べるぞね

家事も育児も、タスクの数だけ見ればちゃんと分担できているはず。なのに、片方だけがずっと頭の中が忙しい感覚を抱えている——これ、うちに限った話ではなく、社会学の分野でかなりしっかり研究されている現象らしいです。「メンタルロード」というキーワードで調べてみました。

キッチンで洗濯物を畳みながら、頭上にカレンダー・牛乳パック・時計の吹き出しが浮かんでいるパパのドット絵イラスト

「メンタルロード」とは何か——ハーバードの社会学者が分解した4つの労働

ハーバード大学の社会学者Allison Damingerが2019年にAmerican Sociological Review誌に発表した研究では、35組のカップルへの70件の詳細インタビューをもとに、家事・育児にまつわる「見えない仕事」を分析しています。この研究では、家庭内の労働を「皿を洗う」「洗濯物を畳む」といった実行の労働と、それとは別の認知労働(cognitive labor)に分けて捉えます(Daminger, 2019)。

この認知労働は、さらに4つの段階に分解されます。

  • 予測する(anticipate):そろそろ牛乳がなくなりそう、来月は予防接種の時期だ、などに気づく
  • 選択肢を洗い出す(identify options):どの小児科がいいか、どの習い事にするか調べる
  • 決定する(decide):複数の選択肢から実際に何をするか決める
  • 経過を見張る(monitor):決めたことがちゃんと進んでいるか、状況が変わっていないか確認し続ける

「皿を洗う」は目に見えるので分担の話し合いに乗りますが、「そろそろ牛乳がなくなりそうだと気づく」という予測の労働は、そもそもタスクとして数えられていないことがほとんどです。この研究では、女性が男性よりも認知労働全体を多く担っており、特に「予測」と「監視」の労働に偏っていることが示されています。

なぜ「半分こ」にしても偏りが残るのか

「じゃあ家事の分担表をきっちり半分にすればいいのでは」と思うかもしれませんが、ここに落とし穴があります。2025年に発表された欧州の家庭を対象にした研究では、就労時間や収入が同程度の共働き・平等志向の家庭でも、認知労働のジェンダー差は残ることが報告されています。女性の就労は身体的な家事の量を減らす効果はあっても、認知的な負担そのものを減らす効果は限定的だという指摘です(Weeks, Kowalewska & Ruppanner, 2025)。

つまり、「今日は誰が保育園の送りをするか」「誰が皿を洗うか」を平等に割り振っても、その裏側で「そろそろ着なくなりそうな服を把握しておく」「習い事の発表会の日程を頭の片隅に置いておく」といった予測・監視の仕事は、ほとんど言語化されないまま片方に積み上がりやすいということです。体感的な疲労の差は、怠けでも気にしすぎでもなく、そもそもタスクとして数えられていない労働が存在することから来ている可能性があります。

経営学のヒント:「気づき」と「決定」もタスクとして書き出す

プロジェクト管理の世界には、誰が実行するか(Responsible)、誰が説明責任を持つか(Accountable)、誰に相談すべきか(Consulted)、誰に共有すべきか(Informed)を整理するRACIチャートという考え方があります。仕事のタスクを「手を動かす人」と「意思決定・進捗管理をする人」に分けて可視化する手法です。

これを家庭に応用すると、家事の分担表に「皿洗い」「洗濯」だけでなく、「予防接種のスケジュール管理」「保育園の持ち物の把握」「習い事の情報収集」といった認知労働の項目も並べて書き出すことになります。実際にやってみると、これまで分担表に載っていなかった項目の数だけで、負担の偏りがかなり可視化されます。

もう少し手軽に始めるなら、1週間だけ「今日気づいたこと・決めたこと・確認したこと」をどちらか一方、あるいは両方がメモしてみるのも有効です。感覚的な「なんとなく疲れる」を、話し合いの材料になる具体的な記録に変えることができます。

「頑張っているのに疲れている」への理解

この記事の目的は、どちらが悪いという話をすることではありません。Damingerの研究でも、この種の負担は「両者にとって見えにくい」からこそ、悪気なく偏り、しばしば対立の火種になると指摘されています。まず、「家事の分担が数字上平等に見えても、疲労感に差が出るのは構造的にあり得ること」だとお互いが知っておくだけで、話し合いの前提が変わります。

まとめ

  • 家事育児には「実行する労働」だけでなく、「予測する・選択肢を洗い出す・決定する・見張る」という4段階の認知労働(メンタルロード)があり、後者は分担の話し合いに乗りにくい(Daminger, 2019)
  • 共働き・平等志向の家庭でも、認知労働のジェンダー差は残るという研究がある。就労時間や収入をそろえても解消しない(Weeks, Kowalewska & Ruppanner, 2025)
  • 経営学のRACIチャートのように、「気づき」「決定」「監視」もタスクとして書き出すと、負担の偏りを具体的に可視化できる
  • 疲労感の差は怠けや気にしすぎではなく、構造的に生まれうるものだと知ること自体が、話し合いの第一歩になる
参考にした情報
認知労働の4段階モデル:Daminger (2019) American Sociological Review
共働き家庭でも残る認知労働のジェンダー差:Weeks, Kowalewska & Ruppanner (2025)