車に乗せようとすると、子どもが腕を組んでそっぽを向く。「これ、赤ちゃんのやつだからいや」「〇〇くんは、ふつうにすわってるもん」。スーパーまで5分の道。泣かせてまで乗せるのもな、と思って、そのまま座席にすわらせてしまう——もうすぐ5歳、体も大きくなってきた時期に、よくある場面です。近所だけなら、なくても大丈夫でしょうか。もう大人のシートベルトでいいのでしょうか。今回は、警察庁とJAFの調査、法律、小児科の学会の方針、アメリカの事故の研究から調べました。

5歳になると、3人に1人が使っていない
警察庁とJAF(日本自動車連盟)は毎年、チャイルドシートの使用状況を全国で調べています。2026年の調査は、5月に全国99か所で、6歳未満の子ども12,914人について行われました。
6歳未満の全体では84.0%が使っていました。ところが、5歳だけを見ると65.7%に下がります。使っていなかった5歳の子がどうしていたかというと、「車の座席にそのまますわっていた」が14.8%、「大人用のシートベルトをしていた」が14.3%でした。
つまり、「5歳になったら、なんとなくやめる」家庭がかなりあります。子どもが「〇〇くんは使ってない」と言うのも、うそではなさそうです。
もうひとつ、気になる数字があります。チャイルドシートを使っていた家庭でも、正しく取りつけられていたのは77.6%、子どもを正しくすわらせていたのは58.7%でした。使っていても、4割ほどは、すわらせ方に何かしらの問題があったことになります。
使っていないときの死亡の割合は、約5倍
では、使わないとどのくらい危ないのでしょうか。警察庁は、令和3年から7年までの5年間に、車に乗っていて事故にあい、けがをしたり亡くなったりした6歳未満の子どもについて、数字をまとめています。
事故にあった子のうち亡くなった子の割合は、正しく使っていた子で0.11%、使っていなかった子で0.56%。約5.3倍です。
「もう大人のベルトでいい?」への答え
体が大きくなってきたから、大人のシートベルトでいいのでは。これについては、アメリカに大きな研究があります。
フィラデルフィア小児病院のDennis Durbinらは2003年、医学誌JAMA(アメリカ医師会の雑誌)で、事故にあった4〜7歳の子ども4,243人を調べた研究を発表しました。けがをした子の割合は、大人のシートベルトだけの子で1.95%、ジュニアシート(体を持ち上げてベルトの位置を合わせる座席)を使っていた子で0.77%でした。けがをする見こみは、ジュニアシートのほうが59%低いという結果です。
同じ病院のKristy Arbogastらが2009年に医学誌Pediatricsで発表した、4〜8歳の子ども7,151人の研究でも、ジュニアシートを使っていた子のけがの危険は、ベルトだけの子の0.55倍でした。
なぜ差が出るのでしょうか。大人用のシートベルトは、大人の体に合わせて作られています。体の小さい子がそのまましめると、ベルトが首やおなかにかかってしまいます。ジュニアシートは、ベルトが肩と腰の骨にかかるように、子どもの体の位置を合わせる道具です。
アメリカ小児科学会は2018年の方針で、ハーネスつきのシートは少なくとも4歳まで、ジュニアシートは少なくとも8歳まで、とすすめています。そして、「次の段階に進むたびに、守る力は少し下がる。だから、切りかえはできるだけおそくするように」と書いています。早く卒業することは、成長のしるしではないのです。
どちらも、事故にあった家庭の親への聞きとりをもとにした研究で、原因と結果を言い切れるものではありません。アメリカの車と道路での数字でもあります。それでも、「5歳で大人のベルト」が早すぎることは、どの資料もそろって示しています。
法律は6歳まで。目安は身長150cmまで
日本の法律(道路交通法)は、6歳未満の子どもを乗せるときは、チャイルドシートを使わなければならないと決めています。違反すると、運転者に1点がつきます。
使わなくてよい場合も決められていますが、中身は「けがや病気で使えない」「授乳やおむつがえなどの世話をしているあいだ」「バスやタクシー」「急いで病院に運ぶとき」などです。「近所だから」「子どもがいやがるから」は、ふくまれていません。
では、6歳になったらいらないのでしょうか。JAFは2024年9月、チャイルドシート(ジュニアシート)を使う目安を、それまでの身長140cm未満から、身長150cm未満に引き上げました。日本小児科学会も2024年12月、法律で決められた対象を「6歳未満」から「13歳未満および身長150cm未満」に広げるよう、警察庁にもとめる文書を出しています。警察庁自身も、6歳以上でも体格によってはチャイルドシートを使うよう呼びかけています。
経営学のヒント:「めったに起きない」と「起きたら終わり」を分けて考える
会社が危険にそなえるとき、よく使う表があります。リスクマトリクスと呼ばれるものです。経済産業省の製品安全の手引きも、リスクを「危害が起きる確率」と「危害のひどさ」の組み合わせと説明し、たてに「起きやすさ」、よこに「ひどさ」をとった表でものごとを整理しています。
この表のいいところは、2つをまぜないことです。人は、「めったに起きない」ことを「大丈夫」と感じます。でも、会社の安全の考え方では、めったに起きなくても、起きたら取り返しがつかないことは、別あつかいにして手をぬかないのが決まりです。月に1回のすり傷と、10年に1回の命にかかわる事故は、同じ物差しではかりません。
スーパーまでの5分で事故にあう確率は、たしかに低いでしょう。昨日も大丈夫だったし、その前の日も大丈夫でした。だから「今日も大丈夫」と感じます。でもこれは、「起きやすさ」の話だけをしています。「ひどさ」のほうは、5分の道でも1時間の道でも変わりません。
反対に、子どもが泣くことは、「よく起きるが、ひどくはない」ことです。「よく起きる小さなこまりごと」をさけるために、「めったに起きないが取り返しのつかないこと」へのそなえを外す。表に書いてみると、割に合わない取りかえだと分かります。
今日からできること
1と2は上の調査や法律から言えること、3は交通事故の研究機関の資料にもとづくこと、4と5は考え方をもとにした工夫です。
- 例外を作らない。「近所だけ」「今日だけ」「おばあちゃんの車だから」をなくします。きまりは、例外がないほうが子どもも受け入れやすくなります。「乗ったらカチッ。カチッとしたら出発」と、順番で覚えてもらいます。
- 取りつけとすわらせ方を見直す。使っている家庭でも、4割ほどはすわらせ方に問題がありました。肩のベルトがはずれていないか、ゆるんでいないか、取扱説明書で確かめます。体が大きくなってきゅうくつなら、やめるのではなく、体に合ったジュニアシートに切りかえます。
- 泣いても、走っているあいだは外さない。交通事故総合分析センターの資料は、泣いたからといって降ろすと、子どもは「泣けば降ろしてもらえる」と覚えてしまうと注意しています。長く乗る日は、泣きだす前に休けいをとります。
- 「赤ちゃんのやつ」という気持ちにこたえる。「これは赤ちゃん用じゃなくて、5歳の体に合わせた運転席みたいなやつだよ」。新しいジュニアシートを自分でえらばせる、座席の色を決めさせるなど、本人が決められるところを作ります。
- 親もかならずベルトをしめる。うしろの席の大人がベルトをしていないと、「なんでぼくだけ」になります。
嫌がる子を毎回なだめるのは、正直めんどうです。でも、5歳で使わなくなる家庭が3人に1人いるということは、ここが続けるかどうかの分かれ道だということです。あと何年かは続くものとして、きまりにしてしまうほうが、毎回の言い合いよりも楽になります。
まとめ
- チャイルドシートの使用率は、1〜4歳の86.9%から、5歳で65.7%に下がる。使っていても、正しくすわらせていたのは58.7%(警察庁・JAF、2026年調査)
- 事故で死傷した6歳未満の子のうち、亡くなった割合は、使っていなかった子が正しく使っていた子の約5.3倍(警察庁、令和3〜7年)
- 4〜7歳では、大人のベルトだけの子のけがは1.95%、ジュニアシートの子は0.77%(Durbin et al., 2003)
- アメリカ小児科学会は、ジュニアシートを少なくとも8歳まですすめ、切りかえはできるだけおそくするよう書いている(2018年)
- 法律の義務は6歳未満。「近所」「いやがる」は使わなくてよい理由に入っていない。JAFの目安は身長150cm未満
- 「めったに起きない」と「起きたら取り返しがつかない」は別。例外を作らず、きまりにする
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使用の有無と致死率:警察庁「チャイルドシート関連統計」
法律:道路交通法 第71条の3/道路交通法施行令 第26条の3の2
身長の目安:JAF ニュースリリース(2024年9月13日)/日本小児科学会 警察庁長官あて文書(2024年12月)
ジュニアシートとけが(4〜7歳):Durbin et al. (2003) JAMA
ジュニアシートとけが(4〜8歳):Arbogast et al. (2009) Pediatrics
アメリカ小児科学会の方針:Durbin & Hoffman (2018) Child Passenger Safety, Pediatrics
嫌がる子への対応:交通事故総合分析センター「イタルダインフォメーション No.145」
リスクの見方:経済産業省「リスクアセスメント・ハンドブック(実務編)」