パソコンで作業していると、横から「ちょっと聞いてー」。「うん、ちょっと待ってね」と返しても、「あのねー、〇〇がねー、〇〇でー」と話は止まらない。頭の中で組み立てていたものがバラバラになって、思わず「待ってって言ってるでしょ!」と怒鳴りたくなる——年中の子と暮らしていると、ほぼ毎日ある場面です。今回は、子どもが「待って」を待てない理由、親が作業中ほどイライラしやすい理由、そしてその場をうまく収める方法を、発達心理学と心理学の研究から調べました。

この記事の内容は、動画でも解説しています(約5分)。
子どもが待てるかどうかは「約束が守られるか」で変わる
「待つ力」の研究で有名なのが、お菓子を前に「食べずに待てたら、もう1つあげる」と伝えて、子どもが何分待てるかを測るマシュマロ実験です。ロチェスター大学のCeleste Kiddらは2013年にCognition誌で、この実験の前にひと工夫した研究を発表しました。
実験の前に、大人が子どもに「待っていたら、もっといいクレヨンを持ってくるね」と約束します。半分の子には大人が約束どおり持ってきて、もう半分の子には「ごめん、なかった」と約束を破りました。そのあとでマシュマロ実験をすると、平均4歳半の子ども28人のうち、約束を守る大人と過ごした子は平均約12分待てたのに、約束を破る大人と過ごした子は約3分でした。およそ4倍の差です。
作業中ほど怒鳴りたくなるのは、頭の作業スペースが足りないから
一方で、親がイライラしやすいのにも理由があります。バージニア工科大学のKirby Deater-Deckardらが2010年にPsychological Science誌に発表した研究では、双子を育てる母親216人に、子どもと一緒に少し難しい課題に取り組んでもらい、その様子を観察しました。すると、子どもが反発したり気が散ったりしたときにきつい反応を返してしまうのは、ワーキングメモリ(頭の中で情報を一時的に置いて処理する作業スペース)が小さめの母親だけでした。言葉の力や空間の力には、こうした関係は見られませんでした。
この研究は、母親ひとりひとりのワーキングメモリの差を調べたもので、作業中かどうかを比べたわけではありません。ただ、仕事で頭がいっぱいのときは、その作業スペースの大部分が仕事に使われている状態です。そこに子どもの話が割り込んでくれば、イライラが表に出やすくなるのは、性格の問題というより頭のしくみの問題と考えられます。怒鳴りたくなる自分を、そこまで責めなくていいということです。
経営学のヒント:会議の「パーキングロット」
会議の進め方には、「パーキングロット(駐車場)」という定番の手法があります。議題から外れた話が出たとき、無視も議論もせず、ホワイトボードの端に書き出して「いったんここに置いておいて、あとで扱います」と預かる方法です。発言した人は話を受け止めてもらえたと感じ、会議は本題に戻れます。
この「預かる」が効く理由を裏付けるような研究もあります。フロリダ州立大学のE. J. MasicampoとRoy Baumeisterが2011年にJournal of Personality and Social Psychology誌に発表した研究では、やり残した目標があると、関係のない作業中にもそのことが頭に浮かんで邪魔をしました。ところが、「いつ・どこで・どうやって片付けるか」という具体的な計画を立ててもらうだけで、その邪魔がなくなったのです。そして、あとで実際にその計画を実行した人ほど、邪魔な考えが浮かばなくなっていました。
家庭に置き換えると、子どもの「聞いてほしい話」は、子どもにとってやり残しの大事な用事です。そして親にとっても、中断された作業はやり残しです。「いつ聞くか」をはっきり決めて預かることで、子どもも親も、いったん頭を静かにできると考えられます。
今日からできる対処法
- 最初の10秒だけ、手を止めて顔を見る。画面を見たまま「待って」と言うと、子どもには「聞いてもらえない」と伝わりやすくなります。手を止めて目を合わせ、「聞きたい!」と先に言うだけで、待つ準備ができます。
- 「いつ聞くか」を具体的に約束する。「あとでね」ではなく、「あと5分でこれを保存するから、そうしたら一番に聞かせて」。キッチンタイマーを子どもの前でセットすると、待つ時間が目に見えます。
- 話を「あずかる」。付箋に、話のタイトルだけ書いておきます(「恐竜の話」など)。字が書けない子なら、絵でも大丈夫です。パーキングロットと同じで、「ここに置いてあるから、なくならないよ」と見せるのがポイントです。
- 約束の時間になったら、親から声をかける。「さっきの恐竜の話、聞かせて」と親から言う。これがいちばん大事です。Kiddらの研究のとおり、約束が守られる経験が積み重なるほど、次から待てる時間が延びていくはずです。
- 怒鳴りそうになったら、作業のほうを止める。頭の作業スペースがいっぱいのまま、作業と子どもの両方をさばこうとすると限界がきます。ファイルを保存して、パソコンを閉じて、深呼吸してから向き合う。作業より先に、自分の頭を空けてあげます。
そもそも作業中に話しかけられる回数を減らす工夫(「今は聞ける時間・聞けない時間」を見せる方法など)は、仕事中の質問ラッシュの記事でくわしく書いています。
まとめ
- 子どもが待てる時間は、大人が約束を守るかどうかで大きく変わった。約束を守る大人だと平均約12分、破る大人だと約3分(Kidd et al., 2013)
- 子どもの困った行動にきつく反応しやすいのは、ワーキングメモリが小さめの親だった(Deater-Deckard et al., 2010)。作業で頭がいっぱいなときにイライラするのは、頭のしくみの問題でもある
- 会議の「パーキングロット」のように、話を預かって「いつ聞くか」を決める。具体的な計画を立てると、やり残しが頭を邪魔しなくなる(Masicampo & Baumeister, 2011)
- 対処法は、最初の10秒だけ手を止める、時間を具体的に約束する、付箋で話を預かる、約束の時間に親から声をかける、怒鳴りそうなら作業を止める、の5つ
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親のワーキングメモリときつい反応:Deater-Deckard et al. (2010) Psychological Science
計画を立てるとやり残しが頭を邪魔しなくなる:Masicampo & Baumeister (2011) Journal of Personality and Social Psychology