夕ごはんの途中で、子どもが急に乱暴な言葉を口にする。思わず「そんな言葉、どこで覚えてきたの!」と声が出る。うちではそんな言葉づかいはしていないのに——年中の子と暮らしていると、ある日いきなりやってくる場面です。今回は、親が使っていない言葉を子どもが覚えてくる理由、「どこで覚えたの」と聞いても答えが返ってこない理由、そして言葉づかいを直していく方法を、大学の研究から調べました。

親が使っていなくても、子どもは「聞いているだけ」で覚える
まず、子どもは自分に向けて話された言葉だけを覚えるわけではありません。カリフォルニア大学サンタクルーズ校のNameera Akhtarらは2001年にChild Development誌で、2歳の子ども88人を調べた研究を発表しました。大人どうしが話しているのを横で聞いていただけの子も、直接教えてもらった子と同じくらい、新しい言葉を覚えていました(2歳6か月の子の場合)。
園の友達の影響も小さくありません。バージニア大学のAndrew Mashburnらが2009年に同じChild Development誌に発表した研究では、アメリカ11州の453クラスに通う4歳児1,812人を調べ、クラスの友達の話す力が高いほど、その子の言葉の力もよく伸びていました。これは乱暴な言葉づかいを調べた研究ではありませんが、年中の子の言葉が、家の外の友達からも育っていることを示しています。
「どこで覚えたの?」に、子どもは本当に答えられない
では、「どこで覚えてきたの!」と聞けば、出どころは分かるのでしょうか。オレゴン大学のMarjorie Taylorらは1994年にChild Development誌で、4〜5歳の子どもに新しい知識を教え、そのあと「いつから知っていた?」とたずねる実験を発表しました。すると子どもたちは、たったいま教わったばかりのことを「ずっと前から知ってた」と答えがちでした。動物の豆知識でも、理科の実験の知識でも、同じ結果でした。
新しい色の名前を教えた実験では、5歳の子は「これは今日初めて知った」と区別できましたが、4歳の子にはまだむずかしく、「いま教えているよ」とはっきり目立たせたときだけ区別しやすくなりました。
つまり、年中の子に「どこで覚えたの」と聞いても、ごまかしているのではなく、本当に覚えていないことが多いと考えられます。出どころを問いつめても、答えは出てきません。
悪い言葉を知っているのは、ふつうのこと
Jayらが、子どもと大人が実際に口にした言葉を記録した研究(2013年、American Journal of Psychology誌)では、1〜12歳の子どもの言葉を調べ、小学校に入るころには、大人が使うような悪い言葉の基本をすでに身につけていると結論しています。先ほどの解説では、悪い言葉は2歳ごろから出はじめ、小学校に入るまでに30〜40語を知っているとも書かれています。
叱るより、「言い方を変えられたとき」をほめる
では、どう直していけばよいのでしょうか。アムステルダム大学とオックスフォード大学のPatty Leijtenらは2019年、子どもの困った行動を減らすための親向けプログラムの研究を集めて分析しました(Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry誌)。154本のランダム化比較試験を調べ、プログラムで教えている26種類の関わり方のうち、どれが効果と結びついているかを確かめたものです。
効果が大きいプログラムに共通していたのは、26種類のうち3つだけでした。「よい行動に報いること」、そのなかでも「ほめること」、そして「行動に見合った結果を体験させること」です。
この研究は乱暴な言葉だけを調べたものではなく、かんしゃくや反抗などを広く扱っています。それでも方向ははっきりしています。「その言葉はダメ」と叱る回数を増やすより、ていねいに言えたときを見逃さずほめるほうが、研究の裏付けがあるということです。
経営学のヒント:文化は「リーダーが何に反応するか」で決まる
組織文化の研究で知られるマサチューセッツ工科大学(MIT)のEdgar Scheinは、リーダーが組織に文化を根づかせる方法として、6つの「一次的なしくみ」をあげています。その最初の2つが、「リーダーがふだん何に注目しているか」と「大きな出来事が起きたとき、リーダーがどう反応するか」です。ほかに「リーダー自身がお手本を見せること」も入っています。
社員は、壁に貼られた標語よりも、上司が何を見て、何に顔色を変えるかをよく見ています。失敗の報告に怒鳴る上司のもとでは、「報告しない文化」が育ちます。
家庭に置き換えると、親が大きく反応した言葉ほど、子どもにとって「これは特別な言葉なんだ」という目印になります。乱暴な言葉を言ったときだけ親が飛んでくるなら、その言葉は「親を動かせる言葉」として残るかもしれません。反対に、ていねいに言えたときに親がよく反応していれば、そちらが家の文化になっていきます。
今日からできる対処法
1と4は上の研究から言えること、2・3・5は研究の考え方をもとにした工夫です。
- 出どころを問いつめない。「どこで覚えたの」は、4歳の子には答えられない質問です。犯人さがしに使う力を、このあとの4つに回します。
- おどろいた顔をしないで、短く伝える。「その言葉は、言われた人がいやな気持ちになるよ。うちでは使わないよ」と、ふつうの声で1回だけ言います。長いお説教は、その言葉を目立たせてしまいます。
- かわりの言い方を渡す。乱暴な言葉は、怒りやくやしさを伝えたいときに出てきます。「くやしかったんだね。そういうときは『やめて』『いやだった』って言えるよ」と、同じ気持ちを伝える別の言葉を教えます。
- 言い換えられたら、すぐほめる。「いま『やめて』って言えたね」と、その場で伝えます。研究で効果と結びついていたのは、この「ほめる」でした(Leijtenら、2019年)。
- ふざけて言う言葉と、人を傷つける言葉を分ける。「うんち」のようなふざけ言葉は、「それはトイレで言おうね」と場所を決めるくらいで十分です。友達や家族に向けた、傷つける言葉だけははっきり止めます。
親の言葉づかいがお手本になるのは確かですが、子どもの言葉は親だけで決まるものではありません。乱暴な言葉が出てきたのは、家の外に世界が広がってきたしるしでもあります。「わたしの育て方が悪かったのか」と自分を責めるより、「使い分けを教える時期が来た」と考えるほうが、研究の内容に合っています。
まとめ
- 子どもは、横で聞いていただけの言葉も覚える(Akhtar et al., 2001)。園の友達の言葉も、子どもの言葉に影響する(Mashburn et al., 2009)
- 4〜5歳の子は、教わったばかりのことを「前から知ってた」と答えがち。「どこで覚えたの」には本当に答えられない(Taylor et al., 1994)
- 悪い言葉は小学校に入るまでにひととおり覚える。大事なのは、いつ・だれに言っていいかの使い分け(Jay & Jay, 2013)
- 154本の試験の分析で、効果と結びついていたのは「ほめること」と「行動に見合った結果」だった(Leijten et al., 2019)
- 文化はリーダーが何に反応するかで決まる(Schein)。乱暴な言葉に大きく反応するより、言い換えられたときに反応する
あわせて読みたい
「やってないよ」とすぐバレる嘘をつく子ども。叱る前に知っておきたいことを研究で調べた 保育園・幼稚園の保護者付き合い、無理に愛想よくすべき?研究で調べてみた 子供がわがままにならない接し方、を調べたら前提が違った 育児に真剣になりすぎて疲れないために。「ほどよい親」でいい理由を研究で調べた クエストログへ戻る 子どもへの声かけのもくじへ横で聞いて言葉を覚える:Akhtar, Jipson & Callanan (2001) Child Development
クラスの友達と言葉の力:Mashburn et al. (2009) Child Development
「前から知ってた」と答える:Taylor, Esbensen & Bennett (1994) Child Development
子どもと悪い言葉:Jay & Jay (2013) American Journal of Psychology/Jay & Janschewitz (2012) Association for Psychological Science
効果のある関わり方の分析:Leijten et al. (2019) Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry
組織文化を根づかせるしくみ:Edgar H. Schein『Organizational Culture and Leadership』(邦訳『組織文化とリーダーシップ』)