べるぞね

秋になると、園の運動会があります。場所取りに早起きして、砂ぼこりの中で立ちっぱなし。わが子の出番は、かけっことダンスを合わせても10分ほど。それでも、ゴールした子どもがこちらを見つけて手をふると、来てよかったと思う。一方で、仕事でどうしても行けない年もあります——年中の子の親なら、一度は考えることです。親が見に行くことは、子どもにとって何かいいことがあるのでしょうか。行けなかったら、何かを取りこぼすのでしょうか。今回は、親の関わり・応援・緊張・思い出についての大学や医学の研究と、国の資料から調べました。

運動会のかけっこでゴールテープへ走る子供と、ロープの向こうで両手を上げて応援するパパのドット絵イラスト

運動会は、何のためにあるのか

まず、園の行事は何のために行われているのでしょうか。国の幼稚園教育要領(平成29年告示)は、行事について次のように書いています。

「行事の指導に当たっては、幼稚園生活の自然の流れの中で生活に変化や潤いを与え、幼児が主体的に楽しく活動できるようにすること。なお、それぞれの行事についてはその教育的価値を十分検討し、適切なものを精選し、幼児の負担にならないようにすること。」

運動会の目的は、順位を決めることでも、親に見せるために仕上げることでもありません。子どもの生活に「いつもとちがう1日」を作り、本人が楽しむことです。親が見に来るのは、その1日をいっしょに作る材料のひとつ、という位置づけになります。

では、親はどのくらい見に行っているのでしょうか。第一生命経済研究所が2013年に、東京・神奈川・埼玉・千葉に住む、小学生以下の子どもがいる父親694人に聞いた調査があります。子どもに関する行事のうち、「自分が行きたいので行った」と答えた割合です。

園や学校の運動会85.5%
出産の立ち会い61.8%
妊婦健診への同行47.9%

父親が「自分が行きたいので行った」と答えた割合(2013年、1都3県)。第一生命経済研究所の調査より作成

運動会は、父親が自分から行きたがる行事の中で、いちばん割合が高いものでした。首都圏の、10年以上前の調査ではありますが、「行きたい」と思うのはごくふつうのことだと分かります。では、その「行く」に、子どもにとっての意味はあるのでしょうか。

見に行くと、何がいいのか

親が園や学校に関わっている子は、気持ちが安定しやすい

運動会そのものの効果を調べた研究は、見つかりませんでした。あるのは、親が園や学校に足を運ぶこと全体についての研究です。

アメリカのイリノイ大学のBargerらは2019年、心理学の専門誌Psychological Bulletinに、親の関わりと子どもの育ちについての研究448本、約48万家族ぶんをまとめた分析を発表しました。

  • 親が子どもの学校生活に関わっている家庭ほど、子どもの成績・やる気が高く、友だちとの関係がよく、気持ちが安定しているという関係があった
  • ただし、その関係はどれも「小さい」ものだった
  • 学校の行事に参加することと、家で学校の話をすることは、同じくらいよい関係があった
  • 宿題を手伝うことだけは、成績とマイナスの関係があった

3つ目は、あとで大事になるので覚えておいてください。行事に行くことと、家で話を聞くことは、同じくらいの重みでした。

子どもを追いかけた研究もあります。アメリカのピッツバーグ大学のNermeen El Nokaliらは2010年、発達心理学の専門誌Child Developmentで、子ども1,364人を小学1年生から5年生まで追いかけた記録を分析しました。同じ子どもの中で、親の関わりがふえた時期には、問題になる行動がへり、人とうまくやる力が上がっていました。成績の変化とは、関係がありませんでした。

園児ではどうでしょうか。アメリカのマサチューセッツ大学アマースト校の研究(Arnoldら、2008年)は、おもに所得の低い家庭の、園に通う子ども163人について、親が園に関わっているほど、読み書きの土台になる力が高いと報告しています。

ここまでをまとめると、「親が園や学校に顔を出すこと」と、子どもの気持ちの安定や人づきあいのあいだには、小さいけれど、たくさんの研究で一貫して見つかっているプラスの関係があります。ただし、どれも「関係があった」という研究です。行ったからそうなった、とまでは言えません。もともと余裕のある家庭が、行事にも行きやすいだけかもしれません。

親の応援は、親が運動が得意かどうかより大きい

次は、運動についての研究です。カナダのビクトリア大学のChristopher YaoとRyan Rhodesは2015年、運動と健康の専門誌で、親と子どもの運動についての研究115本をまとめました。「関係の強さ」を0から1の数字で表したものです(1に近いほど強い関係)。

親の応援や手助けの全体と、子どもの運動量0.38
そのうち「はげますこと」と、子どもの運動量0.34
親自身がよく運動することと、子どもの運動量0.16

関係の強さ(棒は0.5を右はしとした長さ)。Yao & Rhodes (2015) より作成

親の「応援や手助け」には、子どもが体を動かしているところを見ること、「うまくできているよ」と伝えること、はげますこと、いっしょに体を動かすことなどがふくまれています。これらを合わせた全体と子どもの運動量の関係は0.38で、親自身がよく運動しているかどうか(0.16)より、ずっと強い関係でした。

「自分は運動が苦手だから、子どもに見本を見せられない」と思う必要はなさそうです。走るのがおそくても、応援はできます。

ただし、「見る」「ほめる」など1つずつの行動に分けると、関係は小さくなりました(0.14〜0.28)。中くらいの強さだったのは「はげますこと」だけです。研究どうしの結果のばらつきも大きく、見に行くだけで子どもがよく動くようになる、とは言えません。

親子競技で、子供をおんぶして笑いながら走るパパのドット絵イラスト

親がそばにいると、緊張のホルモンが上がりにくかった

運動会は、子どもにとって緊張する日でもあります。おおぜいの人の前で走り、おどります。ここで、医学・生理学の実験をひとつ紹介します。

アメリカのミネソタ大学などのチーム(Hostinarら)は2015年、発達科学の専門誌Developmental Scienceで、9〜10歳の子ども40人と、15〜16歳の41人の実験を発表しました。子どもに、知らない大人の前でスピーチをするという、緊張する課題をしてもらいます。その前の準備の5分間、くじで決めた半分の子には親が、残りの半分には知らない人がつきそいました。そして、だ液にふくまれる緊張のホルモン(コルチゾール)をはかりました。

  • 9〜10歳の子では、親がつきそった場合、緊張のホルモンの上がり方がほぼ消えた
  • 15〜16歳では、親がつきそっても、知らない人のときと変わらなかった

研究チームは別の論文で、親の支えは子ども時代の終わりごろまで強くはたらき、思春期になると効きにくくなる、とまとめています。

研究室で行った、9〜10歳の子の実験です。園児でも、運動会でもありません。「運動会に親が来ると緊張がやわらぐ」と確かめられたわけではありません。それでも、親がそばにいるだけで体の緊張がやわらぐ時期は、子ども時代のうちだけだということは分かります。出番の前に子どもが客席をきょろきょろ見るのは、理由のあることのようです。
運動会の列の中からパパを見つけて大きく手をふる子供と、手をふり返すパパの後ろ姿のドット絵イラスト

どう応援すればいいのか

行くとなったら、どんなふうに見ていればいいのでしょうか。子ども本人に聞いた研究があります。

アメリカのテキサス工科大学のJens Omliらは2011年、スポーツ科学の専門誌で、7〜14歳の子どもたちに「試合のとき、親は実際にどうしているか」「本当はどうしてほしいか」を聞きました。子どもの話から、親の姿は3つに分かれました。

  • 応援する親:すわって見守り、声援を送り、はげまし、ほめる
  • 要求するコーチ:客席から、ああしろこうしろと指示を出す
  • 熱くなりすぎたファン:大声でどなる、言い合いをする、だれかを責める

この研究を紹介した論文によると、子どもたちが圧倒的に望んでいたのは「応援する親」でした。「熱くなりすぎたファン」のようにはぜったいにしてほしくない、という子が大半でした。

カナダのジュニアのテニス選手42人(平均13.5歳)に聞いた研究(Knightら、2010年)でも、子どもたちは、技術や作戦についての口出しはいらない。努力や取り組む姿勢について声をかけてほしい、と答えています。

どちらも、園児より年上で、試合に出ている子どもの研究です。年中の子にそのまま当てはまるとは限りません。それでも、「もっと腕をふって!」「ちゃんと前を見て!」という声は、親が思うほど助けになっていないようです。かける言葉は「がんばれ」「いいぞ」で十分です。

行けないときは、どうすればいいのか

仕事、下の子の世話、体調。行けない年は、どの家庭にもあります。運動会が平日にある園もあります。行けなかった親は、何かを取りこぼしたのでしょうか。

ここで、最初の研究にもどります。448本をまとめた分析では、行事に参加することと家で学校の話をすることは、同じくらいよい関係がありました。アメリカのペンシルベニア大学の研究(Fantuzzoら、2004年、園児144人)でも、子どもの育ちといちばん強く結びついていたのは、園での関わりではなく、家庭での関わりでした。

では、家で何をすればいいのでしょうか。「思い出話」の実験が手がかりになります。ニュージーランドのオタゴ大学のElaine Reeseらは2007年、Child Development誌に、母親に「思い出話のしかた」を教える実験を発表しました。くじで選ばれた母親に、子どもが1歳半から2歳半のあいだ、「くわしく聞いて、子どもの言葉を広げる」話し方を練習してもらいます。運動会に当てはめると、たとえば次のような聞き方です(例は、この考え方をもとに私が作ったものです)。

  • 「はい・いいえ」で終わらない聞き方をする(「何がいちばん楽しかった?」)
  • 子どもが言ったことを受けて、くわしくふくらませる(「そう、赤い帽子だったね。だれといっしょに走ったの?」)
  • 気持ちについても話す(「ドキドキした?」)

その結果、教わった母親の子どもは、教わらなかった母親の子どもより、2歳半のときも3歳半のときも、できごとをくわしく思い出して話せるようになっていました(2歳半で115人、3歳半で100人を調べています)。SalmonとReeseが2016年に書いたまとめでは、親がくわしく、気持ちをまじえて、いっしょに思い出を話す家庭の子は、記憶・言葉・気持ちを理解する力がよく育つ、とされています。

つまり、運動会の日の値打ちは、その場にいたかどうかだけでは決まりません。その夜、どれだけくわしく話を聞いたかで、子どもの中に残るものが変わります。行けなかった親にも、できることがあります。行けた親にとっても、見て終わりではなく、あとで話すところまでが運動会です。
夜の食卓で、首にメダルをかけて走るまねをしながら話す子供と、ほおづえをついて笑顔で聞くパパのドット絵イラスト

父親の関わりについての研究も見ておきます。スウェーデンのウプサラ大学のAnna Sarkadiらは2008年、小児科の専門誌Acta Paediatricaで、父親の関わりと子どもの育ちを長く追いかけた研究24本をまとめました。そのうち22本が、よい影響を報告していました。大事だとされたのは、自分から、ふだんから関わることです。どんな形の関わりがいちばんよいかは、決め手がないとされています。

年に1回の運動会に行けたかどうかより、ふだんの関わりのほうが、ずっと大きいということです。

経営学のヒント:現場に行くだけでは、何も変わらない

会社には、「えらい人ほど現場に足を運ぶべきだ」という考え方があります。社長や部長が工場や売り場を歩き、自分の目で見て、働いている人の話を聞く。英語の頭文字をとって「MBWA(歩き回る経営)」とも呼ばれ、多くの会社で取り入れられてきました。

これが本当に効くのかを、実験で確かめた研究があります。ハーバード大学のAnita TuckerとSara Singerは2015年、経営の専門誌Production and Operations Managementで、病院を舞台にした研究を発表しました。くじで選んだ病院で、上の立場の人が現場を回って話を聞くという取り組みを、18か月続けてもらいます。56の職場が参加しました。

結果は、意外なものでした。

  • 取り組みを行った職場は、平均すると、かえって成績が下がっていた
  • よい効果が出たのは、現場で聞いたことが実際に問題の解決につながったときだけだった
  • 上の人が現場に姿を見せるだけでは、助けにならなかった

見に来て、話を聞いて、それきり何も変わらない。それなら来ないほうがまし、と現場の人は感じたのかもしれません。大事なのは「行ったかどうか」ではなく、「行って何を見て、そのあと何をしたか」でした。

病院の管理職の研究で、親子の話ではありません。たとえ話として読んでください。それでも、運動会に置きかえると、うなずけるところがあります。会場にはいたけれど、ずっとスマホの画面ごしに撮っていて、何を見たかは覚えていない。家に帰ってからは、運動会の話をしない。これでは「姿を見せただけ」です。反対に、その場にいられなくても、夜に「かけっこ、どうだった?」とくわしく聞いた親は、子どもの1日にちゃんと関わっています。

今日からできること

2と5は上の研究から言えること、ほかは研究の考え方をもとにした工夫です。

見に行けるとき

  1. どこで見ているかを、先に伝える。「パパは、青いテントのよこにいるよ」。出番の前に親の顔を見つけられると、子どもは安心します。
  2. 声援は「がんばれ」「いいぞ」だけ。指示は出さない。走り方やおどり方の注文は、客席からは言いません。子どもがしてほしいのは、応援です。
  3. 撮る時間と、自分の目で見る時間を分ける。かけっこは撮る、ダンスは自分の目で見る、のように決めておきます。全部を画面ごしに見ると、あとで話せることが少なくなります。
  4. 結果より、やっていたことを言う。「1番だったね」より、「さいごまで走ってたね」「ダンス、大きく手をのばしてたね」。見ていた人にしか言えない言葉です。勝ち負けとの付き合い方は、負けると泣く子の記事に書きました。
  5. その夜に、くわしく聞く。「何がいちばん楽しかった?」「スタートの前、どんな気持ちだった?」。子どもの答えを受けて、ふくらませます。ここまでが運動会です。

見に行けないとき

  1. 先に、正直に伝える。「この日はお仕事で行けないんだ。帰ったら、ぜんぶ教えてね」。当日に来ていないと気づくより、先に知っているほうが落ち着けます。
  2. かわりに見てくれる人をたのむ。もう一人の親、祖父母など。動画をとってもらえるなら、おねがいします。
  3. その夜に、くわしく聞く。見ていないからこそ、聞けることがたくさんあります。「ぜんぜん知らないから、最初から教えて」。動画があれば、いっしょに見ながら話してもらいます。
  4. ふだんの日に、いっしょに体を動かす。文部科学省の「幼児期運動指針」は、幼児は毎日、合計60分以上、楽しく体を動かすことがのぞましいとし、保育者だけでなく保護者もいっしょに体を動かす時間をとるようすすめています。運動会の1日より、公園の30分を何回か、のほうが長くなります。

行けなかったことを、何度もあやまる必要はありません。研究が見ているのは、年に1回の出席ではなく、ふだんの関わり全体です。行けた年は、よく見て、あとでよく聞く。行けなかった年は、あとでよく聞く。どちらの年にも、できることは同じだけあります。

まとめ

  • 国の要領は、行事を「生活に変化や潤いを与え、幼児が主体的に楽しく活動できるように」するものとしている。運動会は、父親の85.5%が自分から行きたいと思って行く行事だった(第一生命経済研究所、2013年調査)
  • 親が園や学校に関わっている子は、気持ちの安定・人づきあい・やる気がよい傾向がある。ただし関係は小さく、行事への参加と、家で学校の話をすることは同じくらいだった(Barger et al., 2019)
  • 親の応援や手助けと子どもの運動量の関係は、親自身が運動するかどうかより強かった(Yao & Rhodes, 2015)
  • 9〜10歳の実験では、親がそばにいると緊張のホルモンの上がり方がほぼ消えた(Hostinar et al., 2015)。園児や運動会で確かめたものではない
  • 子どもが望むのは、指示を出す親やどなる親ではなく、見守ってはげます親(Omli & Wiese-Bjornstal, 2011)
  • くわしく聞いてふくらませる思い出話は、子どもの記憶や言葉を育てる(Reese & Newcombe, 2007)。行けなくても、その夜に話を聞ける
  • 現場に行くだけでは変わらない。行って何を見て、あとで何を話すかが大事