べるぞね

ラン活、通信教育、しつけ、食事。子供のために調べて、比べて、考えるほど、気づくと自分が疲れ切っている。これは育児に真剣な人ほど起こりやすいことのようです。調べてみると、「頑張りすぎない」ことには、気合の問題ではなく、研究で裏付けのある理由がありました。

ソファでくつろぐパパと、そばで自由に遊ぶ子供のドット絵イラスト

真剣で完璧を目指す親ほど、燃え尽きやすい

育児による極度の疲弊は「育児バーンアウト」と呼ばれ、研究されています。親としての役割に消耗し、以前の自分の親らしさとのギャップを感じ、育児にうんざりし、子供と気持ちの距離を置いてしまう、といった状態です。

日本の働く親1,200名(母親600名)を対象にした調査では、親としての完璧主義が、仕事の完璧主義よりも強く育児バーンアウトと関連していました。とくに、「失敗するのではないか」という懸念が強いほど、バーンアウトと結びついていました。この調査では、日本で育児バーンアウトを経験する人の割合は4.2〜17.3%と推定されています。

これは相関を調べた調査で、完璧主義が原因だと断定できるわけではありません。ただ、研究者は親の完璧主義を「バーンアウトに対する脆弱性の要因の一つ」と位置づけています。

「完璧さの崇拝」と孤立が、疲れを深くする

42か国の親17,409人を対象にした国際調査では、個人主義的な文化の国ほど育児バーンアウトが多く、子供の数や、子供と過ごす時間の長さよりも、文化の影響のほうが大きいという結果でした。研究者は、個人主義的な社会は「完璧さを崇拝」しやすく、育児が孤立した活動になりがちだと説明しています。村全体で子供を育てる文化では、負担が分散されているということです。

そもそも「完璧な親」は、子供にとっても必要ない

精神分析家ウィニコットは、「ほどよい母親(good enough mother)」という考え方を提唱しました。完璧である必要はなく、ほどほどに愛情と世話を与えられていれば十分、という意味です。しかも、親が時に見当違いの対応をしたり、応じるのが遅れたりする不完全さそのものが、子供が「自分の外側の世界」に気づいていくために必要だとされています。原典は「母親」ですが、今は親全般に当てはめて読まれています。

経営学的に見ると:「最大化」より「満足化」

ここで参考になるのが、経営学者ハーバート・サイモンの満足化(サティスファイシング)という考え方です。人間の判断力や時間は限られているので、現実の意思決定では最善を探し続けるより、「十分に良い」基準を満たした時点で選ぶほうが合理的、というものです。

心理学者バリー・シュワルツらの研究(7つの調査)では、常に最善を求める「最大化」傾向が強い人ほど、幸福感・楽観性・自尊心・人生満足度が低く、うつ・完璧主義・後悔が高い傾向が見られました。企業でも、全案件を最高品質で仕上げようとするとリソースが尽きるため、「ここまでなら合格」という受け入れ基準を先に決めます。育児の判断にも同じ考え方を持ち込めます。通信教育の比較記事で触れた「先に評価軸を1つ決める」も、比較の泥沼から抜けるための満足化のやり方です。

頑張りすぎないための4つの考え方

研究から導ける、対処の方向性を整理します。あくまで考え方の例で、これを守れば疲れなくなるという保証ではありません。

① 基準を「十分」に置く毎回満点を狙わず「これくらいで合格」を決める。ウィニコットの「ほどよい」と満足化の考え方
② 失敗への懸念を減らす失敗への懸念が強いほどバーンアウトと結びつく。小さな失敗は子供が世界を知る材料にもなると捉え直す
③ ひとりで抱えない孤立した育児ほど疲れやすい。家族・友人・自治体の支援など、負担を分散させる
④ 比較・調べものに打ち切りルールを作る「候補は3つまで」「ここまで調べたら決める」など、最大化に陥らない歯止めを先に置く
眠れない、気持ちが沈む状態が続く、子供に気持ちが向かなくなった、といった状態がある場合は、頑張り方の問題ではなく休息や支援が必要なサインかもしれません。自治体の子育て相談窓口や医療機関に相談することも、大切な選択肢です。

まとめ

  • 日本の働く親1,200名の調査で、親としての完璧主義は仕事の完璧主義より強く育児バーンアウトと関連。失敗への懸念が強いほど結びつく(相関)
  • 42か国17,409人の調査では、完璧さを崇拝し育児が孤立しやすい文化ほど、育児バーンアウトが多い
  • ウィニコットの「ほどよい母親」では、親の不完全さも子供の発達に必要とされる
  • 最善を探し続ける「最大化」より、十分に良い基準で選ぶ「満足化」のほうが、幸福感が高い傾向がある