寝る前に「今日はどれを読む?」と聞くと、子どもが持ってくるのは昨日と同じ絵本。おとといも、その前の日も同じでした。図書館で新しい本を借りてきても、手にも取らない。読むほうは、もう文を全部おぼえてしまって、正直あきています——年中の子と暮らしていると、何度も通る道です。同じ本ばかりで、言葉は増えるのでしょうか。いろいろな本を読んだほうがいいのでは。今回は、同じ絵本をくり返し読むことについて、大学の研究から調べました。

この記事の内容は、動画でも解説しています(約5分)。
同じ本を3回読んだ子のほうが、新しい言葉を覚えていた
イギリスのサセックス大学のJessica Horstらは2011年、Frontiers in Psychology誌に、絵本のくり返しと言葉の覚え方を調べた実験を発表しました。対象は3歳の子ども16人です。
研究チームは、この実験のために絵本を9冊作りました。それぞれの絵本には、見たことのない物と、その名前として「作った言葉」が2つずつ出てきます。子どもを2つのグループに分け、1週間に3回、家をたずねて読み聞かせをしました。
- 同じ本のグループ:1回の読み聞かせで、同じ絵本を3回続けて読む
- ちがう本のグループ:1回の読み聞かせで、ちがう絵本を3冊読む。ただし、3冊とも同じ「作った言葉」が出てくる
大事なのは、どちらのグループも、新しい言葉を聞いた回数はまったく同じという点です。ちがうのは、同じお話の中でくり返し聞いたか、別々のお話の中で聞いたか、だけです。
最後の日に、前に覚えた言葉をまだ覚えているかをテストしました。4つの絵の中から、言葉に合うものを指さしてもらいます。結果ははっきり分かれました。
- 同じ本をくり返し読んだ子は、あてずっぽうよりずっと高い正解率で、言葉を覚えていた
- ちがう本を読んだ子の正解率は、あてずっぽうで選んだ場合と変わらなかった
子どもは、同じ本のほうを楽しんでいた
同じ研究室のWilliamsとHorstは2014年、同じ雑誌で、3歳の子ども48人の実験を発表しました。今度は、読み聞かせのあとに昼寝をするかどうかも組み合わせています。
この実験では、読み聞かせのあとに「今日のお話、どのくらい楽しかった?」と、顔の絵のカードで答えてもらいました。
あきているのは、読んでいる大人のほうだけのようです。子どもは、同じ本を3回続けて読んでもらうほうを、はっきり楽しんでいました。
言葉の覚え方でも、やはり同じ本をくり返した子のほうがよく覚えていました。おもしろいのは昼寝の効果で、ちがう本を読んだ子でも、そのあとに昼寝をすると、同じ本をくり返した子と同じくらい言葉を覚えていました。ちがう本を読んで起きていた子は、1週間たっても追いつきませんでした。
では、新しい本はいらないのか
ここまで読むと、「同じ本だけでいい」と思えてきます。でも、そこまでは言えません。Horstの研究室のZoe Flackらは2018年にDevelopmental Psychology誌で、絵本の読み聞かせと言葉の研究38本、子ども2,455人ぶんをまとめて分析しました。
この分析で、言葉の覚えやすさとはっきり関係していたのは、読み方でした。大人が一方的に読むより、「これは何かな?」と聞いたり、子どもの言葉に返したりしながら読むほうが、言葉をよく覚えていました。
一方で、くり返し読むことの効果については、「まだ研究が足りず、もっと調べる必要がある」とまとめています。くり返しがいつも有利だと決まったわけではありません。
経営学のヒント:くり返すほど、うまくなる「経験曲線」
「同じことをくり返すほど、うまく、速くなる」。これは工場の世界で古くから知られている法則です。
アメリカの飛行機メーカーの技術者だったTheodore Wrightは1936年、飛行機を作る時間を調べて、あるきまりを見つけました。作った飛行機の合計が2倍になるたびに、1機を作るのにかかる作業時間が約20%へるというものです。10機目より20機目、20機目より40機目のほうが、少ない手間で作れます。
1960年代には、コンサルティング会社のボストン・コンサルティング・グループを作ったBruce Hendersonが、これを会社全体の費用に広げて「経験曲線」と名づけました。同じものをたくさん作ってきた会社ほど、安く作れるようになる、という考え方です。
なぜくり返すと速くなるのでしょうか。1回目は、手順を追うだけで頭がいっぱいです。くり返すうちに、手順は考えなくてもできるようになり、あいた頭を、細かい工夫に使えるようになります。
絵本も同じように考えられます。はじめて読む本では、子どもは「だれが出てきて、何が起きるか」を追うだけで手いっぱいです。3回目、10回目になると、お話はもう知っています。そのぶん、前は聞き流していた言葉や、絵のすみっこに気づく余裕が生まれます。大人には同じ10回に見えても、子どもにとっては、毎回ちがうところを見ている10回なのかもしれません。
今日からできること
1と2は上の研究から言えること、3〜5は研究の考え方をもとにした工夫です。
- 同じ本を持ってきたら、そのまま読む。「またこれ?ちがうのにしよう」と言わなくて大丈夫です。子どもは楽しんでいて、言葉も頭に残りやすいようです。
- 読みながら、ときどき聞く。「このあと、どうなるんだっけ?」「これ、なんていう名前だった?」。知っている本だからこそ、子どもは答えられます。聞いたり返したりする読み方は、言葉を覚えやすくします。
- 読む場所を、毎回少し変える。読むほうがあきてきたら、絵の中のものを探す、登場人物の気持ちを聞く、子どもに読んでもらう、と見るところを変えます。
- 新しい本は、「もう1冊」としてそえる。お気に入りを取り上げて入れかえるのではなく、「いつもの1冊+新しい1冊」にします。新しいほうをことわられたら、その日は引っこめます。
- 寝る前の読み聞かせを続ける。読んだあとに眠ると言葉が残りやすい、という結果がありました。寝る前の1冊は、理にかなった習慣のようです。
同じ本を何十回も読むのは、大人には修行のようです。でも子どもは、そのたびに少しずつちがうものを受け取っています。「もう1回」が出なくなる日は、そのうち来ます。その本を卒業した日です。
まとめ
- 同じ絵本を3回読んでもらった3歳の子は新しい言葉を覚えていた。ちがう絵本で同じ回数聞いた子は、あてずっぽうと変わらなかった(Horst et al., 2011)
- 同じ本を読んでもらった子の24人中20人が「とても楽しかった」と答えた。ちがう本では24人中8人(Williams & Horst, 2014)
- ちがう本を読んだ子も、あとで昼寝をすると、同じくらい言葉を覚えていた(Williams & Horst, 2014)
- 38本の研究のまとめでは、聞いたり返したりする読み方に効果があった。くり返しの効果は、まだ研究が足りない(Flack et al., 2018)
- くり返すほど、あいた頭を細かいところに使える。同じ本を持ってきたら、そのまま読んでいい
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飛行機の作業時間のきまり:Wright (1936) Journal of the Aeronautical Sciences
経験曲線:Hax & Majluf (1982) Competitive cost dynamics: the experience curve, Interfaces