われても同じ答えを返す。この2つを分けておくほうが、子どもにも分かりやすいはずです。
経営学のヒント:品切れのとき、「ありません」で終わらせない
「今ないよ」は、お店でいえば「品切れ」です。お客さんは、ほしい品がたなになかったとき、どうするのでしょうか。
Gruen、Corsten、Bharadwajの3人は2002年、世界の品切れの調査をまとめた報告書を出しました。もとになったのは、29か国・52の調査・買い物客およそ7万1千人の記録です。お店のたなから品物が切れている割合は、世界の平均で8.3%。そして、品切れに出あったお客さんの行動は、次のように分かれました。
「かわりの品にする」が合わせて45%、「あとで買う」が15%。お客さんの6割は、かわりの品か、待つことを受け入れています。のこりの4割は、別のお店に行くか、買うのをやめます。商品の分野によって差があり、別のお店に行く人は21〜43%でした。報告書は、ふつうのお店は品切れで売上のおよそ4%を失っている、と見つもっています。
だから、お店は品切れのたなを空っぽのままにしません。となりに似た品をならべたり、次に入る日を書いた札を出したりします(これは報告書の数字ではなく、私がお店で見かけるやり方です)。「ありません」で終わらせず、「かわり」と「いつなら」をわたすのです。
ここで、家の中を思い出してください。子どもは、お客さんとちがって、別のお店に行けません。アイスを出してくれる窓口は、パパとママしかありません。「今ないよ」と言われて、かわりも、次の入荷日も教えてもらえなければ、同じ窓口にもう一度ならぶしかないのです。こわれたラジオに見えていたものは、ほかに行き先のないお客さんなのかもしれません。

今日からできること
上の研究と、品切れの考え方をもとにした工夫です。家でこの手順そのものの効果を確かめた研究があるわけではありません。
- まず、聞こえたことを返す。「アイス、食べたいんだね」「水族館、行きたいんだね」。理由の説明より先に、お願いが届いたことを伝えます。
- 「ない」に「かわり」をつける。「アイスは今ないんだ。バナナかヨーグルトならあるよ。どっちにする?」。えらべる形にすると、次の一歩が見えます。
- 「いつなら」を、目に見える形にする。「来月」「こんど」は、まだ遠さの分からない言葉です。カレンダーの行く日にシールをはり、毎朝ひとつ、すぎた日に印をつけます。また言われたら、「どこにシールがあるかな」といっしょに見に行きます。
- 守れる約束だけをする。日が決まっていないのに「来月ね」と言うと、シールをはる場所がありません。「まだ決められないんだ。日曜日にカレンダーを見て、いっしょに決めよう」と、決める日のほうを約束します。
- 答えは短く、毎回同じ言葉で。くり返されるたびに説明を長くしても、子どもが受け取れる答えはふえません。「アイスは土曜日。今はバナナかヨーグルト」。同じ言葉を、おこらずに返します。
- ふつうの声で頼めたときに、かなえる。かなえられるお願いは、大きな声になる前に、早めに「いいよ」と言います。「今みたいに言ってくれると、分かりやすいよ」と伝えます。
- 家の大人で、返し方をそろえる。パパは「だめ」、ママは「いいよ」だと、子どもは窓口をかえてならびなおします。「アイスは土曜日」を、みんなが同じように言えるようにしておきます。

それでも、言われつづけてつらい日はあります。返事をしてから、少し場所をはなれて深呼吸するのは、にげではなく段取りです。
この記事で書いたのは、ほしい物や行きたい場所の「おねだり」のくり返しです。お願いと関係のない言葉を一日じゅうくり返す、気持ちの切りかえがむずかしくて生活にこまっている、といったときは、園の先生や小児科、市区町村の子育て相談に話してみてください。
まとめ
- 4歳は、先の出来事が「どのくらい先か」を区別できなかった。5歳でも、近い先のことと最近のことを取りちがえた(Friedman, 2000)。「来月ね」は、答えとして届いていないかもしれない
- 4〜5歳の園児21人の実験では、86%の子に、ほしい物が手に入らないなどの場面でこまった行動が出た。そのとき言葉でも上手に頼めた子は17%(Fahmie et al., 2020)
- 「聞いていないから、くり返す」のかどうかを4〜5歳で調べた研究は、見つからなかった
- 「だめ」に「かわり」や「いつなら」をつけるとこまった行動が出にくかった、という実験は、13歳の1人の結果(Mace et al., 2011)。手がかりにとどまる
- 気持ちを受け止める方法を親が学ぶ講座は、子どものこまった行動をへらした。効果は小〜中くらい(Havighurst et al., 2010 ほか)
- 応じるのをやめた直後にいったんひどくなったのは、113のデータの24%。かわりの行動を教えることと組み合わせると12%(Lerman & Iwata, 1995)
- 品切れに出あったお客さんの6割は、かわりの品か、あとで買うことを受け入れた(Gruen et al., 2002)。子どもは別のお店に行けない。「ない」で終わらせず、「かわり」と「いつなら」をわたす
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園児の実験:Fahmie et al. (2020) Journal of Applied Behavior Analysis
お願いの言い直し:Grosse, Behne, Carpenter & Tomasello (2010) Developmental Psychology
ことわり方の比較:Mace, Pratt, Prager & Pritchard (2011) Journal of Applied Behavior Analysis
「待つ」「だめ」を受け入れる練習:Hanley, Heal, Tiger & Ingvarsson (2007)/Luczynski & Hanley (2013)/Luczynski, Hanley & Rodriguez (2014)(どれも Journal of Applied Behavior Analysis)
気持ちを受け止める講座:Havighurst et al. (2010) Journal of Child Psychology and Psychiatry/Zahl-Olsen et al. (2023) Frontiers in Psychology
応じるのをやめたときの変化:Lerman & Iwata (1995)/Lerman, Iwata, Shore & Kahng (1996)(どちらも Journal of Applied Behavior Analysis)
品切れのときの買い物客:Gruen, Corsten & Bharadwaj (2002) Retail Out-of-Stocks(保存版)/Corsten & Gruen (2004) Harvard Business Review