べるぞね

朝、子どものおでこがあつい。体温計を見て、ため息が出る。先月も休んだばかりなのに、また仕事を休む連絡を入れなければいけない。「うちの子、体が弱いのかな」「こんなにひいて大丈夫なのかな」——園に通う子の親なら、何度もくり返す朝です。今回は、集団生活と風邪の回数の関係を、子どもを何年も追いかけた医学の研究と、国のガイドラインから調べました。病気の治し方ではなく、「これはふつうのことなのか」を確かめる記事です。

ソファで毛布にくるまり、おでこに冷却シートを貼った子供と、体温計を持って心配そうに見るパパのドット絵イラスト

集団に入った時期に、風邪は増える

カナダのモントリオール大学のSylvana Côtéらは2010年、医学誌Archives of Pediatrics & Adolescent Medicineに、ケベック州で1998年に生まれた子どもの家庭1,238組を8年間追いかけた研究を発表しました。母親に、子どもが呼吸器の感染症(風邪など)や耳の感染症(中耳炎など)にかかったかを、くり返したずねています。

2歳半より前に大きな集団保育に入った子を、家庭で育った子とくらべると、次のようになりました。

家庭で育った子(これを1とする)1.00
早く集団に入った子:入ってすぐの幼児期1.61倍
早く集団に入った子:小学校低学年(5〜8歳)0.79倍

呼吸器の感染症にかかる割合(家庭で育った子を1としたとき)。Côté et al. (2010) より作成

入ってすぐの時期は、風邪などが約1.6倍。耳の感染症も1.62倍でした。ところが小学校低学年になると、同じ子たちは家庭で育った子より少なくなりました(呼吸器0.79倍、耳0.57倍)。

研究チームは、「子どもは、大きな集団での活動をはじめた時期に感染症にかかる」「最初の数年の感染症は、全体としての負担を増やさない」とまとめ、医師は親を安心させてよいと書いています。つまり、園に入って風邪が増えるのは、その子の体が弱いからではなく、集団に入った子みんなに起きることです。なお、母親の記憶をもとにした研究で、原因と結果を言い切れるものではありません。

アメリカとオランダでも、同じ形だった

アメリカのアリゾナ大学のThomas Ballらは2002年、同じ医学誌で、ツーソンで生まれた子ども991人を13歳まで追いかけた研究を発表しました。「この1年で風邪を4回以上ひいたか」を、親にくり返したずねています。

  • 大きな保育施設に通った子は、2歳のとき、風邪をよくひく割合が家庭で育った子より高かった
  • 6歳のときは、反対に低かった
  • 13歳のときは、差がなくなっていた

オランダのユトレヒト大学医療センターのMarieke de Hoogらは2014年、医学誌BMC Medicineで、子ども2,217人を6歳まで追いかけた研究を発表しました。こちらは親の記憶ではなく、かかりつけ医の診療記録を使っています。0歳から保育施設に通った子は、1歳までは風邪や中耳炎の診断が多く、4歳をすぎると少なくなりました。6年間の合計で見ると、診断の回数はほとんど同じでした(子ども100人・1年あたり59回と56回)。

3つの国の研究で、形はそろっています。早く集団に入った子は早くかかり、あとから集団に入った子はあとでかかる。風邪をひく時期が、前にずれているようです。

年に何回までが「ふつう」なのか

では、回数の目安はあるのでしょうか。ドイツのベルリン・シャリテ医科大学のChristoph Grüberらは2008年、医学誌Pediatric Allergy and Immunologyで、1990年に生まれた子ども1,314人を12歳まで追いかけた記録をまとめました。親がつけた日誌をもとに、呼吸器の感染症の回数を数えています。

0〜2歳(平均は年3.4回)年11回まで
3〜5歳(平均は年2.3回)年8回まで
6〜12歳(平均は年1.1回)年4回まで

呼吸器の感染症が「ふつう」とみなせる上限の回数(かっこ内は平均)。Grüber et al. (2008) より作成

平均は年に2〜3回ですが、子どもによる差がとても大きく、研究チームは3〜5歳なら年8回までは、ふつうの範囲とみなせると書いています。年8回なら、1か月半に1回です。「また?」と感じる回数でも、範囲の中におさまっていることが多そうです。

ドイツの子どもの、30年ほど前の記録です。数え方によって回数は変わるので、日本の子どもにそのまま当てはまる数字ではありません。目安として見てください。

国のガイドラインも「完全には防げない」と書いている

こども家庭庁の「保育所における感染症対策ガイドライン」は、小さい子が集団で感染症にかかりやすい理由を、次のように説明しています。

  • 乳幼児は抵抗力が弱く、体のはたらきがまだ十分に育っていない
  • 昼寝・食事・遊びなどで、子どもどうしが近くでふれあうことが多い
  • 小学生以上の子とくらべて、手洗いなどが十分にできない

そのうえで、園の中に感染症が入ること、広がることを「完全に阻止することは不可能」と書いています。園の先生も親も、手をぬいているからうつるのではありません。

では、手洗いには意味がないのでしょうか。世界中の研究をまとめる国際的な取り組み「コクラン」の2023年のまとめでは、手洗いなどの手の衛生をすすめたグループは、呼吸器の感染症が14%少なかったと報告されています(9つの試験、約5万2千人)。2021年の別のまとめでは、豊かな国の保育施設や学校で手洗いをすすめると、下痢が約3分の1へったとされています。

手洗いで風邪を「防げる」とまでは言えません。風邪のほうは、研究のかたよりなどから、まとめた研究者自身が「はっきりした結論は出しにくい」と書いています。それでも、ゼロにはできないが、少しへらすことはできる、というのが今の証拠から言えることです。

経営学のヒント:先に払うか、あとで払うか

会社のお金の世界には、「いくら払うか」と同じくらい「いつ払うか」を大事にする考え方があります。たとえば、機械を買うとき。最初にまとめて払う方法と、毎月少しずつ払う方法では、合計が同じでも、手もとのお金の動きはまったくちがいます。経営者は、合計だけでなく、支払いが重なる時期に会社が持ちこたえられるかを見ます。

子どもの風邪も、これに近い見方ができます。研究を見るかぎり、早く集団に入った子は幼児期に多くかかり、小学校では少なくなります。オランダの研究では、6年間の診断の合計はほぼ同じでした。「余分に払わされている」のではなく、「先に払っている」のに近いようです。

ただし、このたとえには限界があります。同じオランダの研究で、病院にかかった回数の合計は、0歳から保育に通った子のほうが少し多くなっていました(1.15倍)。「合計はぴったり同じ」「早く入れたほうが得」とは言えません。どの研究も、たくさんかかるほど体が強くなることを示したものではありません。

それでも、経営の考え方から学べることがあります。支払いが重なる時期が分かっているなら、その時期をのりきる備えを、先にしておくことです。風邪そのものはへらしにくくても、風邪のたびにあわてる回数は、へらせます。

今日からできること

1は上の研究から言えること、2と4は国のガイドラインや研究のまとめにもとづくこと、3と5は考え方をもとにした工夫です。

  1. 「年に何回かはひくもの」と、先に数に入れておく。3〜5歳で年8回までは、ふつうの範囲とした研究があります。ひくたびに「体が弱いのでは」と考えなくて大丈夫です。
  2. 帰ったら手を洗う。食事の前にも洗う。完全には防げませんが、少しへらせます。子どもといっしょに洗うと、続けやすくなります。
  3. 休むときの段取りを、元気なうちに決めておく。どちらが休むかの順番、たのめる人、病児保育の登録などです。熱が出た朝に一から考えると、それだけで消耗します。
  4. 登園の目安を知っておく。国のガイドラインは、「24時間以内に38℃以上の熱が出た場合」や解熱剤を使っている場合は、登園をひかえる目安としています。くわしくは園のきまりを確かめてください。
  5. 記録をつける。いつ、何日休んだかを、カレンダーに書いておきます。「ずっと休んでいる」と感じていても、数えてみると思ったより少ないことがあります。受診のときにも役に立ちます。

国のガイドラインの表では、熱があって、顔色が悪く苦しそう、呼吸が速い、意識がはっきりしない、けいれんが起きた、といったときは、すぐに受診が必要とされています。この記事は病気の見分け方を教えるものではありません。回数がとても多い、治りが悪い、体重がふえない、など気になることがあるときは、かかりつけの小児科に相談してください。

まとめ

  • 早く集団に入った子は、幼児期の呼吸器の感染症が約1.6倍。小学校低学年では、家庭で育った子より少なかった(Côté et al., 2010)
  • 保育施設に通った子は2歳で風邪が多く、6歳で少なく、13歳で差がなくなった(Ball et al., 2002)
  • オランダでは、6年間の風邪・中耳炎の診断の合計はほぼ同じだった。ただし受診の回数は保育に通った子が少し多かった(de Hoog et al., 2014)
  • 3〜5歳の呼吸器の感染症は平均で年2.3回。年8回まではふつうの範囲とされた(Grüber et al., 2008)
  • 園での流行は完全には防げない。手洗いで、呼吸器の感染症は14%、下痢は約3分の1へった(こども家庭庁/コクランのまとめ)
  • 余分にかかっているのではなく、先にかかっているのに近い。重なる時期の備えを先にしておく