べるぞね

公園の砂場で、よその子が「かして」と手を出す。うちの子は、バケツをぎゅっとかかえて背中を向ける。相手の親の目が気になって、「貸してあげなさい」と言ってしまう。それでも貸さないので、手からバケツを取ってわたすと大泣き——年中の子と公園に行くと、よくある場面です。貸せないのは、やさしさが足りないからなのでしょうか。親がむりに貸させると、どうなるのでしょうか。今回は、子どもが「分ける」「貸す」ことについて、大学の研究から調べました。

砂場でバケツをかかえてふくれっ面の子供と、手を出して「かして」と言う子、困った顔で見守るパパのドット絵イラスト

「分けるべき」と分かっていても、できるのは7〜8歳から

まず、年中の子が貸せないのは、ふつうのことです。Craig Smithらは2013年、PLoS ONE誌に「分けるべきだけど、分けない」という題の研究を発表しました。ボストン科学博物館に来た3〜8歳の子ども102人が対象です。

子どもに自分のものとしてシールをわたし、ほかの子に分けるかどうかを見ました。別の質問では、「どのくらい分けるべきだと思う?」とも聞いています。結果は次のとおりです。

  • 3歳の子でも、「半分ずつ分けるべきだ」と答えた
  • ところが、実際に半分ずつ分けるようになったのは7〜8歳からだった
  • 続けて行った実験では、3〜6歳の子は「自分は多めに取るだろう」と、自分の行動を正しく予想していた
つまり、年中の子は「貸してあげるのがいいこと」だと、もう知っています。知らないから貸せないのではありません。研究者たちは、「分けるべき」というきまりの重みが、年齢とともに大きくなっていくのだろうと考えています。「貸してあげるのがいいことでしょ」と説明しても変わらないのは、そこはもう分かっているからです。

「自分のもの」は、2歳からもう特別

貸せない理由のひとつは、「自分のもの」への気持ちの強さです。ミシガン大学のSusan Gelmanらは2012年にChild Development誌で、2〜4歳の子どもと大人を調べた研究を発表しました。

おもちゃを2つ見せて、「こっちはあなたの、こっちは私の」と決めます。それだけで、子どもは「自分の」と決められたほうのおもちゃを、より気に入るようになりました。これは2歳の子でも見られました。3歳になると、見た目がぱっとしないおもちゃでも、「自分の」と言われたほうをちゃんと覚えていて、自分のものだと答えました。

砂場のバケツは、ただのバケツではありません。「自分の」になった時点で、子どもにとっては値打ちが上がっています。それをわたすのは、大人が思うより大きなことのようです。

むりに貸させると、次は貸さなくなる

では、親が「貸しなさい」と言って貸させるのはどうでしょうか。コーネル大学のNadia ChernyakとTamar Kushnirは2013年、Psychological Science誌に3〜4歳の子どもの実験を発表しました。

子どもに、悲しんでいる犬の人形を見せます。そして、子どもを3つのグループに分けました。

  • むずかしい選択:大事なシールを「人形にあげる」か「自分でもらう」かを、子どもが選ぶ
  • かんたんな選択:シールを「人形にあげる」か「しまっておく(だれのものにもならない)」かを、子どもが選ぶ
  • 選択なし:大人が「人形にあげてね」と言い、子どもはそのとおりにする

このときは、どのグループでも多くの子がシールをあげました。ちがいが出たのは、そのあとです。別の悲しんでいる人形を見せて、今度は新しいシールを何枚あげるか自由に決めてもらいました。すると、最初に「あげるか、自分でもらうか」というむずかしい選択をまかされたグループの子が、いちばん多く分けました。大人に言われてあげたグループの子は、それより少ししか分けませんでした。

研究者たちは、子どもは自分で選んであげたときに「自分は分けるのが好きな子だ」と感じ、それが次の行動につながると考えています。言われて貸した子には、この「自分で選んだ」という感じが残りません。人形を使った1回の実験ですが、むりに貸させても、「次に自分から貸す」にはつながりにくいことを示しています。

ごほうびも、逆効果になることがある

「貸せたらおやつね」はどうでしょうか。マックス・プランク進化人類学研究所のJulia Ulberらは2016年にChild Development誌で、3歳の子ども96人の実験を発表しました。

相手と同じ数になるように分けたとき、あるグループには物のごほうびをあげ、別のグループには言葉でほめ、もう1つのグループには何もしませんでした。そのあと、ごほうびなしでもう一度分ける場面を作ると、物のごほうびをもらっていた子は、ほめられた子や何もなかった子より、自分のぶんをへらしてまで分けようとはしなくなりました。

「分けたい」という気持ちは、もともと子どもの中にあります。そこに物のごほうびをつけると、「ごほうびのために分ける」に変わってしまうようです。言葉でほめることには、この悪い影響は見られませんでした。

経営学のヒント:持っているだけで、値打ちは2倍になる

「自分のものは手放したくない」のは、大人も同じです。行動経済学では、これを「保有効果」と呼びます。Daniel Kahneman、Jack Knetsch、Richard Thalerが1990年にJournal of Political Economy誌で発表した実験が有名です。

大学生の半分にマグカップを配り、「いくらなら売りますか」と聞きます。もらわなかった半分には「いくらなら買いますか」と聞きます。同じマグカップなのに、持っている人がつけた値段は、持っていない人がつけた値段のおよそ2倍でした。ほんの数分前にもらっただけで、です。

このしくみは、商売でもよく使われます。「30日間、無料でお試し」「気に入らなければ返品できます」という売り方は、いちど手元に置いてもらえば手放しにくくなる、という面があると言われます。

大人でさえ、もらったばかりのマグカップを手放すのに2倍の値段をほしがります。子どもにとっての「自分のバケツ」は、なおさらです。「ちょっと貸すだけ」は、貸す側にとっては「ちょっと」ではありません。そう考えると、貸せない子を「けちな子」と見るのではなく、手放しやすい形を用意するほうが近道です。

今日からできる対処法

1と2は上の研究から言えること、3〜5は研究の考え方をもとにした工夫です。

  1. 取り上げてわたさない。子どもに選ばせる。「貸してあげる?それとも、あとで貸す?」と聞きます。「貸さない」と答えても、それも子どもの選択です。自分で選んで貸せた1回のほうが、言われて貸した10回より次につながります。
  2. 貸せたら、物ではなく言葉で。「貸せたね。あの子、うれしそうだったね」。おやつやシールのごほうびはつけません。
  3. 「あげる」ではなく「貸す。あとで返ってくる」と伝える。「バケツは〇〇ちゃんのだよ。10かぞえたら返してもらおうね」。自分のものであることは変わらない、と分かると手放しやすくなります。
  4. 貸したくないものは、持っていかない。お気に入りは家に置き、公園には「みんなで使う用」のおもちゃを持っていきます。出かける前に「これは貸してもいいやつ?」と本人に決めてもらいます。
  5. 相手の子には、親が代わりに答える。「いま使ってるから、終わったら貸すね」と親が言います。相手の親の目が気になるのは、こちらの都合です。その場をおさめるために、子どもの手から取り上げる必要はありません。

貸せない時期は、「自分のもの」がはっきり分かるようになった時期でもあります。研究を見るかぎり、半分ずつ分けられるようになるのは7〜8歳ごろです。それまでは、貸せた回数を数えるより、自分で決められた回数を増やすつもりでいると、親も少し楽になります。

まとめ

  • 3歳でも「半分ずつ分けるべき」と答えるが、実際にそうするのは7〜8歳から(Smith et al., 2013)
  • 2歳の子でも、「自分の」と決められたおもちゃをより気に入った(Gelman et al., 2012)
  • あげるかどうかを自分で選んだグループの子は、次の場面でいちばん多く分けた。言われてあげたグループの子は、少なかった(Chernyak & Kushnir, 2013)
  • 物のごほうびをもらった3歳の子は、そのあと分けようとする気持ちが下がった。言葉でほめた場合は、そうならなかった(Ulber et al., 2016)
  • 大人でも、持っているだけで値打ちはおよそ2倍になる。取り上げず、子どもに選ばせる
参考にした情報
分けるべきと分かっていても分けない:Smith, Blake & Harris (2013) PLoS ONE
「自分のもの」への気持ち:Gelman, Manczak & Noles (2012) Child Development
選ばせると次も分ける:Chernyak & Kushnir (2013) Psychological Science/Association for Psychological Science の発表
物のごほうびと分ける気持ち:Ulber, Hamann & Tomasello (2016) Child Development
保有効果のマグカップ実験:Kahneman, Knetsch & Thaler (1990) Journal of Political Economy