べるぞね

「勉強しなさい」と言えば言うほど勉強が嫌いになっていく気がする——これは感覚論ではなく、心理学の実験でも裏付けがある現象でした。今回は「勉強好きにする」ためのテクニック集ではなく、なぜそのやり方が効くのか、根拠から調べて整理しました。

机で楽しそうに書き物をする子供を、戸口からそっと見守るパパのドット絵イラスト

まず落とし穴から:ご褒美と「頭いいね」が逆効果になる理由

心理学者エドワード・デシが行った有名なパズル実験があります。パズルを解けたら報酬(お金)を渡すグループと、渡さないグループを比較したところ、報酬をもらっていたグループの方が、後になってパズルへの興味が下がったという結果が出ました。これは「外的動機づけの上乗せ効果(アンダーマイニング効果)」と呼ばれ、内側から湧いていた興味を、外からのご褒美が食いつぶしてしまう現象です。

もう一つ、スタンフォード大学のキャロル・ドゥエックらが1998年に行った実験も重要です。小学5年生に簡単な問題を解かせたあと、半分の子には「頭がいいね」(能力をほめる)、残り半分には「よく頑張ったね」(努力をほめる)と声をかけました。すると能力をほめられた子は、その後の難しい問題でつまずくと粘れなくなり、成績も下がったのに対し、努力をほめられた子は難しい問題にも挑戦し続けたという結果が出ています。

能力をほめられると「自分の能力は生まれつき決まっている」という固定マインドセットに、努力をほめられると「能力は努力で伸ばせる」という成長マインドセットに近づく、というのがドゥエックの解釈です。「頭いいね」も「ご褒美」も、悪意なく日常的にやりがちな接し方だからこそ、知っておく価値があります。

土台になる理論:自己決定理論の3つの欲求

ではどうすれば内側から湧く「勉強好き」に近づけるのか。心理学者デシとライアンの自己決定理論では、人が自発的に動くには3つの心理的欲求が満たされる必要があるとされています。

自律性
(じりつせい)
自分の行動を自分で選べている、やらされていないと感じられること
有能感
(ゆうのうかん)
自分にはできる、前より伸びていると感じられること
関係性
(かんけいせい)
信頼できる人と、尊重し合いながら取り組めていると感じられること

この3つの欲求を軸に、今日から試せる具体的な接し方を10個整理しました。

自律性を満たす接し方

  1. 「勉強しなさい」より先に、選べる形にする(宿題をやる時間や順番を子ども自身に選ばせる)
  2. 子どもの「なぜ?」に答えを渡さず、一緒に調べる(恐竜や虫など好きなテーマほど効果が出やすい)
  3. リビング学習は「監視」ではなく「気配」の距離感にする(隣で口を出し続けると自律性を奪ってしまう)

有能感を満たす接し方

  1. 結果ではなく過程を具体的にほめる(「頭いいね」ではなく「最後まで諦めなかったね」)
  2. 難易度をスモールステップにする(少し頑張れば届く課題を積み重ね、「できた」の回数を増やす)
  3. テストの点数より「前よりできるようになった部分」を一緒に見つける

関係性を満たす接し方

  1. 一緒に学ぶ時間を作る(読み聞かせ、親も隣で別のことを学ぶ姿を見せる)
  2. 頑張り自体を承認する言葉をかける(ベネッセの調査でも、努力を認められている子どもほど学習場面での幸福感が高い傾向が示されています)
  3. 間違えても安心して話せる関係を保つ(頭ごなしに否定せず、まず気持ちを受け止める。共感→理由→選択肢の型はここでも有効です)
10. 逆に避けたいのが、ご褒美・脅しといった外的コントロールに頼りきることと、きょうだいや友達との比較です。どちらも短期的には効いても、内側から湧く興味を弱める方向に働きやすいというのが、ここまで見てきた研究の共通点でした。

経営学的に見ると:自律性・有能感・関係性はマネジメントの中心理論でもある

この自己決定理論、実はビジネスの世界でもそのまま使われています。ダニエル・ピンクの著書『Drive』は、人を動かすのは「アメとムチ」ではなく自律性(Autonomy)・熟達(Mastery)・目的(Purpose)だと説いていますが、これは自己決定理論の自律性・有能感・関係性とほぼ重なる構造です。

子育てでもマネジメントでも、「やらせる」ための工夫に力を入れるほど、実は相手の内側から湧く意欲を弱めてしまうという逆説があります。指示や報酬で動かそうとする前に、選ばせる余地・小さな達成感・安心できる関係の3つが揃っているかを見直す方が、遠回りに見えて近道になるようです。

まとめ

  • ご褒美は短期的に効いても、内側から湧く興味を弱める「アンダーマイニング効果」が確認されている
  • 「頭いいね」より「よく頑張ったね」。能力ではなく過程をほめると、難しい課題にも粘れる子になる(Mueller & Dweck, 1998)
  • 自己決定理論の3つの欲求=自律性・有能感・関係性を満たす接し方が、内側から湧く意欲につながる
  • ビジネスの世界の動機づけ理論(Drive)とも構造が一致する
参考にした情報
アンダーマイニング効果・自己決定理論:Musubuライブラリ/MOANAVI
ほめ方の実験(Mueller & Dweck, 1998):東洋経済オンライン/育児アトラス
内発的動機づけと幼児期の接し方:天神メディア
家庭と学習意欲の関連データ:ベネッセ教育総合研究所