「もう年中なのに抱っこ?」「これ以上応えたら、甘えん坊になるのでは」。抱っこをせがまれるたびに、こんなふうに迷うことがあります。調べてみると、抱っこに応えること自体が甘えを悪化させるという根拠は乏しく、むしろ受け止めたほうが自立が早いとする見解が多いことが分かりました。ただし、「何でも応じる」ことと「抱っこを受け止める」ことは別物です。

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「抱き癖がつく」を調べた古典的な研究
「泣くたびに応えると甘えん坊になる」という通念を検証した有名な研究が、メアリー・エインスワースらによる1972年のBell & Ainsworthの研究です。26組の母子を乳児期に追跡したところ、泣いたときに一貫して素早く応えた母親の子どもは、その後の時期に泣く頻度も時間も減り、泣き以外の方法で意思を伝える力も育っていました。「応えすぎると甘やかす」という通念とは逆の結果です。
抱っこは「安全基地」への充電
愛着理論を提唱したボウルビィは、子供が不安を感じたとき、養育者のもとに戻り、安心を得てから再び外の世界を探索する仕組みを考えました。ポイントは、「接近が強いから探索できない」のではなく、「戻れる相手がいるから探索できる」という点です。安全基地は依存の反対にある自立を妨げるものではなく、自立に向かうための支えとして位置づけられています。抱っこをせがむのは、遊びや冒険の合間の「充電」と考えると、受け止めやすくなります。
「甘えさせる」と「甘やかす」は別物
ここで大事なのが、言葉の区別です。発達心理学者の岩立京子先生(東京学芸大学名誉教授)は、次のように整理しています。
| 甘えさせる | 子供の欲求を年齢や状況に応じて受け入れること。「見て見て!」と注目を求める、「やって」と抱っこをせがむ、など。安心感と信頼関係が育ち、自立につながる |
|---|---|
| 甘やかす | 欲求を必要以上に受け入れたり、本来自分でできることを親が代わりにやりすぎたりすること。歩きたいのに親の都合でベビーカーに乗せ続ける、欲しいものを何でも買い与える、など。我慢や責任感が育ちにくい |
つまり抱っこをせがまれて応えるのは「甘えさせる」の典型例で、問題になるのはむしろ、物を何でも買い与えることや自分でできることを代わりにやってしまうことのほうです。
5〜6歳の抱っこでも、受け止めたほうが自立が早い
子育て心理学協会の東ちひろさんは、5〜6歳の子が「抱っこ」「食べさせて」と求める場面について、甘えを十分に受け止めたほうが子どもの自立が早くなると述べています。年齢の割に幼い要求に見えても、それは「守られている」と感じたい気持ちの表れで、不安の多い時期には自然な反応だという考え方です。そのうえで、甘えを受け止めるのと並行して、お手伝いなど責任のある役割も任せていくのが有効だとされています。これは研究というより専門家の見解ですが、上の「甘えさせる」と「甘やかす」の区別ときれいに一致します。
経営学的に見ると:「安全基地」は組織の心理的安全性と同じ構造
この「戻れる場所があるから挑戦できる」という構造は、組織論の心理的安全性とよく似ています。自己肯定感の記事で見たように、失敗しても受け入れられると感じられるチームほど、メンバーは新しい挑戦に踏み出せます。上司が「頼ってくるな」と突き放すより、必要なときに支えてくれると分かっている職場のほうが、結果的に自律的な人が育ちやすい、という話です。
さらに「甘えさせる」と「甘やかす」の区別は、部下育成でいう感情面のサポートと仕事の肩代わり(過干渉)の違いにも重なります。話を聞いて安心させるのは支援ですが、本人ができる仕事を上司が全部やってしまうと、成長の機会を奪います。抱っこは前者、「何でも代わりにやる」は後者、と線を引くと迷いが減りそうです。
まとめ
- 「抱き癖がつく」を検証した1972年の研究では、素早く一貫して応えた親の子ほど、その後の泣きが減った。ただし小規模・乳児期の観察研究で、追試で一致しないものもある
- 愛着理論では「戻れる相手がいるから探索できる」。抱っこは自立を妨げる依存ではなく、挑戦への充電
- 抱っこをせがむのは「甘えさせる」の例。問題になりやすいのは、物を何でも買い与える・できることを代わりにやりすぎる「甘やかす」ほう
- 5〜6歳でも、甘えを受け止めつつお手伝いなどの役割を任せると自立が早いとする専門家の見解がある
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甘えさせると甘やかすの違い:ベネッセ教育情報サイト(岩立京子先生)
5〜6歳の抱っこ:日経xwoman(東ちひろさん)