べるぞね

「明日早いんだから、もう寝なさい」「だいじょうぶ、だいじょうぶ」「いや、昨日も起きれてないやん」「だいじょうぶだって!」——そして翌朝、やっぱり起きない。我が家の年中さんとの、ほぼ毎晩のやりとりです。昨日の失敗を本人も覚えているはずなのに、なぜ毎晩あんなに自信満々なのか。未就学児の「予想」を調べた発達心理学の研究、子どもの体内時計の研究、そしてビジネスの世界の「計画錯誤」という考え方から、対策と声掛けを整理しました。

朝、カーテンを開けるパパと、布団にくるまってまだ眠っている子供のドット絵イラスト

この記事の内容は、動画でも解説しています(約5分)。

未就学児は「失敗の記録」を見ても予想を変えない

ケント州立大学のAmanda Lipko、John Dunlosky、William Merrimanが2009年にJournal of Experimental Child Psychology誌に発表した研究(「Persistent overconfidence despite practice」=練習しても続く自信過剰)が、この問題にかなり近い答えを出しています。

実験はシンプルです。未就学児に10枚の絵を見せ、「いくつ覚えていられると思う?」と予想させてから、実際に思い出してもらいます。これを毎回新しい絵で何度も繰り返しました。

  • 実験1:子どもたちは最初から実際より多く覚えられると予想し、その自信過剰は3回繰り返しても続いた
  • 実験2:自分ではなく「ほかの子」がいくつ覚えられるかを予想させても、やはり多めに予想した。「そうだったらいいな」という願望だけでは説明がつかない
  • 実験3:予想の前に「さっきはいくつ思い出せた?」と振り返らせた。子どもたちは前回の数を正確に答えられたのに、次の予想はやはり多めのままで、5回繰り返しても下がらなかった
実験3は、まさに「昨日起きれてないやん」と同じ状況です。子どもは昨日起きられなかったことを覚えていて、認めることもできる。それでも「明日は大丈夫」という予想は変わらない。嘘をついているのでも、親をなめているのでもなく、過去の結果を次の予想に反映させる力がまだ育っていない、というのが研究からの読み取りです。

この自信過剰は、実は悪いものではない

とはいえ、この「根拠のない自信」をつぶせばいいわけではありません。発達心理学者のDavid Bjorklundは、幼い子どもの考え方の未熟さには発達上の意味があると論じ、そのひとつとして自分の能力を高く見積もる傾向を挙げています。自分はできると思っているからこそ、失敗してもまた挑戦できる、という見方です。

実際、Bjorklundらが2007年にCognitive Development誌に発表した研究(Shin, Bjorklund & Beck)では、年長・小学1年生・小学3年生に記憶課題をくり返してもらい、最初のうちに自分の成績を多めに見積もった子と、正確に見積もった子を比べました。するとどの学年でも、多めに見積もった子の方が、その後の成績の伸びが大きかったのです。また、イェール大学のLockhartらの研究(2002年)では、5〜6歳の子どもは年上の子どもや大人よりも「苦手なことも、いずれ良くなる」と楽観的に考える傾向があり、研究者はこれを「守ってくれる楽観主義(protective optimism)」ではないかと論じています。

つまり親がやるべきなのは、「大丈夫じゃないでしょ」と自信を論破することではなく、子どもの予想が外れても困らない仕組みを先に用意しておくことだと考えました。

「眠くない」は、体の時計的に本当のこともある

もうひとつ見落としがちなのが、「まだ眠くない」が単なる言い訳ではない場合があることです。コロラド大学ボルダー校のMonique LeBourgeoisらが2013年にMind, Brain, and Education誌に発表した研究では、昼寝をしている2歳半〜3歳の子ども14人について、眠気を促すホルモンのメラトニンが夜に出はじめる時刻を、だ液から測りました。論文によると、寝つきが悪い・寝るのをいやがるといった悩みは、幼い子どもの約25%にみられるそうです。

平均すると、メラトニンが出はじめるのは午後7時40分ごろで、親が決めた就寝時刻(電気を消す時刻)の約30分前でした。そして、メラトニンが出はじめる時刻と就寝時刻が近い子ほど、寝つくまでに時間がかかり、寝るのをいやがる傾向も強くなっていました。大学の発表では、メラトニンが出る前に寝かされていた子の中には、寝つくまでに40〜60分かかった子もいたと紹介されています。

14人という小さな研究で、対象も2〜3歳です。それでも「寝ない子は言うことを聞かない子」とは限らず、体内時計と寝かせる時刻がずれていると、本人は本当に眠くない、という視点は持っておく価値があります。

経営学のヒント:大人も同じ「計画錯誤」をしている

実はこれ、子どもだけの話ではありません。ビジネスの世界では「計画錯誤(planning fallacy)」として知られています。

心理学者のRoger Buehler、Dale Griffin、Michael Rossが1994年にJournal of Personality and Social Psychology誌に発表した研究では、心理学科の学生37人に卒業論文を書き終えるまでの日数を予想してもらいました。

うまくいった場合の予想27.4日
本人の予想33.9日
最悪の場合の予想48.6日
実際にかかった日数55.5日
卒業論文の完成日数の予想と実際(Buehler, Griffin & Ross, 1994)

実際にかかった日数は、本人が考えた「最悪の場合」よりもさらに長く、予想した日数以内に書き終えた学生は約30%でした。しかも、この研究でいちばん大事なのは原因の分析です。人は予想するとき、過去の似た経験ではなく「今回の計画がうまく進む場面」を思い浮かべていました。さらに、過去に予想が外れた経験について尋ねると、その原因を「あのときは特別な事情があった」と、外部の・一時的な・その場かぎりのもののせいにしていて、過去の経験が今回の予想にあまり生かされていませんでした。

「昨日は遅くまで遊んだから」「今日はちゃんと寝るから大丈夫」と、大人も毎晩同じことをしています。夜ふかしした翌朝に後悔するのは、子どもだけではありません。

プロジェクト管理の世界では、この対策として「本人の見通しで決めず、似た過去の事例の実績で決める」という方法がとられます。ノーベル経済学賞を受けた心理学者ダニエル・カーネマンらが唱えた「外側からの視点(outside view)」にもとづく、「参照クラス予測(reference class forecasting)」と呼ばれるやり方です。家庭に置き換えると、寝る時刻を「今夜の子どもの自信」で決めずに、「これまでの我が家の実績」で先に決めておくということになります。

対策1:寝る時刻を「交渉の議題」にしない

いちばん効きそうなのは、「寝るかどうか」を毎晩話し合わなくていい状態にすることです。睡眠研究者のJodi Mindellらが2015年にSleep誌に発表した調査では、日本を含む各国の0〜5歳の子ども10,085人の母親に回答してもらい、毎晩決まった寝る前の流れ(就寝ルーティン)がある家庭ほど、寝る時刻が早く、寝つきが早く、夜中に起きる回数が少なく、睡眠時間が長いという関係が見られました。しかも、ルーティンをこなす頻度が高いほど結果が良くなる、という段階的な関係もありました。

アンケートにもとづく調査なので、ルーティンが原因だとまでは言い切れません。ただ、同じMindellらが2009年に生後7か月〜3歳の子ども405人の家庭で行った実験(ルーティンを取り入れる組と、取り入れない組を比べたもの)でも、ルーティンを取り入れた組は3週間で寝つきと夜中の目覚めが改善し、お母さんの気分も良くなっていました。

ポイントは、ルーティンがあると「もう寝る?」という交渉が「次はなにする?」という手順の確認に変わることです。お風呂→パジャマ→歯みがき→絵本1冊→電気を消す、のように順番を固定しておけば、子どもの「大丈夫」は議論の対象になりません。

対策2:「眠くない」が続くなら、寝かせる時刻をいったん遅らせる

布団に入ってから30分以上寝つけない日が続くなら、先ほどの体内時計のずれを疑って、「就寝時刻フェーディング(bedtime fading)」という方法を試す価値があります。

  1. 子どもが実際に寝ついている時刻を数日記録する
  2. その時刻の15〜30分後を、いったん布団に入る時刻にする(それまでは静かに過ごす)
  3. 布団に入って15分以内に寝つく日が2日続いたら、布団に入る時刻を15分早める(なかなか寝つけなかった日は、翌日もう少し遅くする)
  4. 目標の時刻に届くまで繰り返す。朝起きる時刻はずっと固定しておく

オーストラリアのフリンダース大学のCooneyらが2018年にSleep Medicine誌に報告した研究では、寝つきや夜中の目覚めに悩む1歳半〜4歳の子ども21人の家庭がこの方法を実践しました。寝つくまでの時間は平均23分から13分に縮み、寝るときのかんしゃくは週1.7回から0.4回に減り、効果は2年後も続いていました。比べる組のない小さな研究なので過信はできませんが、「寝かせる時刻を遅らせたほうが、結果的に早く寝るようになる」という方向性は押さえておきたいところです。

対策3:朝は光、夜は暗く

体内時計を合わせるいちばんの手がかりは光です。コロラド大学ボルダー校が2022年に紹介した研究では、3〜5歳の子ども36人に寝る前の光をあてたところ、5〜40ルクスという薄暗い部屋くらいの光でも、メラトニンの分泌が平均78%下がりました。研究チームは、寝る1時間前から部屋の明かりを落とすこと、昼間に十分な自然光を浴びることをすすめています。

我が家でできそうなのは、夜の絵本タイムは暗めの照明で、朝は決まった時刻にカーテンを開けて部屋を明るくすること。朝の光で体内時計を前にずらしておけば、夜の「眠くない」も起きにくくなるはずです。

声掛けは「予想」ではなく「予定」を伝える

ここまでをまとめると、声掛けのコツは子どもの予想と戦わないことです。「明日起きれるかどうか」は子どもにとっては議論の余地がある話でも、「8時になったら歯みがき」は予定なので議論になりません。

言いがちな声掛け言い換えてみる
「明日起きれないよ」「8時になったら歯みがきの時間だよ」(予想ではなく、予定を伝える)
「昨日も起きれなかったでしょ」言わない。Lipkoらの実験3の通り、過去の失敗を思い出させても予想は変わらず、責められた気持ちだけが残りやすい
「大丈夫じゃないでしょ」「そっか、大丈夫なんだね。じゃあ布団で大丈夫か試してみよう」(自信は受け止めて、行動は予定通り)
「早く寝なさい」「今日の絵本、恐竜のと車の、どっちにする?」(寝ることは決まっていて、選べるのは中身)
朝、起きなかったとき「だから言ったのに」「起きるの大変だったね。明日はカーテン開ける係やってみる?」(失敗を責めず、次の作戦に子どもを巻き込む)

朝起きられなかったときの「だから言ったでしょ」がなぜ逆効果になりやすいかは、「だから言ったのに」の記事でくわしく調べています。

まとめ

  • 未就学児は、前回の結果を正確に覚えていても、次の予想を下げない(Lipko, Dunlosky & Merriman, 2009)。「昨日起きれてないやん」が通じないのは反抗ではなく発達の段階
  • 自分を多めに見積もる子の方がその後の伸びが大きかったという研究もあり(Shin, Bjorklund & Beck, 2007)、論破してつぶす必要はない
  • 「眠くない」は体内時計のずれで本当のこともある。メラトニンが出る時刻と就寝時刻が近い子ほど、寝つきが悪く寝るのをいやがっていた(LeBourgeois et al., 2013)
  • 大人も過去の失敗を「特別な事情」のせいにして予想を変えない(計画錯誤、Buehler et al., 1994)。対策は「本人の見通し」ではなく「過去の実績」で決めること
  • 家庭では、就寝ルーティンで寝る時刻を交渉の議題から外す、寝つけないなら就寝時刻フェーディング、朝は光・夜は暗く、の3つ
  • 声掛けは「明日起きれるか」という予想ではなく、「次は歯みがき」という予定を伝える