べるぞね

小児科の受付に「インフルエンザ予防接種 受付中」の貼り紙が出る季節になりました。大人は1回なのに、子どもは2回。注射が苦手な子を2回も連れて行くのは、正直たいへんです。「打っても、かかる子はかかるよね」という声も聞きます。今回は、厚生労働省と日本小児科学会の案内、それに子どもを対象にした研究から、回数・間隔・時期と、どのくらい効くのかを調べました。

小児科の待合室のソファで、不安そうにパパのそでをつかむ子供と、やさしく笑うパパのドット絵イラスト

先に、分かったことをまとめます。

  • 13歳未満は、注射のワクチンを2回。間隔は「2〜4週」で、学会や薬の説明書は「4週」をすすめています。
  • かからない保証はありません。でも、子どもを対象にした研究のまとめでは、注射のワクチンで発病の割合が30%から11%に下がっていました。
  • 今年(2026年)は、8月28日にもう流行入りしています。国の資料は「12月中旬までに接種を終える」のが望ましいとしています。
この記事は、病気の治し方や、打つ・打たないを決めるためのものではありません。国や学会の公開資料と研究を整理したものです。体質(卵のアレルギーなど)や持病がある場合、接種するかどうかやワクチンの種類は、かかりつけの医師に相談してください。

なぜ子どもは2回?「1回目で準備、2回目で守る」

厚生労働省のワクチンの案内には、「13歳未満の方は、2回接種です」とあり、理由として、1回接種後よりも2回接種後のほうが、抗体(体を守るしくみの一部)がより高く上がることを挙げています。量も年齢で決まっていて、6か月以上3歳未満は1回0.25mL、3歳以上13歳未満は1回0.5mLを2回です。

アメリカの疾病対策センター(CDC)は、2回の意味を「1回目は免疫を準備させ、2回目で守りができる」と説明しています。アメリカでは、6か月〜8歳で、これまでに2回以上打ったことがない子に2回をすすめ、9歳以上は1回です。日本では13歳未満は毎年2回、と国ごとに決め方が少しちがいます。

実際に、はじめてワクチンを打つアメリカの5〜8歳232人を調べた研究(Neuzil ら、2006年)では、守りに足りる抗体ができた子の割合が、1回のあとより2回のあとで、どの型でもはっきり高くなっていました。

2回目は、何週あける?

注射のワクチンの説明書(添付文書)は、「およそ2〜4週間の間隔をおいて2回」とし、免疫の効果を考えると4週間おくことが望ましいとしています。日本小児科学会の予防接種スケジュールも「4週(2〜4週)あける」です。

そして、日本小児科学会の保護者向け資料によると、効果が出るまでに2週間ほどかかり、効果が期待できるのは接種が終わってから2週後から5か月程度です。

夕方の台所で、パパが壁のカレンダーに赤いペンで2つめの丸をつけ、子供がつま先立ちで見上げるドット絵イラスト

いつ打つ?今年はもう流行が始まっている

厚生労働省の2026年度のQ&Aは、インフルエンザは例年12月〜3月ごろに流行し、1月末〜3月上旬にピークを迎えるので、12月中旬までにワクチン接種を終えることが望ましいとしています。日本小児科学会の資料も、効果が出るまでの2週間を考えて、10月末や11月からの接種を案内しています。

ただ、今年はいつもとちがいます。同じQ&Aによると、2026年は8月28日に流行入りを発表しました。感染症の法律ができた1999年以来、2番目に早い流行入りです。国立健康危機管理研究機構(JIHS)の集計では、第42週(10月中旬)に全国の医療機関1か所あたりの患者報告数は9.08で、前の週の12.81より減っていましたが、入院の報告は1週間で983例ありました。その年齢の内訳がこちらです。

同じ機関のまとめでは、昨シーズン(2025/26年)の入院報告のうち10歳未満が占める割合は36.8%で、前のシーズンの20.2%から増えていました。インフルエンザ脳症の報告も、2023/24年191例、2024/25年182例、2025/26年176例(うち死亡14例)で、別の年の分析では2〜12歳に多いとされています。

流行が始まってから打つと、どのくらい効果が落ちるのかを示した公的な資料は、今回は見つけられませんでした。「もう流行しているから遅い」とも「今からでも同じように効く」とも言えません。早めに打つかどうかは、かかりつけ医に相談するのが確実です。

打っても、かかる。それでも意味はある?

ここは、正直な数字から見ていきます。厚生労働省は、インフルエンザのワクチンは感染を完全に防ぐものではなく、はしか(麻しん)や風しんのワクチンのような高い発病予防効果は期待できないと書いています。そのうえで、発病をある程度防ぐことと、重症化を防ぐことに、一定の効果があるとしています。乳幼児の発病を防ぐ効果は、報告によって幅があるものの、おおむね20〜60%です。

世界中の研究をまとめたコクランという団体の分析(Jefferson ら、2018年)では、健康な2〜16歳を対象にしたくじ引きの試験(ランダム化比較試験)を集めて、こう報告しています。

この分析は、5人に打つと1人のインフルエンザを防げる計算になる、とも書いています。逆に言えば、打った子の中にもかかる子はいる、ということです。なお、このまとめでは入院を調べたデータは見つからなかったそうです。

入院については、日本の研究があります。Shinjoh らの研究グループは、2013/14年から7シーズン、6か月〜15歳の子どもを、受診して検査した子の中で比べる方法(検査陰性デザイン)で調べました。年齢別の結果は次のとおりです。

この研究では、有効率がいちばん高かったのは1〜2歳で、年長の年齢にあたる3〜5歳も55%(A型)でした。入院を防ぐ効果も、A型で55%と報告されています。日本小児科学会も、ワクチン接種で入院が減ったという報告があるとして、子どもへの接種をすすめています。

「有効率55%」は、「55%の子がかからない」という意味ではありません。打たなかった場合にかかる人のうち、およそ半分くらいを防げた、という意味です。また、この研究は観察研究で、シーズンごとに流行した型やワクチンの合い方で数字は上下します。
いちょうの葉が散る病院の前で、子供が腕のばんそうこうを得意げに見せ、パパがしゃがんで笑うドット絵イラスト

2回目を忘れた・打てなかったら、1回分はむだ?

2回目の日に熱が出た、予約を取りそびれた。よくあることです。気になったので、1回と2回をくらべた日本の研究も見ました。

同じ研究で、6か月〜5歳の子を「打たなかった子」とくらべた有効率は、次のとおりでした。

A型では1回でも2回でもほぼ同じで、B型では2回のほうが高めでした。2013〜2018年の約2万人を調べた同じグループの別の研究も、1回と2回の有効率に、全体としてははっきりした差がなかった一方、シーズンによってはB型で2回のほうが効いていたと報告しています。

ここから言えるのは、「2回打たないと1回目がむだになる」わけではない、ということです。同時に、日本の公式なすすめは13歳未満は2回で、研究者たちもそれを前提に書いています。2回目を逃したら、あきらめずに医療機関に相談する。それくらいの受け止めがよさそうです。

鼻にシュッとするワクチンもある

2023年に、鼻の中にスプレーするタイプのワクチン(経鼻弱毒生ワクチン)が承認されました。対象は2歳以上19歳未満で、1回、左右の鼻に1回ずつ噴霧します。日本小児科学会は2026年9月の資料で、2歳〜19歳未満には、注射のワクチンと鼻のワクチンのどちらでも同じようにすすめるとしています。

注射が1回で済まない子にとっては、選択肢になりそうです。ただし、学会の資料では、副反応として鼻づまり・鼻水が59.2%と多く、2歳未満では対象外です。重いぜんそくがある子は注射のほうをすすめられているなど、向かない場合もあるので、どちらにするかは医師と相談します。取り扱っていない医療機関もあります。

副反応と費用

厚生労働省によると、注射のワクチンでよく起こるのは、打ったところが赤くなる・はれる・痛むで、10〜20%。熱、頭痛、だるさなどの全身の反応は5〜10%で、どちらも通常2〜3日で消えます。

費用は、治療ではないので健康保険が使えず、原則として全額自己負担で、医療機関によって金額がちがいます。全国の平均額を示す公的な資料は見つかりませんでした。市区町村によっては子どもに助成があります(たとえば東京都杉並区は2026年度、注射1回あたり上限2,000円、鼻のワクチンは上限4,000円)。住んでいる自治体のページで確かめてください。

経営学のヒント:「効く・効かない」の二択でなく、確率で考える

会社の判断では、「この施策は必ず成功するか」ではなく、「何回に1回うまくいくか」「うまくいかなかったときの損はどのくらいか」を見て決めることがよくあります。成功の確率と、それぞれの結果の大きさをかけ合わせて考える、いわゆる「期待値」の考え方です。

ここは、一般的な意思決定の考え方を家庭に当てはめた私の整理です。ワクチンについて経営学の研究があるわけではありません。

インフルエンザのワクチンを「打ったのにかかった。だから効かない」と考えると、二択の話になります。でも数字で見ると、話は「5人に打つと1人防げる」「かかっても入院を減らせる報告がある」という確率の話でした。一方で、2回の通院、注射の痛み、2〜3日の副反応、費用という、確実にかかるコストもあります。

わが家に置きかえると、私は次のように並べて考えました。

  • 防げるかもしれないもの:子どもの発熱と看病の数日、園のお休み、家族へのうつり合い、まれな重い経過
  • 確実にかかるもの:通院2回の時間、注射のこわさ、副反応の数日、費用
  • 確率を変えられること:時期(流行のピークの前に効果が出ているか)、回数、手洗いなどほかの予防

こう並べると、「打つか打たないか」で迷うより、「どの時期に、どうやって子どもの負担を小さく打つか」に話が移りました。何を選ぶかは家庭ごとでいいと思います。大事なのは、「かかったから意味がなかった」と、結果だけで判断を振り返らないことかもしれません。

洗面所で踏み台に乗った子供が泡の手で手を洗い、パパが後ろから肩に手をそえて見守るドット絵イラスト

今日からできること

次の手順そのものを試して、病気が減ると確かめた研究があるわけではありません。国や学会の案内を、家庭の段取りに置きかえたものです。

  1. かかりつけの小児科の予約方法を確かめる。電話・ウェブ・当日受付など。人気の時期は早く埋まることがあります。
  2. 1回目と2回目を、カレンダーに同時に書く。間隔は4週をめやすに(2〜4週の範囲)。園の行事や旅行とぶつからない日を選びます。
  3. 12月中旬までに2回目が終わるかを逆算する。今年は流行入りが早いので、迷ったら早めに相談します。
  4. 自治体の助成を確かめる。「市区町村名+小児 インフルエンザ 助成」で公式ページを探します。
  5. 注射の前の声かけを考えておく。「痛くないよ」と言いきるより、正直に短く伝えるほうがよいという考え方があります(下の記事で調べました)。
  6. 打ったあとも、手洗いと体調の見守りは続ける。ワクチンは確率を下げるもので、ゼロにはしません。
受診の目安:接種後に高い熱が続く、ぐったりしている、息苦しそう、意識がおかしいなどのときは、すぐに医療機関に相談してください。夜間・休日は、子ども医療電話相談(#8000)も使えます。

まとめ

  • 13歳未満は注射のワクチンを2回。間隔は2〜4週で、4週が望ましい。効果は2週後から5か月程度
  • 国は12月中旬までに終えるのが望ましいとしている。今年は8月28日に流行入り
  • 健康な2〜16歳では、発病が30%→11%(5人に打つと1人防げる計算)。日本の3〜5歳の有効率はA型55%
  • 1回と2回の差は、全体では大きくなかった。ただしB型では2回のほうが高めで、公式のすすめは2回
  • 2歳以上なら鼻のワクチン(1回)という選択肢もある。費用は医療機関ごとで、自治体の助成を確かめる

「打っても、かかるなら意味ある?」の答えは、「かかる確率を下げる意味はある。でもゼロにはならない」でした。2回の通院がたいへんな分、カレンダーに先に2つ丸をつけてしまうのが、わが家のいちばん現実的な一歩です。