べるぞね

保育園に預けている、つい大きな声で怒ってしまった、疲れてスマホを見ながら返事をしてしまった——そんな日の夜に「愛着障害」という言葉を見かけると、うちの子は大丈夫だろうかと不安になります。そこで今回は、医学の診断基準で「愛着障害」がどう定義されているか、どんな環境で起きやすいのか、保育園や親の接し方はどう関係するのかを、研究と診断基準そのものにあたって調べてみました。先に結論を言うと、ふつうの家庭のふつうの失敗で起きるものではありません。そのうえで、親にできることもはっきりありました。

玄関で、目に涙をためた子供をひざをついて抱きしめるパパのドット絵イラスト

医学でいう「愛着障害」は、ふだんの子育てで起きるものではない

アメリカ精神医学会の診断基準「DSM-5」では、子どもの愛着に関わる障害として、反応性アタッチメント障害と脱抑制型対人交流障害の2つが定められています。前者は、つらいときにも大人に慰めを求めず、慰められても落ち着かない状態。後者は、知らない大人にもためらいなくついていくような状態です。

そして、どちらにも共通して診断に必要なのが、「極端に不十分な養育」を経験していることです。DSM-5では、次のいずれかとされています。

  • 慰め・刺激・愛情といった基本的な気持ちの欲求が、長いあいだ大人から満たされないネグレクト(育児放棄)
  • 主な養育者が何度も入れ替わり、安定した愛着をつくる機会が限られること(例:里親先がたびたび変わる)
  • 子どもの数に対して大人がとても少ない施設など、特定の大人と愛着をつくる機会がほとんどない環境で育つこと

さらにDSM-5は、反応性アタッチメント障害について「深刻なネグレクトを受けた子どもたちの中でも、まれで、10%未満」と書いています。知られている原因は深刻なネグレクトだけで、しかも深刻なネグレクトを受けた子の大半は、この障害にならないとされています。

ネットや本では「愛着障害」という言葉が、大人の生きづらさの説明などにもっと広い意味で使われることがあります。ただ、診断名としての愛着障害は、ここで見たように非常に厳しい条件のもとで起きるものです。保育園に通っている、たまに怒鳴ってしまった、忙しい日がある、といったことは、この条件には当てはまりません。

環境が変われば、子どもは回復していく

愛着障害について最も有名な研究のひとつが、アメリカの研究チームがルーマニアの首都ブカレストの施設で行った「ブカレスト早期介入プロジェクト」です。施設で育っていた子どもたちを、くじ引きで「里親家庭に移る組」と「施設に残る組」に分け、家庭で育った子どもたちとも比べながら8歳まで追いかけました。

チューレーン大学のAnna Smykeらが2012年にAmerican Journal of Psychiatry誌にまとめた結果では、慰めを求めない・感情を出さないといった反応性アタッチメント障害のサインは、里親家庭に移ると減っていき、生後30か月以降の調査では、一度も施設に入らなかった子どもと見分けがつかなくなりました。一方、誰にでもついていくタイプのサインは改善しにくく、2歳になる前に里親家庭へ移った子ほど少なかったという結果でした。

つまり、愛着障害は「一度なったら終わり」ではなく、安定して関われる大人がいる環境に変われば回復していくもので、その環境は早いほどよい、ということです。

保育園に預けると愛着が不安定になる?

共働きの家庭が気になるのがここだと思います。アメリカ国立小児保健・人間発達研究所(NICHD)が1997年にChild Development誌に発表した大規模な調査では、全米10か所の乳児1,153人を追いかけ、1歳3か月の時点で母親との愛着の安定度を調べました。

結果は、保育の質・保育時間の長さ・預け始めた月齢・預け先の安定性・保育の種類のどれも、それだけでは愛着の安定度に影響していませんでした。影響していたのは、母親が子どもの気持ちに気づいて応える「敏感さ」の方でした。

ただし注意点もあります。親の敏感さが低いことに、質の低い保育・長めの保育時間・複数の預け先が重なった場合には、愛着が不安定になりやすくなっていました。保育園そのものではなく、「家庭での関わりが手薄」と「預け先の不安定さ」が重なることがリスクだ、という読み方ができます。

いちばん関係するのは、親の「敏感さ」

オランダのライデン大学のMarianne De WolffとMarinus van IJzendoornが1997年にChild Development誌に発表したメタ分析(66の研究、4,176人分をまとめたもの)では、親の敏感さと子どもの愛着の安定度の関係を調べました。親子の愛着を同じ方法(ストレンジ・シチュエーション法)で測り、親の関わりを観察した21の研究に絞ると、両者には中くらいの強さの関係がありました(相関係数0.24)。研究者は、敏感さは「重要だが、それだけで決まるわけではない」条件だとまとめています。

ここでいう敏感さとは、子どものサインに気づき、その意味を読み取り、タイミングよくふさわしく応えることです。100点満点で応え続けることではありません。

そして心強いのが、この敏感さは練習で伸ばせるということです。同じライデン大学のBakermans-Kranenburgらが2003年にPsychological Bulletin誌に発表したメタ分析(70の研究)では、親の敏感さを高めるプログラムは効果があり、しかも回数をやみくもに増やすより、ほどほどの回数で、具体的な行動に絞ったプログラムの方が効果が高かったのです。論文のタイトルは、そのものずばり「Less is more(少ない方がよい)」でした。

経営学のヒント:「サービス・リカバリー・パラドックス」

ビジネスの世界には、「サービス・リカバリー・パラドックス」という考え方があります。お店や会社が失敗をしても、その後の対応(リカバリー)がよければ、お客さんの満足度が、最初から失敗がなかった場合と同じか、それ以上になることがある、というものです。

2007年にJournal of Service Research誌に発表された、この現象を調べた研究をまとめたメタ分析では、うまく立て直したときの満足度を上げる効果は確かにある一方で、また利用したい気持ちや口コミまでは上げていませんでした。つまり「失敗してもリカバリーすれば帳消し以上」という万能の話ではありませんが、失敗のあとの立て直し方が、相手の気持ちを左右することは確かめられています。

親子の関係でも、似たことが分かっています。コロラド州立大学のKempらが2016年にFamily Relations誌に発表した研究では、3歳の子どもと母親96組に、自由遊びと少し難しいパズルに取り組んでもらいました。子どもが言うことを聞かない、親がきつく言ってしまう、といったうまくいかない場面のあとに、親子がよい関わりに戻れた(修復できた)のは、全体の約半分。そして、パズルの場面で修復できる割合が高い親子ほど、4か月後の子どもの気持ちの切り替えがうまく、問題行動も少なかったのです。

うまくいかない場面は、どの親子にも普通にあります。大事なのは失敗をゼロにすることではなく、失敗したあとに、もう一度つながり直せるかどうかです。

今日からできる接し方

  1. 泣いたり怖がったりしたときは、まず応える。敏感さの基本は「気づく・読み取る・応える」です。全部にすぐ応えられなくても、「見てるよ」「あとで聞くね」と返すだけでも違います。
  2. 怒りすぎたら、あとで修復する。「さっきは大きな声を出してごめんね。パパも疲れてた」と、子どもの目の高さで伝えて抱きしめる。修復は親の負けではなく、関係を立て直す技術です。
  3. 預け先は、なるべく同じ人・同じ場所に。保育園そのものは問題ではありませんが、預け先がころころ変わるのは避けたいところです。送り迎えのときに少しだけ様子を話す時間があると、家庭での関わりにもつながります。
  4. 親に余裕がないときは、助けを借りる。敏感に応えるには、親に少しの余裕が必要です。パートナーと交代する、一時保育や自治体の子育て相談を使う。それは手抜きではなく、子どもの安心の土台を守るための手段です。

心配な様子が続くときは

それでも、つらいときにまったく慰めを求めない、抱っこしても落ち着かない状態が長く続く、知らない大人に誰にでもためらいなくついていく、といった様子が気になるときは、ひとりで判断せず、かかりつけの小児科や自治体の保健センター、子育て相談の窓口に相談してください。この記事は情報の整理であり、診断のためのものではありません。

まとめ

  • 診断名としての愛着障害(反応性アタッチメント障害・脱抑制型対人交流障害)は、深刻なネグレクト、養育者の頻繁な入れ替わり、大人がとても少ない施設などの極端に不十分な養育で起きる。深刻なネグレクトを受けた子でも10%未満とまれ(DSM-5)
  • ルーマニアの研究では、里親家庭に移ると反応性アタッチメント障害のサインは減り、早く移った子ほど誰にでもついていくサインも少なかった(Smyke et al., 2012)
  • 保育園の質・時間・開始月齢は、それだけでは愛着に影響しなかった。影響したのは親の敏感さ。リスクは敏感さの低さと預け先の不安定さが重なったとき(NICHD, 1997)
  • 親の敏感さと愛着の安定には中程度の関係があり(De Wolff & van IJzendoorn, 1997)、敏感さはほどほどの回数・具体的な行動に絞った練習で伸ばせる(Bakermans-Kranenburg et al., 2003)
  • 失敗のあとの立て直しが大事。3歳児の親子で、修復できる割合が高いほど、その後の気持ちの切り替えがうまかった(Kemp et al., 2016)
参考にした情報
診断基準:American Psychiatric Association (2013) DSM-5「Reactive Attachment Disorder」「Disinhibited Social Engagement Disorder」
ブカレスト早期介入プロジェクト:Smyke et al. (2012) American Journal of Psychiatry
保育と愛着:NICHD Early Child Care Research Network (1997) Child Development
親の敏感さと愛着:De Wolff & van IJzendoorn (1997) Child Development
敏感さを高める介入:Bakermans-Kranenburg, van IJzendoorn & Juffer (2003) Psychological Bulletin
サービス・リカバリー・パラドックス:de Matos, Henrique & Rossi (2007) Journal of Service Research
親子の修復:Kemp et al. (2016) Family Relations