すごろくで先にゴールしたら、子どもが腕を組んでそっぽを向く。「もうやらない!」と泣いて、カードを投げる。次からは、ついわざと負けてあげてしまう——年中の子と暮らしていると、遊びのたびにぶつかる場面です。毎回勝たせてあげていいのか、それとも負ける経験をさせたほうがいいのか。今回は、4〜5歳の子が負けるとあれほど荒れる理由と、わざと負けることの影響、親の声のかけ方を、大学の研究から調べました。

4〜5歳は、「負け」が分かるようになったばかり
まず、小さい子はそもそも勝ち負けを分かっていません。カリフォルニア大学ロサンゼルス校のDeborah Stipekらは1992年、1〜5歳の子どもの「自分のできばえの感じ方」を調べた一連の研究を発表しました。その中の競争の実験では、2歳9か月より下の子は勝ち負けを理解しておらず、勝っても負けても様子が変わりませんでした。それより上の子は、勝つとはっきり喜びが増しました。
ザルツブルク大学のBeate Priewasserらが2013年にJournal of Experimental Child Psychology誌に発表した研究は、もう少しくわしく見ています。3〜5歳の子ども71人に、サイコロを振ってビーズを集め、先に決まった高さまで積んだ子が勝ち、というゲームをしてもらいました。ビーズは、みんなの山から取っても、ほかの子から取ってもかまいません。
すると、「相手のビーズを取って、相手のゴールをじゃまする」という勝つための手を使ったのは、「人は自分とちがう考えを持っている」ことが分かるテストに通った子に多いという結果でした。年下の子は、自分のビーズを増やすことには熱心でも、相手のビーズの数は気にしていませんでした。
かんたんなことで負けるほど、くやしい
ニュージャージー医科歯科大学(当時)のMichael Lewisらは1992年にChild Development誌で、3歳の子どもにかんたんな課題とむずかしい課題をやってもらい、表情やしぐさを観察した研究を発表しました。子どもたちは、むずかしい課題で失敗したときより、かんたんな課題で失敗したときのほうが、はっきりと恥ずかしそうな様子を見せました。反対に、むずかしい課題に成功したときほど、誇らしそうにしました。
すごろくやカードゲームは、子どもから見れば「自分にもできるはずの遊び」です。だからこそ、負けたときの気持ちが大きくなるのかもしれません。
わざと負けてあげ続けると、どうなる?
泣かれるのがつらくて、毎回わざと負ける。これについて手がかりになる研究があります。アマースト大学のCarrie Palmquistらは2016年にJournal of Experimental Child Psychology誌で、4〜5歳の子どもの宝さがしゲームの実験を発表しました。
ゲームでは、大人が2人いて、どこに宝があるかヒントをくれます。1人はいつも正しいヒント、もう1人はいつもまちがったヒントを出します。子どもの半分には、どちらのヒントに従っても必ず宝が見つかるように、こっそり仕組んでおきました。残りの半分は、ヒントしだいで見つかったり見つからなかったりします。
そのあとで「次はどっちの人に教えてもらいたい?」と聞くと、見つかったり見つからなかったりした子は、正しいヒントをくれた人を選びました。ところが、必ず見つかるようにされていた子は、2人を区別できませんでした。そして、1回だけ見つけられない経験をはさむと、正しい人を選べるようになりました。
「勝ったね」より「さいごまでやったね」
では、声かけはどうすればよいのでしょうか。シカゴ大学のElizabeth Gundersonらは2013年にChild Development誌で、53の家庭を追いかけた研究を発表しました。子どもが1〜3歳のときに、親が家でかけたほめ言葉を記録し、その子が7〜8歳になったときの考え方を調べています。
結果、「がんばったね」「よく考えたね」のように、やり方や努力をほめる言葉を多くかけられていた子ほど、7〜8歳のときに「力は努力で伸ばせる」と考え、むずかしいことに挑戦したがる傾向がありました。「頭がいいね」のように本人の性質をほめる言葉の多さは、あとの考え方とはっきりした関係がありませんでした。
53家庭の追跡で、原因と結果を言い切れる研究ではありません。それでも、勝ったときだけ「すごい!」と盛り上がるより、勝っても負けても「さいごまでやったね」「さっきの手、よく考えたね」と中身をほめるほうが、負けに強い子につながりそうです。
経営学のヒント:「成果目標」より「学習目標」
仕事の目標の立て方にも、同じ考え方があります。目標設定の研究で知られるトロント大学のGary Lathamと、ウェスタンオンタリオ大学のGerard Seijtsは、2005年に経営学の専門誌Academy of Management Executiveで、「成果目標」と「学習目標」の使い分けを整理しました。
成果目標は、たとえば「売上を10%上げる」のような結果の目標です。学習目標は、たとえば「うまくいくやり方を3つ見つける」のような、やり方を身につける目標です。2人は、まだ知識や技能を身につけている途中の人に結果の目標だけを与えると、かえって成績が落ちることがあると指摘しています。学習目標は、結果から目をそらして、うまいやり方を見つけることに注意を向けさせるからです。
年中の子は、ゲームのやり方も、負けたときの気持ちの扱い方も、まさに身につけている途中です。そこで「勝つこと」だけが目標になると、負けは全部失敗になります。「今日はサイコロを自分で数える」「さいごまでやる」のような、勝ち負けと関係のないめあてを先に決めておけば、負けても「めあてはできた」が残ります。
今日からできる対処法
2と3は上の研究から言えること、1・4・5は研究の考え方をもとにした工夫です。
- まず、くやしい気持ちを言葉にする。「負けてくやしかったね」とひとこと言って、泣きやむのを待ちます。投げたカードの話は、落ち着いてからにします。気持ちに名前をつける効果は、こだわりの記事で紹介しました。
- 毎回わざと負けない。ときどきは親が勝ちます。すごろくのように運で決まるゲームなら、手加減しなくても子どもが勝つ回がまざります。
- 勝ち負けではなく、中身をほめる。「さいごまでやったね」「サイコロ、自分で数えられたね」と、勝っても負けても同じようにほめます。
- はじめる前に、めあてを1つ決める。「今日は、さいごまでやるのがめあてね」。終わったら、勝ち負けより先に「めあて、できたね」と伝えます。
- 親が負けたときに、お手本を見せる。「くやしい!でも楽しかった。もう1回やろう」と口に出します。負けたあとにどうふるまうかを、子どもは親から見て覚えます。
負けて泣く子を前にすると、「このまま負けずぎらいの乱暴な子になるのでは」と心配になります。でも研究を見るかぎり、これは勝ち負けが分かるようになった年ごろの、ふつうの姿です。泣かないようにさせることより、泣いたあとにもう1回遊べることを目標にしてみてください。
まとめ
- 2歳9か月より下の子は勝ち負けを理解していない(Stipek et al., 1992)。相手に勝とうとする動きは、相手の考えを想像できる子に多かった(Priewasser et al., 2013)
- 3歳の子は、かんたんな課題で失敗したときほど恥ずかしそうにした(Lewis et al., 1992)
- 必ず成功するように仕組まれた子は、だれのヒントが正しいかを学べなかった。1回の失敗で学べるようになった(Palmquist et al., 2016)
- やり方や努力をほめられていた子は、数年後に「力は伸ばせる」と考える傾向があった(Gunderson et al., 2013)
- 身につけている途中の人には、「成果目標」より「学習目標」。ゲームの前に、勝ち負けと関係のないめあてを決める
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競争と相手の考えの理解:Priewasser, Roessler & Perner (2013) Journal of Experimental Child Psychology
課題のむずかしさと恥・誇り:Lewis, Alessandri & Sullivan (1992) Child Development
必ず成功する遊びの影響:Palmquist, Jaswal & Rutherford (2016) Journal of Experimental Child Psychology/Amherst College の発表
ほめ言葉と数年後の考え方:Gunderson et al. (2013) Child Development
成果目標と学習目標:Seijts & Latham (2005) Learning versus performance goals: When should each be used? Academy of Management Executive, 19(1)