べるぞね

朝、着替えの途中で急に「幼稚園行きたくない」と言われると、無理にでも連れて行くべきか、今日だけは休ませるべきか、いつも一瞬迷います。臨床心理学の「登園しぶり・登校しぶり」に関する研究を調べたら、対応の指針になりそうな知見がいくつか見つかりました。

幼稚園の門の前で、しゃがんで目線を合わせながら手を振って見送るパパと、袖にすがりつく少し涙目の子供のドット絵イラスト

この記事の内容は、動画でも解説しています(約5分)。

「行きたくない」には4つのタイプがある——学校忌避行動の機能モデル

臨床心理学者Christopher Kearneyらが提唱した「学校忌避行動の機能モデル」では、子供が学校(園)を避けたがる理由を、大きく4つの機能に分類します(Kearney & Albano, 2004)。

  • ①園にある特定の何かを避けたい:苦手な活動、大きな音、特定の先生など、はっきりした不快刺激からの回避
  • ②対人関係・評価的な場面から逃れたい:集団の中で注目されるのが苦手、友達関係のストレスなど
  • ③親などそばにいたい人から離れたくない:分離不安に近く、愛着対象の注目を求める動き
  • ④家にいた方が魅力的なものがある:好きな遊びができる、テレビが見られる、親を独占できるなど、園より家の方が単純に「得」な状態

①②は「嫌なことから逃げる」という負の強化、③④は「望ましいものを得る」という正の強化で動いています。全部をひとまとめに「甘え」や「わがまま」として扱うと対応がずれやすく、まず自分の子の「行きたくない」がどのタイプに近いかを考えるのが最初の一歩になります。

見送り方一つで変わる——「短く一貫した儀式」の効果

特に③の分離不安が強く関わっているタイプについては、送り出し方そのものが効いてきます。保育・発達の分野で紹介されている知見では、長く引き延ばした別れより、毎回同じ・短く・温かい「さよならの儀式」の方が、子供の分離不安が早く落ち着きやすいとされています(NAEYC)。ハグ一つ、決まった一言、決まった手の振り方など、毎回まったく同じ短い手順を作り、一度離れたら戻らないのがポイントです。何度も後ろ髪を引かれて戻ってしまうのは、かえって「まだ交渉の余地がある」というシグナルになり、長引かせやすいパターンとして知られています。

「時々だけ折れる」が一番長引かせる——強化スケジュールの罠

特に④のような「家にいた方が得」なタイプで気をつけたいのが、行動分析学における強化スケジュールの知見です。B.F. Skinnerらの研究以来よく知られているのは、毎回同じように反応する(強化する/しない)よりも、時々だけ反応する「間欠強化」の方が、その行動をやめさせにくくするという現象です。特に、何回粘れば通るか予測できない「変動比率スケジュール」は、あらゆる強化スケジュールの中で最も消去(行動をなくすこと)への抵抗力が強いことが知られています。ギャンブルがやめられなくなる仕組みと同じ原理です。

これを行き渋りに当てはめると、「今日はどうしても無理そうだから特別に休ませよう」を時々だけやってしまうのが、実は一番厄介なパターンになります。子供からすると「粘れば通ることがある」という学習が強く刻まれ、次も次も粘る価値があることになってしまうからです。皮肉なことに、「絶対に休ませない」か「毎回同じ基準で判断する」かのどちらかの方が、子供にとっても見通しが立ちやすく、結果的に行き渋り自体も長引きにくいということになります。

ここは「気持ちを無視して毅然と対応しろ」という話ではありません。「怖い」「不安」という気持ちそのものは認めた上で、「休むかどうか」という行動の結果だけは一貫させる、という区別が大切です。気持ちへの向き合い方については「だから言ったのに」の記事で紹介した感情コーチングの考え方がそのまま使えます。

実践のヒント

  • 送り出しの儀式を固定化する:ハグ・一言・手を振るなど、毎回同じ短い手順にし、離れたら戻らない
  • 気持ちは認め、行動の基準は一貫させる:「怖かったね」「嫌だったね」と受け止めつつ、休むかどうかの判断はその日の気分で変えない
  • 特定の原因が疑われるなら先生と共有する:①②のタイプが疑われる場合、園でのどんな場面がきっかけになっているか先生と情報交換する
  • 家を「特別に楽しい場所」にしない:休んだ日に大好きな動画見放題など、園を休むこと自体にご褒美がついてしまう状況は避ける

まとめ

  • 「行きたくない」の理由は一つではなく、回避・逃避・分離不安・報酬の追求という4つの機能に整理できる(Kearney & Albano, 2004)
  • 分離不安が絡むタイプには、長い別れより短く一貫した「さよならの儀式」の方が効果的とされている
  • 「時々だけ休ませる」対応は、間欠強化の原理により行き渋りを最も長引かせやすい。一貫した基準の方が子供にとっても見通しが立ちやすい
  • 気持ちを受け止めることと、行動の結果を一貫させることは両立できる。両方を意識するのが現実的な落としどころ
参考にした情報
学校忌避行動の機能モデル:Kearney & Albano (2004)
別れの儀式と分離不安:NAEYC
間欠強化と消去抵抗:行動分析学における強化スケジュール研究(Skinnerの古典的研究に基づく)