べるぞね

電気を消して「おやすみ」と言ったあとに、それは始まります。「あと1冊よんで」「お水のみたい」「トイレ」「ぬいぐるみがいない」「もう1回ぎゅーして」。1つずつはささいなお願いなのに、全部にこたえていると30分たっている。ことわると泣く——年中の子と暮らしていると、毎晩くり返す場面です。今回は、寝る前の引きのばしを減らす方法として、アメリカの小児科で使われている「1枚のチケット」のやり方と、その効果を調べた研究を紹介します。

ふとんの上で星のチケットを1枚かかげる子供と、絵本をひざに置いてあくびをするパパのドット絵イラスト

寝る前の引きのばしは、小児科でいちばん多い相談のひとつ

まず、これはどの家庭にもあることです。アメリカの子ども支援施設ボーイズタウンのPatrick Frimanらは1999年の論文で、寝る前の問題を「小児科の外来でもっとも多い相談のひとつ」と書いています。

アメリカ睡眠医学会の作業チームは2006年、Sleep誌で、寝かしつけと夜中に起きる問題についての研究52本をまとめました。対象は0歳から4歳11か月までの子どもです。そのうち94%の研究で、薬を使わない「関わり方の工夫」に効果があったと報告されていました。工夫を試した子どもの80%以上で、はっきりした改善が3〜6か月続いていました。

つまり、寝る前のぐずりは「性格だからしかたない」ものではなく、親の関わり方を変えると変わりやすいものです。ただ、いちばんしっかりした証拠があった方法のひとつは「泣いても部屋に行かない」というもので、親にとってはつらいやり方でした。そこで考えられたのが、次のチケットです。

「1枚だけ使えるチケット」という方法

Frimanらが1999年にArchives of Pediatrics & Adolescent Medicine誌で発表したのが、「ベッドタイム・パス」という方法です。やり方はとてもかんたんです。

  • 寝る前に、子どもにカードを1枚わたす
  • カードは、ふとんに入ったあとのお願い1回と交換できる(お水、トイレ、もう1回ぎゅー、など)
  • 使ったら、カードは親に返す。そのあとのお願いには、もうこたえない

この論文では、3歳と10歳の男の子2人で試し、寝たあとに泣いたり部屋から出てきたりする回数が、2人ともゼロになりました。また、親20人と小児科医23人にこの方法をどう思うか聞いたところ、親は「泣いても行かない」方法より受け入れやすいと答えました。

ただ、2人だけでは何とも言えません。そこで、あとから別の研究者たちがたしかめています。

3〜6歳の子ども19人でたしかめた実験

ネバダ大学のMooreらは2007年にJournal of Pediatric Psychology誌で、もう少し大きな実験を発表しました。寝るのをいやがる3〜6歳の子ども19人を、くじ引きで2つのグループに分けています。1つはチケットを使うグループ、もう1つは親が記録をつけるだけのグループです。

結果、チケットを使ったグループの子どもは、記録だけのグループとくらべて、次のようになりました。

  • 部屋から出てくる回数、親を呼ぶ回数、泣く回数が少なかった
  • 毎晩、静かになるまでの時間が短くなった
  • 効果は3か月後も続いていた

親の満足度も高いという結果でした。その前の年には、オレゴン健康科学大学のFreemanが、3歳の子ども4人でも同じ方法を試し、4人とも寝る前の抵抗がなくなったと報告しています。

おもしろいのは、「泣いても行かない」方法でよく起きる「最初の数日、かえってひどく泣く」という現象が、チケットでは起きなかったことです。子どもに1回ぶんの手段が残されているからかもしれません。なお、どれも人数の少ない研究で、アメリカの「子どもが自分の部屋で1人で寝る」家庭が対象です。親子で同じ部屋に寝ている家庭でどうなるかを調べたものではありません。

経営学のヒント:「予算」は、まかせるためのしくみ

このチケットは、会社の「予算」によく似ています。たとえば、部署ごとに「月に3万円までは、上司の許可なしで使っていい」という枠を決めておく会社があります。

枠がないと、何か買うたびに上司に「これ買っていいですか」と聞くことになります。上司は毎回、いい・だめを決めなければなりません。だめと言えば不満が出るし、いいと言い続ければきりがありません。枠を決めると、この1回ごとのやりとりがなくなります。上司が決めるのは枠の大きさだけで、何に使うかは本人が決めます。

そして、枠があると、人は使いどころを考えるようになります。3万円しかないなら、本当に必要なものに使おうとします。予算には、上限を決めるかわりに、中身の判断を本人にまかせるというはたらきがあります。

寝る前のお願いも同じです。チケットがないと、親は1つ1つのお願いに「いいよ」「だめ」を決めることになり、そのたびに言い合いになります。チケットがあると、親が決めるのは「1回」という枠だけです。何に使うかは子どもが決めます。「お水は本当にいま必要かな。あとでこわくなったときのために取っておこうかな」と、子どもが自分で考えはじめます。

今日からできるやり方

1〜3は上の研究のやり方、4と5は同じ部屋で寝ている家庭向けに考えた工夫です。

  1. チケットをいっしょに作る。厚紙を切って、子どもに好きな絵をかいてもらいます。昼間のうちに「ふとんに入ったあと、1回だけお願いできるチケットだよ」と説明しておきます。
  2. 使ったら、こころよくこたえて、チケットを受け取る。「チケット使うんだね。はい、お水」。使ったことを責めません。
  3. 使い終わったら、同じ答えをくり返す。「チケットはもう使ったよ。おやすみ」。説明を長くせず、落ち着いて同じ言葉で返します。ここで折れると、チケットの意味がなくなります。
  4. 同じ部屋で寝ているなら、「電気を消したあとのお願い」に使う。部屋を出る・出ないではなく、「もう1冊」「お水」「トイレ」などのお願いを1回と数えます。本当にトイレに行きたいときまでがまんさせないよう、寝る前に全員でトイレと水を済ませておきます。
  5. 使わなかった朝は、ひとことほめる。「チケット、取っておけたね」。ごほうびの物はいりません。

こわい夢を見た、ぐあいが悪い、というときは、チケットと関係なくすぐにこたえます。チケットは、引きのばしのためのお願いを減らす道具で、子どもをがまんさせる道具ではありません。また、何週間たっても眠れない、いびきがひどい、昼間ずっと眠そう、といった様子があるときは、小児科に相談してください。

まとめ

  • 寝る前の問題は小児科でもっとも多い相談のひとつ。研究52本のうち94%で、関わり方の工夫に効果があった(Mindell et al., 2006)
  • 「ふとんに入ったあとのお願い1回」と交換できるチケットで、2人の子どもの泣きと出歩きがゼロになった(Friman et al., 1999)
  • 3〜6歳19人の実験で、チケットを使った子は呼ぶ・泣く・出てくる回数が少なく、効果は3か月後も続いた(Moore et al., 2007)
  • どれも少人数で、子どもが1人で寝るアメリカの家庭の研究。同じ部屋で寝る家庭では、やり方を合わせる必要がある
  • 予算と同じで、親が決めるのは「1回」という枠だけ。何に使うかは子どもにまかせる
参考にした情報
チケットの最初の報告:Friman et al. (1999) Archives of Pediatrics & Adolescent Medicine
3〜6歳19人の実験:Moore, Friman, Fruzzetti & MacAleese (2007) Journal of Pediatric Psychology
3歳4人での追試:Freeman (2006) Journal of Applied Behavior Analysis
寝かしつけの研究52本のまとめ:Mindell et al. (2006) Sleep