べるぞね

床に広がったおもちゃを片付けようとすると、「これはここに置いといて!」と怒られる。こっそり戻すと、こんどは家じゅうに響く声でわめく。車の並び順、ブロックの置き場所、ぬいぐるみの向き——うちの年中さんには、大人には分からない「ここじゃなきゃダメ」がたくさんあります。毎回つきあっていると、正直こっちがへとへとです。この「こだわり」はどこから来るのか、どう付き合えばいいのか。発達心理学の研究と、交渉術の考え方、それから疲れた親の休み方の研究まで調べてみました。

床に並べたおもちゃの町を両手を広げて守る子供と、おもちゃ箱を持ったまま困り顔で固まるパパのドット絵イラスト

この記事の内容は、動画でも解説しています(約6分)。

こだわりは2〜4歳がいちばん多い

まず安心材料から。心理学者のDavid Evansらが1997年にChild Development誌に発表した研究では、生後8か月〜6歳の子どもを育てる親1,492人に、子どもの「決まったやり方へのこだわり」についてアンケートをとりました。物を決まった順番に並べる、いつも同じやり方でないと嫌がる、物が「ちょうどいい」状態になっていないと気がすまない、といった行動です。

結果は、2歳・3歳・4歳の子どもは、1歳未満の子や4歳より上の子に比べて、こうした行動が多いというものでした。研究者はこれを、幼い子どもがふつうに見せる行動のひとつとして位置づけています。

「これはここ!」は、わがままや育て方の問題ではなく、多くの子が通る時期の行動だということです。年中さん(4〜5歳)は、ちょうどこの山を越えていく途中にいます。ただし、こだわりのせいで毎日の生活が回らない、子ども自身がとても苦しそう、という状態が続くときは、ひとりで抱えずに園や自治体の子育て相談で話してみてください。

自分で並べたものは「自分の一部」になっている

もうひとつ見えてきたのが、「自分で作ったもの」への特別な思い入れです。大人でも、自分で組み立てた家具を、同じ完成品より高く評価してしまう傾向があり、「IKEA効果」と呼ばれています。

イギリスのブリストル大学とノッティンガム大学のLauren Marshらが2018年にCognition誌に発表した研究では、この傾向が子どもにいつから現れるかを調べました。すると、5歳ごろから、自分で作ったものを他の人が作った同じものより高く評価する傾向が出てきました。しかもそれは、作るのにかけた手間の量や、「自分の物だから」という所有の感覚だけでは説明できず、研究者は「自分とは何か」という自己の感覚と、作ったものが結びつくからではないかと考えています。

そう考えると、床に並んだおもちゃの町は、子どもにとっては散らかしではなく「自分が作った作品」です。親が何も言わずに箱へ戻すのは、子どもからすると、作品を、ひいては自分自身を雑に扱われたように感じられているのかもしれません。わめくのも少し分かる気がしてきます。

経営学のヒント:交渉術の「立場ではなく利益」

ここで役に立つのが、ハーバード大学の交渉研究プロジェクトのRoger FisherとWilliam Uryが1981年に書いた交渉術の古典『Getting to Yes(ハーバード流交渉術)』の考え方です。中心にあるのが「立場(何を要求しているか)ではなく、利益(なぜそれを求めているか)に注目せよ」という原則です。

本の中で紹介されているのが、図書館の窓のたとえ話です。図書館で2人の男性が、窓を開けるか閉めるかで言い争っています。少しだけ開ける、半分開ける、と折り合いをつけようとしても、どちらも納得しません。そこで司書が、1人に「なぜ開けたいのですか」と聞くと「新鮮な空気がほしい」。もう1人に「なぜ閉めたいのですか」と聞くと「風が直接当たるのが嫌だ」。そこで司書は、隣の部屋の窓を開けて、風を当てずに新鮮な空気を入れました。

おもちゃの片付けに当てはめると、こうなります。

立場(言っていること)利益(本当に守りたいもの)
子ども「これはここに置いといて!」続きを遊びたい/作ったものを残したい
親「片付けなさい!」通れる床がほしい/掃除機をかけたい/食卓を使いたい/寝る前に一区切りつけたい

「置いておく」か「片付ける」かの綱引きでは、どちらかが負けるしかありません。でも利益の方を見ると、「作品は残す、でも通り道は空ける」という、両方が守れる答えが見えてきます。隣の部屋の窓を開けるのと同じ発想です。

付き合い方1:動かす前に「これ、続きする?」と聞く

いきなり片付け始めると、子どもには作品を壊されたようにしか見えません。動かす前にひと声、「これ、明日も続きする?」「どれを残しておきたい?」と聞くだけで、子どもの「利益」が分かりますし、子どもも自分で選べた感覚が持てます。全部残したいと言われたら、次の「とっておき場所」の出番です。

付き合い方2:「とっておき場所」と写真で作品を残す

  • 作品を置いたまま移動できる板やトレイを用意する:段ボールの板や大きめのお盆の上で遊べば、町ごと棚の上や部屋の隅へ「引っ越し」できます
  • 「とっておき棚」を1段だけ作る:ここに置いたものは誰も触らない、という約束の場所。ただし容量は1段だけと決めておきます
  • 写真に撮って「保存」する:「写真に残したから、また作れるね」と見せてから片付けると、納得しやすくなる子もいます。IKEA効果の研究からすると、子どもが大事にしているのは物そのものより「自分が作った」という事実なので、記録が残るだけでも気持ちが違うはずです

付き合い方3:親の利益が守れない場所だけはルールにする

全部の作品を守ることはできません。そこで、通り道、食卓、寝る前の布団の上のように、親の利益(安全・食事・睡眠)がどうしても守れない場所だけは、「ここは作品を置かない場所」と先に決めておきます。毎回その場で交渉するより、あらかじめ決まっているルールの方が、子どもも受け入れやすくなります。床をどこまで散らかしてよいかの考え方は、片付けても散らかす子どもの記事でも書きました。

わめいてしまったときは、まず気持ちに名前をつける

それでも、わめくときはわめきます。そのときにすぐ「でも片付けないとダメでしょ」と説得しても、たいてい火に油です。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のMatthew Liebermanらが2007年にPsychological Science誌に発表した研究では、嫌な気持ちになる画像を見たときに、その気持ちを言葉にして名前をつけると、脳の中で不安や怒りに関わる扁桃体の反応が弱まることが分かりました。

大人を対象にした研究ですが、「せっかく作った町を動かされて、悔しかったんだね」と気持ちを言葉にしてあげるのは、まず落ち着くための第一歩としてやってみる価値があります。説明や約束の話は、落ち着いてからで十分です。子どもの気持ちの受け止め方は、「だから言ったのに」の記事でも調べています。

振り回されて疲れた親のために

  • 5〜10分の小休憩をとる:仕事中の短い休憩(10分以内)を調べた研究をまとめた2022年の分析(Albulescuら、PLOS ONE、22グループ・2,335人)では、短い休憩で疲れが減り、活力が上がる効果が確認されました。効果は大きくはありませんが、確かにあります。わめき声が続くときは、安全を確認したうえで、もう1人の大人と交代するか、子どもの見える場所で数分だけお茶を飲むのも立派な対応です
  • 全部のこだわりに付き合わない:付き合うのは「作品を残す」まで。ぬいぐるみの向き、コップの色まで毎回すべて応えていたら、親の体力が持ちません。付き合い方3のように、守る場所と譲らない場所を分けておくと、迷う回数そのものが減ります
  • 疲れを自分の力不足のせいにしない:こだわりは2〜4歳に多い、ふつうの時期の行動です。振り回されて疲れるのも自然なことです。頑張りすぎない考え方は「ほどよい親」の記事にまとめています

まとめ

  • 決まったやり方や並べ方へのこだわりは、2〜4歳の子に多いふつうの行動(Evans et al., 1997、親1,492人の調査)
  • 自分で作ったものを特別に高く評価する「IKEA効果」は5歳ごろから現れ、自己の感覚と結びついているらしい(Marsh et al., 2018)。並べたおもちゃは子どもにとって「作品」
  • 交渉術の「立場ではなく利益」で見ると、子どもの利益は「続き・作品を残すこと」、親の利益は「通り道・食卓・睡眠」。両方守れる答えを探す
  • 付き合い方は、動かす前に聞く、とっておき場所と写真で残す、親の利益が守れない場所だけルールにする、の3つ
  • わめいたら、まず気持ちに名前をつける(Lieberman et al., 2007)。親は5〜10分の小休憩をとり(Albulescu et al., 2022)、全部のこだわりに付き合わない
参考にした情報
幼児のこだわり行動:Evans et al. (1997) Child Development
子どものIKEA効果:Marsh, Kanngiesser & Hood (2018) Cognition
立場ではなく利益:Fisher & Ury (1981) Getting to Yes
気持ちに名前をつける:Lieberman et al. (2007) Psychological Science
短い休憩の効果:Albulescu et al. (2022) PLOS ONE