べるぞね

在宅で作業しているとき、「これなに?」「なんで?」「なんでこうなってるの?」と矢継ぎ早に聞かれて、手が止まる・イライラする・そもそも作業が進まない——これ、結構つらいです。子供を黙らせたいわけじゃないので、好奇心を潰さずに乗り切る方法を、子供の質問行動の研究と、仕事の「中断」を調べたHCI(人とコンピュータの関わり)研究の両方から調べてみました。

在宅ワーク中のパパの袖を引いて「?」の吹き出しを浮かべながら質問する子供のドット絵イラスト

そもそも、子供はどれくらい質問しているのか

カリフォルニア大学のMichelle Chouinardが2007年に発表した研究(Monographs of the Society for Research in Child Development)では、幼児期の子供4人分の会話記録を分析したところ、1時間あたり平均76回もの「情報を求める質問(これなに?・なんで?など)」をしていることが分かりました。1時間に76回ということは、平均して1分弱に1回のペースです。

この研究のタイトルは直訳すると「子供の質問:認知発達のメカニズム」。つまり質問攻めは、大人を困らせようとしているわけでも、単なるわがままでもなく、子供が世界を理解するための、発達上ごく自然な仕組みだということです。まずこの前提を押さえておくと、「うちの子だけがひどい」という感覚は和らぎます。

「中断」の本当のコスト:作業は速くなるが、ストレスは跳ね上がる

では、その質問によって中断された作業は、実際どれくらい「進まなく」なるのでしょうか。ここで参考になるのが、子育て研究ではなく、オフィスワーカーの「中断」を調べたHCI分野の研究です。カリフォルニア大学アーバイン校のGloria Markらが2008年に発表した実験(CHI 2008)では、48人の被験者にメール対応の模擬業務をさせ、中断なしの条件と、約2分おきに質問で中断される条件を比較しました。

結果は意外なものでした。作業の完了時間は、中断された条件の方がむしろ短くなっていたのです(中断なし:平均22.8分/中断あり:平均20.3〜20.6分)。人は中断される前提だと、無意識に「急いで済ませるモード」に切り替えて帳尻を合わせていました。

ただし、これには代償がありました。ストレス・イライラ(フラストレーション)・時間的プレッシャー・かかった労力の自己評価は、中断された条件の方が全て統計的に有意に高くなっていました。つまり、「作業が進まない」という感覚の正体は、多くの場合実際の作業効率の低下そのものではなく、繰り返される中断によるストレスの急上昇だということです。

中断なし6.9
約2分おきに中断あり9.3
中断の有無によるストレスの自己評価(20点満点、Mark, Gudith & Klocke, 2008, CHI)
この研究では、中断の内容が今の作業と同じ話題か・全く違う話題かは、ストレスの大きさにほとんど影響しませんでした。「関係ない質問だから余計イライラする」わけではなく、中断そのものが一定数を超えると、内容に関わらずコストになるというのがポイントです。

経営学のヒント①:「オフィスアワー」で窓口を区切る

ソフトウェア開発の現場などでは、質問や相談をいつでも受け付けるのではなく、「オフィスアワー(質問受付時間)」をあらかじめ決めて、それ以外は集中作業に充てるというやり方がよく使われます。ライター・研究者のCal Newportが提唱する「ディープワーク」の考え方とも重なる発想で、いつ声をかけられるか分からない状態そのものが集中を削ることが知られています。

家庭でもこの考え方はそのまま使えます。「今は無理」「今は大丈夫」を子供にも分かる形で可視化するのがコツです。例えば、机に置いた札や信号機のイラストを赤・青でひっくり返す、タイマーを見えるところに置いて「ここまでは静かタイム」と決めておくなど。ランダムに「今日は聞ける日・聞けない日」があるより、子供自身が「今は聞いていい時間かどうか」を自分で判断できる方が、繰り返し声をかけられる頻度そのものが減りやすくなります。

経営学のヒント②:質問を「バッチ処理」する仕組みを作る

もう一つ有効なのが、質問をその場で個別に処理するのではなく、まとめて後で処理する「バッチ処理」の発想です。メール対応を1日数回の決まった時間にまとめて行う「メールバッチング」と同じ考え方を、子供の質問にも応用します。

  • 「なぜなぜノート」「ふしぎばこ」を用意する:質問が浮かんだら(言葉で言うか、絵を描くかして)そこに入れてもらい、決めた時間にまとめて答える
  • 即答していい質問と、後回しにする質問を先に線引きしておく:安全に関わること(「これ触っていい?」)はすぐ答える。好奇心ベースの質問(「なんで空は青いの?」)は後回しにする、など
  • 後回しにした分は、必ず約束通りの時間に答える:ここが一番重要です。「後で」が守られないと、子供は「聞いても無駄」と学習してしまい、質問すること自体をやめてしまいかねません

それでも大事なこと:好奇心の芽を摘まない

ここまで「中断を減らす」工夫を並べましたが、目的は子供を黙らせることではありません。Chouinardの研究が示す通り、「なんで?」は子供の認知発達そのものを駆動する仕組みです。「後にして」を繰り返すだけで実際に後で答えなかったり、毎回うるさそうな態度で返したりすると、質問という行動そのものが減っていくリスクがあります。

現実的な落としどころは、「全部その場で丁寧に答える」でも「全部シャットアウトする」でもなく、仕組みで一部をずらしつつ、ずらした分は確実に拾うことです。5歳前後の子供はまだ自分の欲求を長く待たせておく力(実行機能)が育ちきっていないという点は、支度がぐずぐず進まない記事で扱った内容とも重なります。「ちょっと待って」がすぐには難しい年齢だと理解した上で、待たせる時間はできるだけ具体的に・短く示すのがコツです。

まとめ

  • 幼児は1時間に平均76回もの質問をするという研究があり(Chouinard, 2007)、質問攻めは自然な発達の仕組み。まず「うちの子だけ」ではないと知る
  • HCI研究では、約2分おきに中断された作業はむしろ完了時間が短くなったが、ストレス・イライラ・時間的プレッシャーは全て有意に上昇した(Mark, Gudith & Klocke, 2008)。「進まない」という感覚の正体はストレスの急上昇であることが多い
  • 「オフィスアワー」のように、質問を受け付ける時間を子供にも分かる形で可視化すると、ランダムな中断が減らせる
  • 「なぜなぜノート」などで質問を一旦バッチ処理に回すのも有効。ただし約束した時間に必ず答えることが前提
  • 目的は黙らせることではなく、好奇心を保ったまま中断の総量を減らすこと
参考にした情報
子供の質問頻度:Chouinard (2007) Monographs of the Society for Research in Child Development
中断のコストに関する実験:Mark, Gudith & Klocke (2008) CHI