お皿のブロッコリーを前に、子どもが口をぎゅっと閉じる。「ひとくちだけでいいから」「食べたらデザートあるよ」と言っても、首を横に振るばかり。そのうちこちらも「いいから食べなさい!」と声が大きくなる——年中の子と暮らしていると、毎日のようにある食卓の場面です。今回は、野菜を食べないのは育て方のせいなのか、どんな声かけが逆効果で、何をすれば食べられるようになるのかを、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)やペンシルベニア州立大学などの研究から調べました。

好き嫌いは、育て方よりも生まれつきの部分が大きい
まず、「うちの子が野菜を食べないのは、わたしの育て方が悪いのか」という心配についてです。UCLのLucy Cookeらは2007年にAmerican Journal of Clinical Nutrition誌で、8〜11歳の双子5,390組を調べた研究を発表しました。調べたのは、新しい食べ物を警戒して食べたがらない性質(フードネオフォビアと呼ばれます)です。
結果は、この性質の個人差の78%が遺伝で説明できるというものでした。残りの22%は、きょうだいでも一人ひとりちがう経験によるもので、同じ家で同じように育てられたこと(家族で共有する環境)の影響は見つかりませんでした。
「食べなさい」と言うほど、食べなくなる
次に、つい言ってしまう「全部食べなさい」の効果です。アパラチアン州立大学のAmy Gallowayとペンシルベニア州立大学のLeann Birchらは2006年にAppetite誌で、大学の保育施設に通う3〜5歳の子ども27人の実験を発表しました。
子どもたちにスープを出し、ある日は大人が「スープを全部飲んでね」と1分おきに4回、ふつうの口調で声をかけます。別の日は何も言いません。すると、何も言われなかった日のほうが、子どもたちはスープを多く飲みました。子どもの口から出た「いらない」「きらい」といった否定的な言葉は、声をかけた日が合計157回、何も言わなかった日が30回でした。
27人の小さな実験ですが、怒鳴ったわけではなく、ふつうの口調の声かけでこの差が出ています。「食べなさい」は、食べる量を増やすどころか、その食べ物へのいやな気持ちを増やしてしまうようです。
「食べたらデザート」は、野菜を「いやな仕事」にする
では、ごほうびで釣るのはどうでしょうか。ニューヨーク州立大学オールバニ校のNewmanとTaylorは1992年にJournal of Experimental Child Psychology誌で、4〜7歳の子ども86人の実験を発表しました。子どもがそれぞれ同じくらい好きなおやつを2つ選び、片方のグループには「こっちを食べたら、あっちを食べていいよ」と伝えます。
すると、このグループの子は、あとで「先に食べるほう」のおやつを、もう片方より低く評価するようになりました。食べる順番を決められただけのグループや、自分で順番を選んだグループでは、こうした差は出ませんでした。
効いたのは、「毎日ひとかけらの味見」を2週間
逆に、はっきり効果が出た方法があります。UCLのJane Wardleらは2003年にAppetite誌で、2〜6歳の子の親156人を3つのグループに分けた実験を発表しました。それぞれの子の苦手な野菜を1つ決めたうえで、次のように分けています。
- 味見グループ:その野菜を、14日間、毎日ひとくち味見させる
- 情報グループ:栄養のアドバイスとパンフレットをもらう
- 何もしないグループ
2週間後、「好きの度合い」「好きな順位」「食べる量」の3つすべてがはっきり伸びたのは、味見グループだけでした。「野菜は体にいいよ」という知識を増やすより、少しずつ口にする回数を増やすほうが効いたわけです。
ごほうびとの組み合わせも調べられています。UCLのCookeらが2011年にPsychological Science誌に発表した研究では、4〜6歳の子ども422人が、学校で12日間、苦手な野菜を小さくひとかけら味見しました。「味見できたらシール」「味見できたらほめる」「味見だけ」のどのグループも、何もしなかったグループより野菜を好きになり、その差は3か月後も残っていました。食べる量については、シールとほめるグループでは3か月後も増えたままでしたが、味見だけのグループでは3か月後に差がはっきりしなくなりました。
同じチームが家庭で試した研究(2012年、American Journal of Clinical Nutrition誌、3〜4歳の173家族)では、親が12日間ひとくちずつ味見させ、できたらシールを1枚渡したグループで、食べる量も好きの度合いも伸び、3か月後も続いていました。ほめるだけのグループは、何もしなかったグループとの差がはっきりしませんでした。
経営学のヒント:営業の「フット・イン・ザ・ドア」
「ひとかけらから始める」は、営業や交渉の世界でもよく知られた考え方です。スタンフォード大学のJonathan FreedmanとScott Fraserは1966年、Journal of Personality and Social Psychology誌に有名な実験を発表しました。家を1軒ずつ訪ねて、「庭に『安全運転』の大きな看板を立てさせてください」と頼む実験です。
いきなり頼むと、引き受けてくれた家は17%でした。ところが、2週間前に「安全運転の小さな表示を窓に貼ってください」という小さなお願いをしておいた家では、76%が大きな看板を引き受けました。ドアにつま先を入れるように、小さなお願いから始めるので「フット・イン・ザ・ドア」と呼ばれています。
家庭に置き換えると、「お皿の野菜を全部食べて」はいきなりの大きな看板です。「小指の先くらいのひとかけらを、味見だけ」なら、小さな表示にあたります。これは子どもの食事で試された理論ではなく、あくまで考え方のたとえですが、効果のあった研究がどれも「ひとくちの味見」から始めていたことと、形はよく似ています。
今日からできる対処法
- 苦手な野菜を1つだけ選ぶ。研究はどれも、ねらう野菜を1つに決めていました。全部を一度に直そうとしません。
- 毎日、ひとかけらだけ味見にさそう。小指の先くらいの大きさで十分です。「味見してみる?」と聞いて、いやがったらその日はおしまいにします。
- 味見できたら、シールを1枚。冷蔵庫に表を貼って、できた日に星のシールを貼ります。ごほうびは食べ物以外にします。
- 2週間、続ける。研究では12〜14日間でした。1回や2回で食べなくても、あせらなくて大丈夫です。
- 「全部食べなさい」と「食べたらデザート」をやめる。この2つは、研究では逆の結果になっていました。デザートは、野菜と関係なく出すか、出さないかを決めます。
2週間たっても食べない野菜があっても、それは親の努力が足りないからではありません。好みの大きな部分は生まれつきです。食べられるものが極端に少ない、体重が増えないなど、心配なことがあるときは、小児科や自治体の栄養相談に話してみてください。
まとめ
- 新しい食べ物を警戒する性質は、個人差の78%が遺伝で説明でき、家族で共有する環境の影響は見つからなかった(Cooke et al., 2007)
- 「全部飲んでね」と声をかけた日のほうが、子どもはスープを飲まず、否定的な言葉が増えた(Galloway et al., 2006)
- 「これを食べたら、あれを食べていい」と条件にすると、先に食べるほうの魅力が下がった(Newman & Taylor, 1992)
- 苦手な野菜を毎日ひとくち、2週間味見した子は、好きの度合いも食べる量も伸びた(Wardle et al., 2003)。シールを組み合わせると、家庭でも3か月後まで効果が続いた(Remington et al., 2012)
- 営業の「フット・イン・ザ・ドア」と同じで、大きなお願いの前に、小さなひとかけらから始める
あわせて読みたい
子供が自分から片付ける・身支度する子になる、環境の工夫9選 子どもが勉強好きになる親の接し方10選、自己決定理論から見た本当の理由 「これはここに置いといて!」片付けると大泣きする子のこだわり。疲れた親の向き合い方を研究で調べた 育児に真剣になりすぎて疲れないために。「ほどよい親」でいい理由を研究で調べた クエストログへ戻る食べ物を警戒する性質と遺伝:Cooke, Haworth & Wardle (2007) American Journal of Clinical Nutrition
「全部食べて」の声かけ:Galloway, Fiorito, Francis & Birch (2006) Appetite
「これを食べたら、あれ」の条件:Newman & Taylor (1992) Journal of Experimental Child Psychology
毎日の味見(家庭):Wardle et al. (2003) Appetite
味見とごほうび(学校):Cooke et al. (2011) Psychological Science
味見とごほうび(家庭):Remington et al. (2012) American Journal of Clinical Nutrition
フット・イン・ザ・ドア:Freedman & Fraser (1966) Journal of Personality and Social Psychology