べるぞね

テーブルの上でコップが倒れて、ジュースが広がっている。「こぼしたの?」と聞くと、子どもは目をそらして「やってないよ」。服にはオレンジ色のしみがついているのに——年中の子と暮らしていると、よくある場面です。「嘘つきは泥棒の始まり」と強く叱ったほうがいいのか、それとも見逃していいのか。今回は、4〜5歳の子がすぐバレる嘘をつく理由と、正直に話してもらうための接し方を、トロント大学やマギル大学などの研究から調べました。

こぼれたジュースの前で、手を後ろに隠して目をそらす子供と、ふきんを持って笑いかけるパパのドット絵イラスト

この記事の内容は、動画でも解説しています(約6分)。

嘘をつけるようになるのは、頭が育ってきたしるし

子どもの嘘の研究では、「のぞき見の実験」がよく使われます。大人が「このおもちゃは見ちゃダメだよ」と言って部屋を出て、戻ってきてから「見た?」とたずねる実験です。

ブロック大学のAngela Evansとトロント大学のKang Leeは、2013年にDevelopmental Psychology誌で、2〜3歳の子ども65人にこの実験をした結果を発表しました。おもちゃをのぞいた子は80%(52人)。そのうち「見てない」と嘘をついたのは40%(21人)でした。年齢ごとに見ると、いちばん年下のグループ(2歳1〜4か月)では、のぞいた18人のうち嘘をついたのは6人でしたが、いちばん年上のグループ(3歳7か月〜4歳)では、のぞいた10人のうち9人が嘘をつきました。

注目したいのは、嘘をついた子の特徴です。この研究では、「実行機能」(ルールに合わせて答えを切り替える、がまんするなど、自分をコントロールする力)のテストの点が高い子ほど、嘘をついていました。マギル大学のVictoria Talwarらが3〜8歳の150人を調べた研究(2008年、Child Development誌)でも、嘘は「相手が何を知っていて、何を知らないかを想像する力」や「言いたいことをぐっとおさえる力」と関係していました。この研究では、のぞいた123人のうち64%(79人)が嘘をついています。

つまり、嘘は「性格が悪くなったサイン」というより、相手の頭の中を想像できるようになり、自分の言葉をコントロールできるようになったサインと考えられます。Evansらの論文で紹介されている家庭での観察研究(Wilsonら、2003年)では、4歳の子の94%が、少なくとも一度は嘘をついていました。年中で嘘が出てくるのは、ごくふつうのことのようです。

なぜ「すぐバレる嘘」になるのか

では、なぜあんなにバレバレなのでしょうか。先ほどの2〜3歳の研究では、嘘をついた子に続けて「じゃあ、おもちゃは何だと思う?」とたずねています。すると、嘘をついた21人のうち16人(76%)が、見ていないはずのおもちゃの名前をそのまま答えてしまいました。3〜8歳の研究でも、嘘をついた79人のうち57人(72%)が正解を答えています。

「見てない」と言うことはできても、そのあとの話のつじつまを合わせるのは、もっとむずかしい作業です。南カリフォルニア大学のEvansとトロント大学のLeeらが中国の3〜5歳の子ども247人を調べた研究(2011年、Developmental Psychology誌)では、残っている証拠に合わせた嘘をつけるようになるのは4〜5歳ごろからで、年齢とともに少しずつうまくなっていきました。

服にしみがついているのに「やってないよ」と言うのは、嘘をつく力は育ってきたけれど、つじつまを合わせる力がまだ追いついていない状態です。年中は、ちょうどその途中にいます。

罰でおどすと、正直に言わなくなる

嘘がふつうのことだとしても、正直に言える子になってほしい。そのとき、きびしく叱るのは効くのでしょうか。

マギル大学のTalwarらは2015年にJournal of Experimental Child Psychology誌で、4〜8歳の子ども372人にのぞき見の実験をした結果を発表しました。のぞいた子は251人、そのうち167人が嘘をつきました。この研究では、「見た?」と聞く前の声かけを変えています。すると、「本当のことを言ってくれたら、うれしいな」と伝えた子は、何も言われなかった子よりも正直に話しました。一方、「正直に言うと、自分が気持ちいいよ」という声かけは、罰があると予告されていると効き目が落ちました。

もうひとつ、TalwarとLeeが2011年にChild Development誌に発表した研究があります。西アフリカの2つの学校に通う3〜4歳の子ども84人を比べたものです。片方は、忘れ物や間違いでもたたかれる罰のきびしい学校、もう片方は体罰のない学校でした。のぞいた子のうち嘘をついたのは、罰のきびしい学校では94%、体罰のない学校では56%。しかも、罰のきびしい学校の子のほうが、嘘を隠し通すのが上手でした。

この研究は学校での体罰という極端な環境の話で、2校だけの比較です。家庭で少し叱っただけで嘘つきになる、という意味ではありません。ただ、「バレたらひどい目にあう」と思うほど、子どもは正直に言うのではなく、うまく隠すほうを学ぶという向きは、2つの研究で共通しています。

「オオカミ少年」より「桜の木」のお話

嘘をついたとき、「オオカミ少年みたいになるよ」と言い聞かせたくなります。これについても、トロント大学のLeeらが調べています(2014年、Psychological Science誌)。3〜7歳の子ども268人に、のぞき見の実験の途中でお話を1つ読み聞かせ、そのあとで「見た?」とたずねました。

  • 「ピノキオ」「オオカミ少年」(嘘をつくと悪いことが起きるお話)を聞いた子は、嘘と関係のない「ウサギとカメ」を聞いた子と、正直さが変わりませんでした。
  • 「ジョージ・ワシントンと桜の木」(桜の木を切ったことを正直に話したら、お父さんにほめられたお話)を聞いた子だけ、正直に話す子が増えました。学会の発表によると、およそ3倍です。
  • ワシントンのお話の結末を「嘘をついて悪いことが起きた」に変えると、効果はなくなりました。

研究者は、効いたのは「嘘をつくとこわい」ではなく「正直に言うといいことがある」と伝えたからだと説明しています。ちなみに、桜の木のお話そのものは、あとから作られた逸話だとされています。

経営学のヒント:飛行機の世界の「報告したら罰しない」しくみ

同じ考え方を、しくみにしている業界があります。飛行機の世界です。アメリカでは1975年に、連邦航空局(FAA)がパイロットや管制官などのための自主的な安全報告の制度を始めました。報告を受け取るのは、取り締まる側のFAAではなく、第三者のNASAです。だれが報告したかは守られ、FAAは報告の内容を処分の材料に使いません。さらに、わざとではない違反を10日以内に自分から報告した人には、罰金や免許停止を科さないと決められています(犯罪や事故は対象外などの条件があります)。

なぜここまでするのか。背景にあるのは、ミスを罰すると、ミスが減るのではなく「ミスの報告」が減ってしまうという考え方です。報告がなければ、危ない場所や手順は直せず、同じ失敗がまた起きます。だから「正直に言った人は守る」とはっきり決めて、情報を集めているわけです。

家庭に置き換えると、「こぼしたこと」と「正直に言ったこと」を分けて扱うということになります。こぼしたジュースは一緒に拭く。正直に言えたことは、それとは別にほめる。この2つを混ぜて「正直に言ったけど怒られた」になると、子どもは次から言わなくなります。なお、飛行機のしくみもわざとやった違反は守りません。危ないことや、わざと人を傷つけたことまで見逃すという話ではありません。

今日からできる対処法

  1. 答えが分かっていることを、質問にしない。のぞき見の実験では、「見た?」と聞かれた子の多くが「見てない」と答えました。こぼしたのが明らかなら、「こぼしたの?」と聞くかわりに「ジュースがこぼれちゃったね。一緒に拭こう」と言えば、嘘をつく場面そのものが生まれません。これは研究で試された方法ではなく、実験の結果からわたしが考えた工夫です。
  2. 聞く前に「本当のことを言ってくれたら、うれしいな」と伝える。どうしても本人の口から聞きたいときは、先にこのひとことを添えます(Talwarら、2015年)。
  3. 正直に言えたら、まずそこをほめる。「言ってくれてありがとう」が先、後始末の話はそのあとです。「正直に言うといいことがある」という経験が、次の正直さにつながります(Leeら、2014年)。
  4. 罰でおどさない、「嘘つき」と呼ばない。「嘘をついたらおやつ抜きだよ」は、正直さではなく隠し方を育てるおそれがあります。
  5. お話を読むなら、「正直に言ってよかった」お話を。オオカミ少年でこわがらせるより、正直に言ってほめられる結末のほうが効きました。

子どもに嘘をつかれると、親としては少しショックを受けます。ただ、研究を見るかぎり、バレバレの嘘は育ちの途中のふつうの姿です。嘘が急に増えた、人を傷つける嘘がずっと続くなど、気になることがあれば、園の先生や自治体の子育て相談に話してみてください。

まとめ

  • 嘘は3歳ごろから増える。自分をコントロールする力や、相手の頭の中を想像する力が育った子ほど嘘をついていた(Evans & Lee, 2013/Talwar & Lee, 2008)
  • 嘘をついた子の7割以上は、次の質問で自分からバラしてしまった。証拠に合わせた嘘をつけるようになるのは4〜5歳ごろから(Evans, Xu & Lee, 2011)
  • 罰がきびしい環境では、嘘が増え、隠し方も上手になった。「本当のことを言ってくれたらうれしい」と伝えると、正直に話す子が増えた(Talwar & Lee, 2011/Talwar et al., 2015)
  • 「オオカミ少年」や「ピノキオ」は効かず、正直に言ってほめられるお話だけが効いた(Lee et al., 2014)
  • 飛行機の世界の「報告したら罰しない」しくみのように、「やってしまったこと」と「正直に言ったこと」を分けて扱う