べるぞね

スーパーのレジに並んでいると、子どもがパーカーのすそを引っぱる。「これ買って!」。目の高さには、お菓子がずらりと並んでいる。「今日は買わないよ」と言うと、その場で泣きだす。後ろの人の視線が気になって、結局かごに入れてしまう——年中の子と買い物に行くと、何度もくり返す場面です。今回は、おねだりがなぜあれほどしつこいのか、どう断ればいいのか、そもそもおねだりが起きにくくする方法はあるのかを、大学の研究から調べました。

スーパーのレジ前のお菓子の棚を指さしてパパの服を引っぱる子供と、買い物かごを持って困った顔のパパのドット絵イラスト

おねだりは、買い物の2回に1回で起きている

まず、おねだりはどのくらいふつうのことなのでしょうか。ミネソタ大学のO'Doughertyらは2006年にJournal of Nutrition Education and Behavior誌で、11のスーパーで子ども連れの買い物客を観察した研究を発表しました。

観察できた133組のうち、子どものほうから「買って」とねだったのは67組(50.4%)。ねだられた物の半分あまり(55.2%)は、お菓子やスナックでした。そして、大人はおねだりの47.8%に応じて買っていました。断るときにいちばん多かったのは、「理由を説明する」か「聞き流す」でした。

つまり、おねだりはどの家庭でも起きていて、しかもほぼ2回に1回は通っています。子どもの側から見れば、「ねだれば半分は買ってもらえる」ということです。あきらめずに言い続けるのは、子どもなりに筋の通った行動だと言えそうです。

目の前にあると、がまんはいちばんむずかしい

「がまんしなさい」と言っても聞かないのには、理由があります。スタンフォード大学のWalter MischelとEbbe Ebbesenは1970年、Journal of Personality and Social Psychology誌に、のちに「マシュマロ実験」と呼ばれる一連の研究の、最初の実験を発表しました。大学の幼稚園に通う3〜5歳の子ども32人に、「待てたら好きなほうのおやつをあげる」と伝えて、どれだけ待てるかを調べたものです。

研究者たちは最初、「ごほうびが目の前に見えているほうが、待つ理由を思い出せて長く待てる」と予想していました。ところが結果は逆で、ごほうびが目の前に見えているほど、子どもは待てませんでした。長く待てた子は、手で目をおおったり、歌をうたったり、手足で遊びを作ったりして、ごほうびから気をそらしていました。

お菓子の棚の前で「がまんしなさい」と言うのは、この実験でいえば、いちばん待ちにくい条件です。子どもの心が弱いのではなく、見えていること自体が、がまんをむずかしくしています。

「折れて買う」は、いちばん効かない方法だった

では、ほかの親はどう乗り切っているのでしょうか。ジョンズ・ホプキンス大学のHolly HenryとDina Borzekowskiは2011年にJournal of Children and Media誌で、3〜5歳の子を持つ母親64人に聞き取りをした研究を発表しました。

母親たちがあげた、おねだりの引き金は「パッケージ」「キャラクター」「コマーシャル」の3つでした。おねだりへの対処としては、次の10の方法が出てきました。

  • 折れて買う/どなる/聞き流す/気をそらす
  • 落ち着いて同じ答えを続ける/売り場を避ける
  • 話し合ってルールを決める/別の物ならいいと認める
  • 買う・買わないの理由を説明する/コマーシャルにふれる機会を減らす

母親たちがすすめた方法で多かったのは、「コマーシャルにふれる機会を減らす」(36%)と「理由を説明する」(35%)でした。反対に、「折れて買う」は、いちばん効かない方法のひとつとして、くり返しあげられました。

これは母親たちの実感を集めた研究で、方法どうしを実験で比べたものではありません。それでも、泣かれて買ったあとに「次はもっと大変になった」という経験は、多くの親に共通しているようです。この研究では、3〜5歳のあいだでも、年齢が上がるほどおねだりが増え、かけひきのようなねだり方も増えていました。

経営学のヒント:レジ前は「ついで買い」のために作られている

ここで、売る側の視点を見てみます。小売業では、どの棚のどの高さに何を置くかが、売上を左右する大事な技術です。レジ前は、並んで待つあいだに必ず目に入る場所なので、つい手が伸びる小さな商品が置かれます。

ケンブリッジ大学の研究チームは2018年、イングランド東部の1つの市にある33店舗のスーパーで、レジまわりに並ぶ食品を数えました(Public Health Nutrition誌)。のべ11,434点のうち、70.1%が、栄養の基準で「あまり健康的でない」に分類される食品でした。

同じチームは、売り場を変えると買い物がどう変わるかも調べています(2018年、PLoS Medicine誌)。イギリスでは2013〜2017年に、調べた大手スーパー9社のうち6社が、レジ前の健康的でない食品を減らす方針を取り入れました。約3万世帯の買い物の記録を分析すると、方針を入れた直後、レジ前の定番だったお菓子やポテトチップスの小袋の購入が17.3%減り、1年後も15.5%減ったままでした。

お客さんの意志の強さは変わっていません。変わったのは、棚の中身だけです。この研究には、どの売り場で選ばれたかまでは分からない、1年後の数字は分析のしかたでゆらぐ、といった限界がありますが、「何を買うかは、本人の意志より、目の前に何があるかで決まりやすい」ことを示しています。大人でもそうなのですから、子どもならなおさらです。売り場で泣かれるのは、しつけの失敗というより、売り場がそう作られているからだと考えられます。

家庭に置き換えると、子どもの意志をきたえるより先に、通る道と並ぶレジを選ぶほうが近道です。

今日からできる対処法

3と4は上の研究で親たちがあげていた方法、1・2・5は研究の考え方をもとにした工夫です。

  1. お菓子の棚を通らない。お菓子売り場の通路を避け、レジはお菓子の少ない列やセルフレジを選びます。見えなければ、がまんする必要そのものが生まれません。
  2. 店に入る前に、今日のルールを伝える。「今日はお菓子を買わない日」「今日は1つだけ選んでいい日」と、入口で先に言います。熱くなる前に決めておく考え方は、ゲームの切り替えの記事と同じです。
  3. 断るときは、短い理由を1つ。同じ答えをくり返す。「おうちにまだあるから、今日は買わないよ」。言い方を変えずに、落ち着いてくり返します。
  4. 泣かれてから買わない。泣いたあとに買うと、「泣けば買ってもらえる」が残ります。買ってもいい日なら、泣く前に「今日は1つね」と先に言ってしまいます。
  5. 役目を渡す。「にんじんを3本えらんで」「牛乳をかごに入れて」と、仕事をたのみます。手と目が別のことで忙しくなれば、お菓子から気がそれます。

それでも泣く日はあります。そのときは、かごを置いて、いったん店の外に出てもかまいません。周りの人は、こちらが思うほど気にしていませんし、同じ道を通ってきた親も多いはずです。

まとめ

  • 子ども連れの買い物の約半分でおねだりが起き、大人はその約半分に応じていた(O'Dougherty et al., 2006)
  • ごほうびが目の前に見えているほど、子どもは待てなかった。待てた子は気をそらしていた(Mischel & Ebbesen, 1970)
  • 母親たちが多くすすめたのは「コマーシャルを減らす」「理由を説明する」。「折れて買う」はいちばん効かない方法のひとつ(Henry & Borzekowski, 2011)
  • レジまわりの食品の約7割は健康的でない食品。レジ前からお菓子をなくした店では、その購入が17.3%減った(Lam et al., 2018/Ejlerskov et al., 2018)
  • 子どもの意志をきたえるより、お菓子の棚を通らない道を選ぶ