べるぞね

夜、ねむくなってきたころに「歯みがきするよ」と言うと、子どもが両手で口をおさえて逃げる。つかまえてひざにねかせると、口をぎゅっととじる。「自分でやったからもういい!」。でも、見ていると前歯を3回こすっただけ。毎晩このやりとりで、親もへとへとです——年中の子がいる家庭の、1日の終わりの場面です。ここまでして仕上げみがきをする意味はあるのでしょうか。何歳まで続けるものなのでしょうか。今回は、歯科の学会の推奨と、世界の研究のまとめ、国の統計から調べました。

パパのひざに頭をのせてねころび、両手で口をおさえて嫌がる子供と、歯ブラシを持って困った顔のパパのドット絵イラスト

むし歯のある幼稚園児は、「ほぼ全員」から「5人に1人」になった

まず、少し安心できる数字からです。文部科学省は毎年、学校での健康診断の結果をまとめています(学校保健統計)。幼稚園でむし歯のある子の割合は、次のように変わってきました。

昭和45年度(いちばん多かった年)95.40%
平成27年度36.23%
令和7年度(最新)19.44%

幼稚園で、むし歯(治療ずみをふくむ)のある子の割合。文部科学省「学校保健統計」より作成

親の世代が子どもだったころ、むし歯は「あって当たり前」のものでした。今は5人に1人を下回り、調査がはじまってからいちばん少ない数字です。統計は理由までは教えてくれませんが、むし歯は「ふせげるもの」になってきています。

いちばん証拠が確かなのは、フッ素入りの歯みがき粉

では、何がむし歯をふせぐのでしょうか。世界中の研究をまとめる国際的な取り組み「コクラン」は2019年、フッ素入りの歯みがき粉についての試験96本をまとめました。乳歯については試験の数が少ないものの、フッ素入りの歯みがき粉を使った子は、フッ素なしの歯みがき粉を使った子より、むし歯のふえ方が少なかったと報告されています(乳歯でこの比較をした試験は1つ、998人)。

日本では2023年1月、歯科の4つの学会(日本口腔衛生学会・日本小児歯科学会・日本歯科保存学会・日本老年歯科医学会)が合同で、フッ素入り歯みがき粉の使い方の推奨を出しました。3〜5歳は、次のとおりです。

  • フッ素の濃さ:1000ppm(日本で売られている製品では900〜1000ppm)
  • 量:グリーンピースくらい(5mmほど)。子どもが自分で量を出せないときは、親が出す
  • 回数:寝る前をふくめて1日2回
  • みがいたあと:軽くはき出す。うがいをするなら、少しの水で1回だけ

最後の「うがいは1回だけ」は、意外に知られていません。何度もぶくぶくすると、せっかくのフッ素が流れてしまうからです。なお、6歳からは濃さと量の目安が変わります(1500ppm、歯ブラシ全体に1.5〜2cmほど)。

濃さは、パッケージの裏に「フッ素 950ppm」のように書いてあります。子ども用でも、フッ素が入っていないものや、濃さがうすいものがあります。コクランのまとめは、小さい子の濃さは、歯に白いもようが出る「歯のフッ素症」の心配とのかねあいで決めるべきだとしています。だからこそ、年齢に合った濃さを、決められた少ない量で使うことが大事です。

「自分でやった」は、どのくらいみがけているのか

「自分でやったからもういい」。この言い分は、どこまで信じていいのでしょうか。インドのMaratha Mandal歯科大学のPujarらは2013年、歯科の専門誌で、6〜12歳の子ども105人に自分で歯をみがいてもらい、よごれ(歯垢)がどのくらい落ちたかを調べました。

6歳57%
12歳82%

自分でみがいたときに落ちたよごれの割合。Pujar & Subbareddy (2013) より作成

6歳の子が自分でみがいて落とせたよごれは、57%。半分近くが残っていました。研究チームは、10歳までは親が見てあげることが必要だとまとめています。スペインで5歳の子ども129人を調べた研究(Macote-Oroscoら、2024年)でも、歯のよごれぐあいは全体に「よくない」水準で、手先が器用な子ほど結果がよくなっていました。

年中の子が上手にみがけないのは、やる気の問題ではなく、手先の発達がまだ追いついていないからです。

では、仕上げみがきは何歳まででしょうか。日本小児歯科学会は、年齢ではなく「自分でしっかりみがけるようになるまで」としています。日本歯科医師会の広報誌では、歯科医師が「小学校2年生くらいまで」を目安としてあげています。上の研究の「10歳まで」と合わせると、少なくとも小学校低学年まで、できれば中学年ごろまでと考えておくのがよさそうです。年中の今は、まだ道の半分にも来ていません。

「毎日2回」と「みがきやすさ」が、5歳のむし歯と関係していた

スウェーデンのハッランド病院のKatarina Boustedtらは2020年、歯科の専門誌で、子ども336人を2歳・3歳・5歳のときに調べた研究を発表しました。ほとんどの親が歯みがきを手伝い、98%がフッ素入りの歯みがき粉を使っている集団です。

  • 2歳・3歳のころに歯みがきが1日2回より少なかった子は、5歳でむし歯がある割合が、2.1倍・3.6倍だった
  • 親が「歯みがきをするのがむずかしい」と感じていた子も、1.5倍・2.5倍だった

2つ目が大事です。嫌がってうまくみがかせてくれない子ほど、あとでむし歯になりやすかった。研究チームは、歯科の専門家は親がうまくみがけるよう特に気をくばって手助けすべきだ、と書いています。

観察した研究なので、「仕上げみがきをすればむし歯がへる」と証明されたわけではありません。学校で先生が見守る歯みがきの試験をまとめた分析(dos Santosら、2018年)も、「はっきりした証拠はない」としています。それでも、嫌がる子の歯みがきは、あきらめるより、やりやすくする工夫に力を使うほうがよい、とは言えそうです。

そして、1日のうちでいちばん大事なのは夜です。日本小児歯科学会は、寝ているあいだはだ液がへり、むし歯の菌がふえやすくなるので、少なくとも寝る前はかならず仕上げみがきを、と説明しています。朝がばたばたしてできなくても、夜の1回だけは守る。これが優先順位です。

経営学のヒント:意志にたよらず、「きっかけ」にくっつける

仕事でも、「大事だと分かっているのに続かないこと」はたくさんあります。そこでよく使われるのが、「もし〇〇したら、△△する」と先に決めておく方法です。「朝、席についたら、まず今日やることを3つ書く」「会議が終わったら、その場で次の日程を決める」。やるかどうかをその場で考えず、きっかけと行動をセットにしてしまいます。

この方法を研究してきた心理学者のPeter GollwitzerとPaschal Sheeranは2006年、94の実験をまとめて分析しました。「もし〜したら、〜する」と先に決めた人は、決めなかった人より目標を達成しやすく、その効果は中くらいから大きめでした。

習慣になるまでの日数を調べた研究もあります。ロンドン大学のPhillippa Lallyらは2010年、大人96人に、毎日同じ場面で同じ行動(昼ごはんのときに果物を食べる、など)をしてもらいました。「考えなくても体が動く」ようになるまでの日数は、まん中の人で66日、早い人で18日、おそい人で254日。そして、1回ぬけても、習慣づくりにはほとんどひびきませんでした。

どちらも大人の研究で、子どもの歯みがきで確かめたものではありません。それでも使える考え方があります。夜の歯みがきがもめるのは、毎晩「やる・やらない」をその場で決めているからです。「おふろを出たら、歯みがき」と、きっかけにくっつけてしまえば、決める場面がなくなります。そして、習慣になるには2か月かそれ以上かかるのがふつうで、1日できなくても、やり直せば大丈夫です。

今日からできること

1・2・4は上の学会の推奨や説明にもとづくこと、3と5は考え方をもとにした工夫です。

  1. 歯みがき粉を見直す。フッ素の濃さが900〜1000ppmのものを、グリーンピースくらい。みがいたあとのうがいは、少しの水で1回だけにします。
  2. 夜の1回を最優先にする。朝は子どもにまかせる日があってもかまいません。寝る前だけは、親が仕上げをします。
  3. ねむくなる前に、きっかけを決めてやる。「おふろを出たら」「パジャマを着たら」。ねむくてきげんが悪い時間は、だれがやってももめます。日本歯科衛生士会の資料も、ねむくなる前やきげんの悪いときをさけるようすすめています。
  4. 短く、強くこすらず、終わったらほめる。歌を1曲うたうあいだだけ、と決めます。日本小児歯科学会は、やさしく話しかける、歌をうたう、親もいっしょにみがく、寝かせみがきは時間をかけずに手早く、とすすめています(もっと小さい子向けの説明ですが、年中の子にも使えます)。上くちびるの裏のすじに歯ブラシが当たると痛いので、指でくちびるをめくってよけます。
  5. 順番を決める。「まず自分で。そのあとパパが仕上げ」。自分でやりたい気持ちを先に通しておくと、仕上げを受け入れやすくなります。「自分でやる」気持ちの大事さは、手伝いすぎの記事で書きました。

できない日があっても、次の日にまたやれば大丈夫です。歯みがきのたびに大泣きして、親子ともつらい状態が続くときは、歯医者さんに相談してください。みがき方を教えてもらえますし、定期的にフッ素をぬってもらう方法もあります。

まとめ

  • 幼稚園でむし歯のある子は、昭和45年度の95.40%から、令和7年度は19.44%にへった(文部科学省 学校保健統計)
  • フッ素入り歯みがき粉の効果は、96本の試験のまとめで支えられている(Walsh et al., 2019)
  • 3〜5歳は、900〜1000ppmをグリーンピースくらい、寝る前をふくめて1日2回、うがいは少しの水で1回(4学会合同の推奨、2023年)
  • 6歳が自分でみがいて落とせるよごれは57%。10歳までは親の見守りが必要とされた(Pujar & Subbareddy, 2013)
  • 2〜3歳で歯みがきが1日2回より少なかった子、親が「みがくのがむずかしい」と感じていた子は、5歳でむし歯が多かった(Boustedt et al., 2020)
  • 寝る前の1回を最優先に。「おふろを出たら歯みがき」ときっかけにくっつける。1日ぬけても大丈夫