年中の秋になると、「〇〇ちゃん、もう絵本を自分で読んでるらしいよ」という話が耳に入ってきます。うちの子は絵本を見ても、絵の話ばかり。ひらがなの「あ」を指さしても、首をかしげる。ドリルを買ったほうがいいのか、まだ放っておいていいのか。今回は、日本の幼児が何文字くらい読めるのかを調べた研究と、国の幼稚園・保育所の決まりから調べました。

先に、分かったことを3つ書きます。
- 年中の冬でも、読める文字の数は子どもによって大きくちがいます。ほぼ全部読める子が3人に1人くらい。一方で、ほとんど読めない子も1割ほどいました。
- 「書く」は「読む」よりずっと遅れて育ちます。年中で「読めるのに書けない」は、よくある状態です。
- 早く読めるようになった有利さは、そのまま続くとはかぎりません。早く始めた子との差が、何年かで消えたという研究があります。
ただし、いちばん詳しい数字は1988年の調査です。古い数字であること、日本全体の今の姿とはずれるかもしれないことも、あわせて書いていきます。
年中は何文字くらい読める?「平均70%」の中身はばらばらだった
日本の幼児のひらがなを細かく調べた研究に、島村直己さんと三神廣子さんの調査があります(教育心理学研究、1994年)。1988年11月下旬〜12月中旬に、東京都と愛知県の保育所13園・幼稚園19園で、3〜5歳児クラスの1,202人に、ひらがな71文字(「あ」〜「ん」の清音と、濁音・半濁音)を1文字ずつ読んでもらいました。年中にあたる4歳児クラスは432人で、平均の月齢は62.0か月、つまり5歳2か月ごろです。
結果は、71文字のうち読めた割合の平均で、年少26.2%、年中70.0%、年長92.8%でした。書くほうも同じ71文字で調べていて、字の形と書き順が両方正しいものだけを数えると、年少6.3%、年中29.4%、年長62.8%です。
「年中で平均70%なら、うちの子は遅れているかも」と思うかもしれません。でも、平均だけを見ると見落とすことがあります。同じ論文には、年中の子が何文字読めたかの分布の表がのっています。それをまとめ直すと、こうなりました。
年中の冬に、ほぼ全部(70〜71文字)読めた子が35.7%。一方で、0〜4文字しか読めなかった子も9.3%いました。平均の70%は、「みんながだいたい7割読める」という意味ではなく、たくさん読める子と、まだほとんど読めない子が混ざった結果です。
論文は、月齢ごとの進み方を「4歳台の初めで4分の1、後半で半分、5歳台の初めで4分の3、後半で9割の文字が読める」と、だいたいの目安でまとめています。年中の1年間は、まさにこの「読めはじめ」から「かなり読める」までが一気に進む時期です。同じ年中でも、春の4歳と冬の5歳では、見える景色がちがって当然でした。
「あ」は読めるのに「きゃ」は読めない。読める順番には決まりがある
同じ調査では、文字の種類ごとの読める割合も出ています。年中の結果はこうでした。
論文によると、清音・撥音のほうが濁音・半濁音より早く覚えられ、さらに「1文字=1つの音」の文字のほうが、「きゃ」「きって」「おかあさん」のように1文字と音がぴったり対応しない書き方より早いそうです。
家で見るときのヒントになります。「あいうえお」は読めるのに、絵本を読もうとすると止まってしまう。それは、絵本の文には「しゃ」「っ」「ー」や、「わ」と読む「は」がたくさん出てくるからかもしれません。1文字ずつ読めることと、文がすらすら読めることは、別の段階です。

読めるのに書けないのは、ふつう?
ふつうでした。さきほどのグラフのとおり、年中の書ける割合は平均29.4%で、読めるほうの半分以下です。論文は、書ける文字の割合を「4歳台の後半で4分の1、5歳台の後半で半分、6歳台の後半で4分の3」とまとめています。読みより、1年以上おそいペースです。
書けない子が多く、書ける子が少ない形に分かれていて、論文では「逆J字型の分布」と呼んでいます。著者は、読みは日々の経験から自然に身につくことができるのに対し、書きは意識して取り組まないとなかなか身につかない、と考えています。
国の「幼稚園教育要領」の解説にも、文字に関心のある子は5歳児になるとある程度ひらがなが読めるようになっていくが、書くことはまだ難しく、自分なりの書き方であることが多い、と書かれています。鏡に映したような「さ」や、書き順がばらばらの「あ」は、この時期にはよく見かける姿だということです。
早く読めた子のほうが、ずっと有利なの?
ここがいちばん気になるところでした。「今のうちに読めるようにしておかないと、小学校で困るのでは」という心配です。
ひとつめの手がかりは、英語圏の研究です(Suggate ら、2013年)。読みの授業が5歳から始まる学校の子と、7歳から始まる学校の子、合わせて287人を比べました。早く始めた子は、最初は文字や文を読む力が上でした。ところが、その差は11歳までに消えていました。中学生を調べた2つめの研究では、すらすら読む力は同じくらいで、文章の意味をつかむ力は、むしろ遅く始めた子のほうがおおむね高かったそうです。
日本の研究もあります。宇野彰さんらのまとめ(高次脳機能研究、2021年)では、ひらがなの練習をしていない私立幼稚園3園の年長230人(2014年)で、71文字の平均の読める割合は91.4%でした。さらに、年長の子に決まったやり方でひらがなを教えたグループと、教えなかったグループを比べたところ、はっきりした差は出ず、著者は「年長児へのひらがな指導は効果的ではないと思われた」と書いています。年長のときにひらがなの習得が低かった子の90%は、小学1年の夏休み明けには追いついていたとも報告されています。
年長の数字は、1988年と2014年でほとんど変わっていません。少なくともこの資料からは、「最近の子は昔よりずっと早く読めるようになっている」とは言えませんでした。
経営学のヒント:先に始めた有利さは、続くとはかぎらない
経営学には「先行者利益(ファーストムーバー・アドバンテージ)」という言葉があります。新しい市場に一番乗りした会社は、そのぶん有利になる、という考え方です。
ただ、この言葉を広めた論文のひとつ、リーバーマンとモンゴメリーの「First-mover advantages」(1988年)は、先に動いた会社に有利さをもたらす仕組みと、不利をもたらす仕組みの両方を整理したものでした。10年後に同じ著者が書いた続編の題名は、「First-mover (dis)advantages」。わざわざ「不利」も題名に入れています。一番乗りは、いつも勝ちにつながるわけではない、ということです。
ひらがなに当てはめると、「早く読めた」という先行の差は、Suggate らの研究や宇野さんらの報告のように、後から追いつかれて消えることがあります。小学1年の国語では、ひらがなを1年生のうちに全部読み書きできるようにすることが学校の目標として決められているので、学校の中でも追いつく機会が用意されています。
一方で、企業の一番乗りが失うものがあるように、早さを急ぐと失うものもありそうです。日本の研究(Tanji と Inoue、2023年)では、年長83人を小3まで追い、親の心配が強いほど、子の読みの成績は低く、親が教える量は多かったと報告されています。人数が少なく、どちらが原因かは分からない研究です。それでも、「心配→教えこむ」が、いつもうまく回るわけではないことは読み取れました。
私がこの考え方から持ち帰ったのは、「いつ読めたか」ではなく、「読むのが楽しいまま入学できるか」を見ることです。一番乗りの旗より、走り続けられる体力のほうを大事にする。そう考えると、年中の今に急いでやることは、それほど多くないように思えました。

じゃあ家では何をする?研究で分かっていることと、分かっていないこと
国の幼稚園教育要領と保育所保育指針は、幼児期の終わりまでに育ってほしい姿として、遊びや生活の中で文字などに親しむ体験を重ね、興味や関心、感覚をもつようになることを挙げています。要領の解説には、文字について直接指導するのではなく、生活と切り離して覚えこませる画一的な指導でもなく、その子の興味に合わせて、遊びの中で読み書きの楽しさを感じる経験を重ねることが大切、とあります。文字の系統だった指導は小学校から、という考え方です。
研究から分かっていることも、まとめておきます。
- 言葉の「音」に気づく力は大事そう。英語圏を中心とした235の研究のまとめでは、言葉を音のかたまりに分けて聞き取る力(音韻意識)が、単語を読む力の個人差といちばん強く関係していました。日本の年長333人の研究でも、ひらがなの音読を予測したのは音韻の力などで、保護者が教えた量や読書の回数ではなかったそうです(宇野ら2021の紹介による)。
- 読み聞かせは、文字より「言葉」を育てる。約500の研究をまとめたアメリカの報告(NELP、2008年)では、読み聞かせは文字の知識と話し言葉に中くらいの効果がありました。ただし2019年のまとめ直しでは、効果は以前の報告より小さく、比べる側も別の活動をした研究ではほとんど差がなかった、とされています。
- しつけのスタイルで、読み書きの成績は変わらなかった。内田伸子さんらの日本の調査(年中956人・年長950人など)では、しつけのスタイルによる読み書きの差はありませんでした。差が出たのは語彙で、子どもと楽しさを共有するタイプの家庭の子は、小1で国語の力や語彙が高い傾向でした。著者は「就学前の読み書きの出来に執着しないで」と書いています。
幼稚園教育要領の解説は、園の活動の例として、読み聞かせ、しりとり、同じ音で始まる言葉集め、かるた作りを挙げています。ただ、「しりとりをすれば読めるようになる」と確かめた研究は、今回は見つけられませんでした。音に気づく力と読みが関係していることから考えた、遊びのひとつとして紹介します。

今日からできること
次の手順そのものを家庭で試して、読めるのが早くなると確かめた研究があるわけではありません。研究と国の方針から、私が「やってもいいこと」と「やめておくこと」を整理したものです。
- 「何文字読めるか」のテストをしない。年中は差が大きい時期です。数えるより、どんなときに文字に目を止めるかを見ます。看板、お菓子の袋、自分の名前など。
- 読み聞かせは、文字を追わせなくていい。絵の話でも、続きの予想でもかまいません。言葉を育てる時間と考えます。
- 言葉の「音」で遊ぶ。しりとり、「『あ』のつくもの集め」、手をたたきながら「り・ん・ご」と区切るなど。散歩や車の中でもできます。
- 本人が「書きたい」ときだけ手伝う。手紙ごっこで名前を書きたがったら、見本を書いてあげる。字の形や書き順は、年中のうちは直しすぎないようにします。
- 文字が目に入る場所を作る。絵本の棚、名前のシール、かるた。教えこむより「触れられる環境」です(Tanji と Inoue の研究で、読みと関連していたのは環境のほうでした)。
- 親の心配は、子ども以外で片づける。不安になったら、園の先生に「園では文字に興味がありますか?」と聞いてみる。心配をそのまま練習の量にしないためです。
ドリルや通信教育も、子どもが楽しんでいるならよい入り口になります。いやがるのに毎日続けさせる、間違いを毎回直す、ほかの子とくらべる、の3つだけは避けたいと思います。
まとめ
- 1988年の調査では、年中の冬の平均で71文字の70%が読めた。ただし、ほぼ全部読める子35.7%、0〜4文字の子9.3%と、ばらつきが大きい
- 読める順番は、清音→濁音・半濁音→「きゃ」「きって」「おかあさん」。1文字ずつ読めても、文はまだ止まるのがふつう
- 書くのは読むより1年以上おそい。年中の書ける割合の平均は29.4%
- 早く読み始めた差が、後で消えたという研究がある。年長で習得が低かった子の90%は、小1の夏休み明けに追いついていた。ただし年長後半の目安を示す研究もあり、結論は分かれる
- 家では、テストより、音の遊びと読み聞かせと、文字に触れられる環境。親の心配を練習の量に変えない
一番乗りしなくていい。でも、文字を嫌いにはさせたくない。年中の今は、その順番で考えるくらいがちょうどいいのかもしれません。
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年長で40文字未満の目安:Okumura Y. et al. (2022) Frontiers in Education
読み始めの年齢と後の読み:Suggate S.P., Schaughency E.A., Reese E. (2013) Early Childhood Research Quarterly 28(1)
親の心配と教える量:Tanji T., Inoue T. (2023) Frontiers in Psychology
しつけスタイルと読み書き・語彙:内田伸子・石田由里(2011)お茶の水女子大学 GCOE 報告
読み聞かせ・音韻意識の研究のまとめ:National Early Literacy Panel (2008)、Noble C. et al. (2019) Educational Research Review、Melby-Lervåg M. et al. (2012) Psychological Bulletin
国の方針:文部科学省「幼稚園教育要領」、「幼稚園教育要領解説」、厚生労働省「保育所保育指針」、文部科学省「小学校学習指導要領解説 国語編」
相談の目安:発達性ディスレクシア研究会「ディスレクシアを理解するために」、発達障害情報・支援センター「よくある質問」
先行者利益:Lieberman M.B., Montgomery D.B. (1988) First-mover advantages. Strategic Management Journal 9。企業の競争についての論文で、子どもの読み書きの研究ではありません。