家で仕事をしていると、5分おきに声がかかります。「パパー、ねえちょっとー」「パパー、来てー」「パパー、見て見てー!」。行ってみると、積み木が3つ積んであるだけ。席にもどって続きを書きはじめると、また「パパー」。1時間たっても、仕事は3行しか進んでいない。正直、頭がおかしくなりそうです——年中の子がいる家で仕事をしている人なら、覚えがあるはずです。子どもの中では何が起きているのでしょうか。どう接すればいいのでしょうか。仕事はあきらめるしかないのでしょうか。今回は、園児で試した行動の研究と、家で働く親の調査から調べました。

子どもの中で、何が起きているのか
「見てほしい」は、この年ごろではふつうの回数
まず、5分おきに呼ぶのは多すぎるのでしょうか。アメリカのカンザス大学のJeffrey TigerとGregory Hanleyは2005年、応用行動分析の専門誌Journal of Applied Behavior Analysisに、園に通う4歳と5歳の子ども2人の実験を発表しました。先生が「いまは君の時間だよ。質問に答えるし、作ったものも見るよ」と伝えた時間、子どもたちがどのくらい先生を呼んだかを数えています。
結果は、1分間に約9回でした。
たった2人の研究ですが、相手をしてもらえると分かっているとき、この年ごろの子は数秒おきに大人を呼びます。5分に1回は、子どもなりにかなりがまんしている回数かもしれません。
では、なぜそんなに見てほしいのでしょうか。日本には、園での子どもの「みてて」という言葉を調べた福崎淳子さんの研究があり、本の題名には「自他間の気持ちを繋ぐ機能」とあります。ただ、中身は今回たしかめられなかったので、「見て見て」の理由をここで言い切ることはしません。分かっているのは、大人を呼ぶこと自体は、こまった行動ではなく、この年ごろにごくふつうに見られる行動だということです。

子どもには「いまはだめ」が見えていない
同じ研究に、もうひとつ大事な結果があります。先生は、「相手ができる時間」と「できない時間」で、首にかける花かざりの色を変えました。ところが、色を変えただけでは、子どもたちは2つの時間をうまく見分けられませんでした。
考えてみれば、家でも同じです。パパは家にいて、すぐそこにすわっています。パソコンで仕事をしている姿と、動画を見ている姿は、子どもからはほとんど同じに見えます。「いまは忙しい」は、大人の頭の中にしかありません。子どもは仕事をじゃましようとしているのではなく、「いまはだめ」が見えていないのです。
ひとりで遊び続ける力は、まだ育っているとちゅう
アメリカのHolly RuffとKatharine Lawsonは1990年、発達心理学の専門誌Developmental Psychologyで、1歳から4歳半までの子どもが、おもちゃで自由に遊ぶ様子を観察しました。ひとつの遊びに集中していられる時間は、年齢が上がるにつれて、はっきり長くなっていました。4歳半は、まだその坂をのぼっているとちゅうです。
どう接すればいいのか:「呼んでいい時」を、見える合図にする
色を変えただけでは見分けられなかった、という実験には続きがあります。TigerとHanleyは、毎回はじめる前に、子どもに言葉で約束を説明することにしました。
「白い花かざりをつけているときは、先生の時間。質問には答えられないし、作ったものも見られないよ。」
すると、子どもたちの行動ははっきり分かれました。
もう1人の5歳の子も、「君の時間」は1分に9回、「先生の時間」は1分に1.5回でした。合図と、言葉での約束。この2つがそろうと、4〜5歳の子でも「いまは呼ばない時間」を見分けられたのです。
同じ研究チームは2006年、3歳9か月から5歳7か月の園児7人で続きの実験をしました。「だめな時」の合図がなくても、「いい時」の合図だけで、同じくらいうまくいきました。「緑の札が出ているときは来ていいよ」と教えるだけでも、効き目がありそうです。

「すみません」と「待って→いいよ」は、教えればできる
Hanleyらは2007年、3歳9か月から5歳3か月の園児16人のクラスで、園の生活に必要な技を1つずつ教える取り組みを行いました。その中に、次の2つがあります。
- 先生を呼ぶときは、ちょうどいい声で「すみません」と言う
- 大人に「待って」と言われたら、「いいよ」と言って、30秒待つ
取り組みのあと、クラスでのこまった行動は74%へり、教えた技を使う回数は4倍以上になりました。
ここで見てほしいのは、待つ時間が30秒だという点です。研究者たちは、30分でも10分でもなく、30秒から教えています。「待てない子」なのではなく、いきなり長く待たせすぎているのかもしれません。待つことについては、「待って」が通じないときの記事でも書きました。
先にまとめて相手をすると、呼ぶ回数はへるのか
「仕事の前に、たっぷり遊んであげれば満足して呼ばなくなる」。よく聞く考え方です。調べてみると、年中の子で、これを直接たしかめた研究は見つかりませんでした。近い研究は2つあります。
- アメリカの小学3年生2人の研究(Austin & Soeda、2008年):先生が4分ごとに決まって声をかけるようにしたら、授業中にほかのことをする行動がへった
- 障害のある小学生の研究(McComasら、2003年):課題の前に10分間、相手をしておくと、そのあとの「かまってほしくて起こす行動」がへった
どちらも対象がちがうので、年中の子にそのまま当てはまるとは言えません。ただ、向いている方向は同じです。呼ばれてから行くのではなく、こちらから先に、時間を決めて相手をする。
もうひとつ、「親子相互交流療法(PCIT)」という、行動にこまりごとのある2〜7歳の子と親のための方法があります。親が子どもの遊びについていく「子ども主導の遊び」の時間を土台にしていて、23の研究・1,144人をまとめた分析(Thomasら、2017年、医学誌Pediatrics)では、かんしゃくや反抗などがはっきりへっていました。専門家と取り組む治療の話なので、家でまねをすれば同じ効果が出る、とは言えません。それでも、子どもに主導権をわたして遊ぶ時間に意味があることは、うかがえます。

仕事は、あきらめないといけないのか
家で働く親は、みんな中断されている
まず、これは自分の段取りが悪いせいではありません。アメリカのワシントン大学のSophie Leroyらは2021年、心理学の専門誌Journal of Applied Psychologyで、家で働く249人を調べました。在宅勤務になってから、仕事と関係のない割り込みが大きくふえ、それが多い人ほど、つかれが強く、仕事の成績が下がっていました。
イギリスの財政研究所(IFS)が2020年に行った、両親のいる家庭の調査では、子どもが家にいた時期、親の仕事時間は次のようになっていました。
母親は仕事時間の半分近く、父親でも3割が、「子どもを見ながら」の仕事でした。
国も、「子どもを見ながら働く」を前提にしていない
厚生労働省のテレワークの案内サイトには、次のことが書かれています。
- 在宅勤務をしている場合でも、保育所などの利用の対象になる
- 国は市区町村に、「テレワークで在宅勤務をしている場合は、仕事を休んで家にいるものではない」という考え方を示している
つまり、「家にいるのだから、子どもを見ながら働けるはず」という考えは、国もとっていません。年中の子がそばにいる時間に、いない時間と同じ量の仕事をしようとするのは、もともと無理のある計画です。あきらめるのは仕事そのものではなく、「子どもがいる時間に、いつもどおり進めること」のほうです。
割り込みは、区切りで受けると軽くなる
割り込みをゼロにはできなくても、受け方で負担は変わります。アメリカのイリノイ大学のPiotr AdamczykとBrian Baileyは2004年、16人にパソコンで作業をしてもらい、いろいろなタイミングで通知を出す実験をしました。作業の切れ目で割り込まれた場合は、いちばん悪いタイミングで割り込まれた場合より、いら立ちが56%少なくなりました。別の実験(Monkら、2008年)では、割り込みが長いほど、もとの作業にもどるのに時間がかかっていました。
大人のパソコン作業の実験で、子どもは出てきません。ここからは私の考えですが、「この1行を書いたら見るね」と区切りまで待ってもらい、見るときは短くちゃんと見るほうが、とちゅうで手を止めて長く言い合うより、仕事にも子どもにもよさそうです。Leroyらの調査では、家の中に自分だけの仕事場所がある人は、仕事と関係のない割り込みが少ないという結果も出ています。
経営学のヒント:予定を100%つめない
工場やお店の仕事を考える学問に、「待ち行列」という考え方があります。レジにお客さんが並ぶ様子を、数式で表したものです。いちばん基本の形では、窓口がどのくらい「つまっているか」で、1つの用事がすむまでの時間が決まります。
80%つめた状態と95%つめた状態では、あいているすき間は15%しかちがいません。それなのに、用事がすむまでの時間は4倍ちがいます。いつ来るか分からない用事がある場所では、すき間を残しておかないと、全体が急に流れなくなるのです。
製品開発の世界でも、同じことが言われています。Stefan ThomkeとDonald Reinertsenが2012年に経営誌Harvard Business Reviewに書いた記事は、平均的な開発の責任者が人や設備を98%以上つめて使っていること、つめるほど仕事の速さが落ちること、ばらつきの大きい仕事には余白を持たせるべきことを指摘しています(今回は、この記事を紹介した大学の解説で内容を確かめました)。Tom DeMarcoも、2001年の本『Slack』で、必要なのはもっと高い効率ではなく、もっと多いゆとりだと書いています。
年中の子がいる家は、「いつ来るか分からない用事」のかたまりです。そこに、子どものいない日と同じ予定をつめこめば、1回の「パパ来て!」で全部がくずれます。くずれるたびにいら立つのは、子どものせいというより、予定のつめ方のせいです。子どもがいる時間は、最初から半分しか進まないものとして予定を組む。そのほうが、終わったときの気持ちがまるでちがいます。
今日からできること
1〜3は上の園での研究をもとにしたやり方、4〜6は調査や考え方をもとにした工夫です。家庭でこの手順そのものの効果を確かめた研究があるわけではありません。
- 合図を決めて、言葉で約束する。札でも、ぬいぐるみを机に置くでもかまいません。「赤い札のあいだはパパの時間。お話はできないよ。緑の札になったら、君の時間。なんでも見るよ」。色だけ変えても伝わらないので、毎回、はじめる前に言葉で言います。
- はじめは短く。時間が来たら、かならず緑にする。砂時計やタイマーを子どもから見える場所に置き、はじめは数分から。鳴ったら、仕事のとちゅうでも札を緑にして、体ごと子どものほうを向きます。約束が守られると分かれば、待てる時間はのびていきます。
- 「すみません」「待って」「いいよ」を、遊びの中で練習する。呼ぶときは「パパ、すみません」。「待って」と言われたら「いいよ」と言って待つ。はじめは30秒で十分です。待てたら、すぐに見て、待てたことを伝えます。
- 仕事の前に、こちらから先に相手をする。10分でもいいので、子どもがやりたい遊びについていきます。年中の子で確かめられた方法ではありませんが、試す値打ちはあります。
- 仕事を2つに分ける。深く考える仕事は、園に行っている時間や寝たあとにまわします。子どもがいる時間は、とちゅうで止まってもこまらない仕事(返信、整理、下調べ)にし、予定は半分にします。
- 区切りで受けて、短くちゃんと見る。「この1行を書いたら見るね」と言って、本当に書いたら見る。見るときは、画面から目をはなして、作ったものについて一言言います。
それでも回らない日はあります。国も、在宅勤務の人が保育を使うことをみとめています。園の預かり保育や一時保育、パートナーや祖父母との分担は、「さぼり」ではなく、仕事の段取りです。
呼ぶ回数がとても多くて親からはなれられない、不安が強い様子が続く、といったときは、園の先生や小児科に相談してください。
まとめ
- 相手をしてもらえる時間、4〜5歳の子は1分に約9回、先生を呼んでいた。大人を呼ぶのは、この年ごろのふつうの行動(Tiger & Hanley, 2005)
- 合図の色を変えただけでは、子どもは「いい時」と「だめな時」を見分けられなかった。言葉で約束を説明すると、「だめな時」に呼ぶ回数は1分に0.3〜1.5回になった(同)
- 「すみません」と呼ぶ、「待って」と言われたら30秒待つ、などを園で教えると、こまった行動が74%へった(Hanley et al., 2007)
- 先にまとめて相手をする方法は、年中の子では確かめられていない。小学生や、障害のある子の研究では効果があった
- 家で働く親は、仕事時間の3〜5割が「子どもを見ながら」だった(IFS, 2020)。国は、在宅勤務でも保育所を使えるとしている
- 割り込みは、作業の切れ目で受けると、いら立ちが56%少なかった(Adamczyk & Bailey, 2004)
- 予定を100%つめない。子どもがいる時間は、半分進めば上出来として組む
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園の生活の技を教える取り組み:Hanley, Heal, Tiger & Ingvarsson (2007) Journal of Applied Behavior Analysis
「みてて」の研究(書誌のみ確認):福崎淳子『園生活における幼児の「みてて」発話―自他間の気持ちを繋ぐ機能』相川書房、2006年
集中の続く時間の発達:Ruff & Lawson (1990) Developmental Psychology
時間を決めて相手をする研究:Austin & Soeda (2008)/McComas et al. (2003)(どちらも Journal of Applied Behavior Analysis)
親子相互交流療法のまとめ:Thomas et al. (2017) Pediatrics
家で働く人の割り込み:Leroy, Schmidt & Madjar (2021) Journal of Applied Psychology
親の仕事時間の調査:Andrew et al. (2020) Institute for Fiscal Studies
在宅勤務と保育:厚生労働省 テレワーク総合ポータルサイト Q&A
割り込みのタイミング:Adamczyk & Bailey (2004) CHI/Monk, Trafton & Boehm-Davis (2008) Journal of Experimental Psychology: Applied
待ち行列の式:MIT OpenCourseWare 2.854 講義資料
つめすぎと余白:Thomke & Reinertsen (2012) の解説(ノースカロライナ州立大学)/DeMarco (2001) Slack