べるぞね

夕方にやっと床が見えるまで片付けたのに、5分後にはおもちゃ箱がひっくり返っている。もう一度片付けても、また散らかる。我が家の年中さんとは、これを1日に何回もくり返しています。散らかる床そのものより、「またか」と思う自分のイライラの方がしんどい日もあります。そこで今回は、散らかった部屋と親のストレスの関係、おもちゃの量と遊び方の研究、そして品質管理の考え方を手がかりに、散らかす子との付き合い方と、親の気持ちの守り方を調べてみました。

片付いた棚の横で、おもちゃ箱をひっくり返す子供と、空の箱を持って苦笑いするパパのドット絵イラスト

散らかった部屋は、本当に親のストレスになっている

まず、「散らかっているとイライラする」のは気のせいでも、心が狭いからでもなさそうです。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のDarby SaxbeとRena Repettiが2010年にPersonality and Social Psychology Bulletin誌に発表した研究では、共働きの夫婦60人に自分の家を案内しながら説明してもらい、その言葉を分析しました。

家の説明に「散らかっている」「まだ片付いていない」といった言葉が多かった妻ほど、その後3日間の平日で、ストレスホルモンのコルチゾールが1日の中でうまく下がっていかない(朝から夜にかけての下がり方がゆるやかな)パターンを示し、1日のうちに気分が落ち込んでいく傾向もありました。逆に「くつろげる」「落ち着く」といった言葉が多かった妻は、コルチゾールが1日の中でしっかり下がり、落ち込んだ気分も1日のうちに軽くなっていました。

この関係がはっきり出たのは妻の方で、夫には同じ傾向は見られませんでした。また、散らかりが原因だと証明した研究ではなく、関係を見た研究です。それでも、「散らかった家にいるとしんどい」という感覚には体の反応の裏付けがあると知っておくと、イライラする自分を責めずに済みます。

おもちゃが多いほど、次々に出して次々に移る

では、なぜこんなに散らかるのか。ヒントになるのが、アメリカのトレド大学のCarly Dauchらが2018年にInfant Behavior and Development誌に発表した実験です。幼児36人に、おもちゃが4個ある部屋と16個ある部屋でそれぞれ自由に遊んでもらいました。

  • おもちゃが4個のときは、遊ぶおもちゃを替える回数が少なかった
  • 1つのおもちゃで遊ぶ時間が長かった
  • 同じおもちゃを、より多様なやり方で遊んでいた

裏返すと、おもちゃが多いほど、子どもは次々に手に取っては移っていくということです。出して、少し遊んで、次へ。床に広がるおもちゃの量は、子どもの性格よりも「手の届くところにいくつあるか」でかなり決まっている、と考えられます。しかも数を減らした方が、遊びの中身は深くなっていました。

経営学のヒント:デミングの「いじりすぎ」

ここで、親の気持ちの持ち方に効く考え方を紹介します。品質管理の世界で有名な、統計学者W・エドワーズ・デミングの話です。デミングは、ウォルター・シューハートの考えを受け継いで、結果のばらつきを2種類に分けました。

  • いつものばらつき(共通原因):仕組みそのものが毎日生み出している、ふだん通りの上下
  • いつもと違うばらつき(特別原因):特定の出来事が起こした、ふだんとは違う異常

そして、いつものばらつきに1回ずつ反応して手を加えると、かえって結果が悪くなると説き、これを「いじりすぎ(tampering)」と呼びました。デミングが紹介した「じょうごの実験」では、的をねらってじょうごからビー玉を落とし、ずれるたびにじょうごの位置を逆方向へ動かして直そうとすると、何もしないで固定しておくよりも、ビー玉の落ちる位置のばらつきが大きくなってしまいます。

これを家に当てはめると、こうなります。

  • おもちゃが出ていて、子どもが遊んでいれば、床が散らかるのは「いつものばらつき」。家の仕組み(おもちゃの数や置き場所)がそのまま生み出している状態
  • 散らかるたびに叱る、片付け直す、というのは、じょうごを毎回動かすのと同じ。親の手間とイライラだけが増えて、散らかる量そのものはほとんど変わらない
  • 手を入れるべきなのは、①仕組みを変えるとき(おもちゃの数・置き場所・片付ける時刻)と、②「いつもと違う散らかり方」のとき(通り道に危ない物がある、食べ物が落ちている、寝る時刻が近い)の2つだけ

「散らかっている=失敗」ではなく、「散らかっている=ふだん通りに遊べている」と読み替えるだけで、1日に何回も起きていたイライラの回数を減らせます。

付き合い方1:出ているおもちゃの数を減らす

Dauchらの実験を家に持ちこむなら、いちばん効くのは一度に出ているおもちゃの数を減らすことです。全部を捨てる必要はなく、半分くらいを箱に入れて押し入れにしまい、1〜2週間ごとに入れ替える「おもちゃのローテーション」なら、子どもにとっては久しぶりのおもちゃが戻ってくる楽しみにもなります。棚や置き場所の工夫は、片付けやすい環境の9つの工夫の記事でくわしく書きました。

付き合い方2:片付けは「決まった時刻に1回、一緒に」

デミングの考え方からすると、散らかるたびに片付けるより、片付ける時刻を決めてしまう方が合っています。我が家では「夕ごはんの前」と「寝る前」の2回にして、それ以外の時間の散らかりは放っておくことにしました。こうすると、昼間に散らかっていても「まだ片付けの時間じゃない」と思えるので、親の気持ちがずいぶん楽になります。

誘い方も大事です。マックス・プランク研究所のFelix WarnekenとMichael Tomaselloが2008年にDevelopmental Psychology誌に発表した研究では、生後20か月の子どもが大人を手伝った後に、おもちゃなどの物のご褒美をもらうと、その後はほめ言葉だけをもらった子や、何ももらわなかった子よりも手伝わなくなりました。幼い子どもの「手伝いたい」という気持ちは、もともと自分の内側から出ていて、物のご褒美がそれを弱めてしまう、ということです(ご褒美が逆効果になる仕組みは勉強好きになる接し方の記事でも扱いました)。

なので「片付けたらシールね」より、「このブロック、パパと箱に入れるの手伝ってくれる?」と誘って、終わったら「助かった、ありがとう」と伝える方が、長い目で見ると続きやすそうです。

付き合い方3:散らかしていい場所と、散らかさない場所を分ける

家じゅうを同じ基準で片付けようとすると、どこかが散らかるたびにイライラします。そこで、「リビングのラグの上は散らかしてOK」「ダイニングテーブルと玄関は物を置かない」のように、場所ごとに基準を分けてしまいます。品質管理でいう「この範囲に収まっていれば正常」という線を、家の中で先に決めておくイメージです。

親のメンタルの守り方

  • 自分が落ち着ける場所を1か所だけ守る:Saxbeらの研究で、家を「くつろげる」と語った妻ほど、ストレスホルモンがしっかり下がっていました。家全体でなくても、自分の机の上やダイニングテーブルだけは毎晩ゼロに戻す、という「自分用の落ち着く場所」を1つ持っておくと、散らかった床を見ても逃げ場があります
  • 散らかりを「遊んだ跡」と数える:デミングの考え方の通り、ふだん通りに遊んだ日は散らかるのが正常です。散らかった床は、子どもが家で安心して遊べた証拠とも言えます
  • 完璧な片付けを目標にしない:寝る前の片付けも「床が歩ければOK」くらいで十分です。親が真剣になりすぎて疲れないための考え方は、「ほどよい親」の記事で調べています
  • 片付けの負担が片方の親に偏っていないか見る:散らかりに一番気づいて、一番イライラしている人が、見えない家事を一人で抱えていることがあります。メンタルロードの記事もあわせてどうぞ

まとめ

  • 家を「散らかっている」と語った妻ほど、ストレスホルモンが1日の中で下がりにくく、気分も落ち込みやすかった(Saxbe & Repetti, 2010)。散らかりにイライラするのは自然な反応
  • おもちゃが16個より4個の方が、幼児は1つのおもちゃで長く、多様に遊んだ(Dauch et al., 2018)。出ている数が多いほど、次々に出して次々に移る
  • デミングの「いじりすぎ」の考え方では、ふだん通りのばらつきに毎回反応すると、かえって悪くなる。散らかるたびに叱るより、仕組みを変える時と、いつもと違う時だけ手を入れる
  • 付き合い方は、おもちゃの数を減らす、片付けは決まった時刻に一緒に、散らかしていい場所を決める、の3つ。誘うときは物のご褒美より「手伝って」「ありがとう」(Warneken & Tomasello, 2008)
  • 親は、自分が落ち着ける場所を1か所だけ守り、散らかりを「遊んだ跡」と数える
参考にした情報
散らかった家とストレスホルモン:Saxbe & Repetti (2010) Personality and Social Psychology Bulletin
おもちゃの数と幼児の遊び:Dauch et al. (2018) Infant Behavior and Development
ご褒美と幼児の手伝い:Warneken & Tomasello (2008) Developmental Psychology
デミングのじょうごの実験といじりすぎ:The W. Edwards Deming Institute/Common cause and special cause - Wikipedia