朝、子どもがふとんの上でうつむいている。シーツにしみができている。今週、もう3回目。「寝る前にトイレ行ったよね?」と、つい言い方がきつくなる。昼間のおむつはとっくに外れたのに、夜だけが続く——もうすぐ5歳、という時期に気になりはじめることです。叱ったほうがいいのか、夜中に起こしてトイレに連れていくべきなのか。今回は、日本の学会がまとめた診療ガイドラインと、医学誌の研究から調べました。

5歳で、およそ7人に1人
まず、5歳のおねしょはめずらしいことなのでしょうか。日本夜尿症学会が2021年にまとめた「夜尿症診療ガイドライン2021」は、年齢ごとの割合を次のように紹介しています。
5歳で15%、およそ7人に1人です。年中・年長のクラスに20人いれば、3人ほどはまだ夜のおねしょがある計算になります。そしてガイドラインは、1年ごとに14%ずつ、自然によくなっていくと書いています。
ちなみに、医学の世界で「夜尿症」と呼ぶのは、5歳以上で、月に1回以上のおねしょが3か月以上続く場合です。4歳までのおねしょは、そもそも病気としては数えません。
イギリスで約1万4千人の子どもを追いかけた調査(Butler & Heron, 2008年)でも、おねしょをする子の割合は4歳半の30%から9歳半の9.5%へとへっていき、とくに4歳半から5歳半のあいだに大きくへっていました。
原因は体のしくみ。しつけの問題ではない
ガイドラインは、おねしょの原因を3つのかみ合わせで説明しています。
- 眠りから目を覚ます力(おしっこがたまっても起きられない)
- 夜のあいだ、ぼうこうにためておく力(ためられる量が少ない)
- 夜に作られるおしっこの量(夜の量が多い)
どれも、子どもが自分の意志で変えられるものではありません。ガイドラインは、医師がまずすることのひとつとして、「夜尿症は親のしつけの問題や、子どもの心理的な問題ではない」と家族に伝えることをあげています。
体質も関係します。ガイドラインによると、親のどちらかに子どものころおねしょが続いた経験があると、その子は5〜7倍、両親ともにあると約11倍、おねしょが続きやすくなります。フィンランドで7歳の子ども3,206人を調べた研究(Järvelinら、1988年)でも、父親に経験があると7.1倍、母親に経験があると5.2倍でした。
4人に1人の親が「なまけ」だと思っている
ところが、親の受け止め方はちがいます。アメリカのカリフォルニア大学サンフランシスコ校のBruce Schlomerらは2013年、医学誌Journal of Pediatric Urologyで、親216人へのアンケートを発表しました。おねしょの原因として、26%の親が「なまけているから」と答えていました。
叱ることや罰とおねしょの関係を調べた研究もあります。サウジアラビアのキング・アブドゥルアズィーズ大学のFaten Al-Zabenらは2015年、医学誌Child Abuse & Neglectで、おねしょのある7〜13歳の子ども65人を調べました。おねしょで親から罰を受けていた子は、受けていなかった子とくらべて、おねしょの回数が多く、気持ちの落ちこみが強いという結果でした。
ブラジルで6〜15歳の87人を調べた研究(Sáら、2016年)では、おねしょのある子の全員が、言葉で責められた経験があると答えています。
夜中に起こすのは、どうなのか
「夜中に起こしてトイレに行かせれば、ぬれずにすむ」。多くの家庭でやっている方法です。ガイドラインは、これについて次のように書いています。
- 夜中にむりに起こすことが治りにどう影響するかは、今のところ分かっていない
- むりに起こすと眠りがさまたげられ、その結果、夜のおしっこの量がふえる可能性がある
- 短い宿泊行事など、かぎられた場合には、夜中に起こすことを考えてもよい
日本小児泌尿器科学会の一般向けのページも、生活の基本として「とちゅうで起こすことを強制しない」「夕方以降の水分をひかえる」の2つをあげています。
水分について、ガイドラインは寝る2時間前(できれば3時間前)からひかえることを考えてよい、としています。1日の水分をへらすのではなく、飲む時間を前にずらす、という意味です。
なお、「起こさず・あせらず・怒らず」という標語がよく紹介されますが、今回ガイドラインの本文を調べたかぎり、この言葉は見つかりませんでした。考え方としては上の内容と合っていますが、「ガイドラインにそう書いてある」とまでは言えません。
経営学のヒント:本人が動かせないことで、評価しない
会社で人を評価するときの、大事な決まりごとがあります。会計の世界で「管理可能性の原則」と呼ばれるものです。むずかしい名前ですが、中身はかんたんです。人を評価するときは、その人が自分で動かせることだけを物差しにする、という考え方です。
たとえば、お店の店長を「売上」で評価するとします。でも、その月に近くで大きな工事があって、お客さんが来られなかったらどうでしょうか。店長にはどうしようもないことで、評価が下がってしまいます。これが続くと、店長はやる気をなくすか、数字をごまかすようになります。だから、うまくいっている会社は、「あいさつの回数」「売り場の手入れ」のように、本人が動かせることを物差しにします。
おねしょは、子どもにとって「動かせないこと」の代表です。眠っているあいだに起きるからです。それを「またやったの」と責めるのは、工事のせいで売上が落ちた店長を叱るのと同じです。責められても、子どもには直す手段がありません。残るのは、「自分はだめだ」という気持ちだけです。
評価するなら、子どもが動かせることにします。「寝る前にトイレに行けた」「ぬれたパジャマを自分でかごに入れた」「夕ごはんのあと、お茶をがまんできた」。こちらは、ほめれば次もできます。
今日からできること
1〜3は上のガイドラインや学会の資料にもとづくこと、4と5は考え方をもとにした工夫です。
- 叱らない。罰をあたえない。原因は体のしくみで、しつけの問題ではありません。朝は「ぬれちゃったね。着がえよう」だけで十分です。
- 水分は、夕方までにしっかり。寝る2〜3時間前からはひかえめに。昼間にがまんさせる必要はありません。夕ごはんのときに飲んで、そのあとを少なくします。
- 夜中にむりに起こさない。お泊まり保育や旅行など、どうしてもというときだけにします。
- 「動かせること」をほめる。ぬれなかった朝をほめると、ぬれた朝は「だめだった日」になります。寝る前にトイレに行けたこと、着がえを自分でしたことのほうをほめます。
- 後始末を、たいしたことではなくする。防水シーツをしく、着がえをまくらもとに置く。親の手間がへれば、朝のいら立ちもへります。
病院に行く目安も書いておきます。ガイドラインは、本人や家族が悩んでいる場合には、積極的に治療することをすすめるとしています。国際的な指針(Nevéusら、2020年)は、本格的な治療は6歳からとしています。5歳をすぎて月に1回以上のおねしょが3か月以上続いていて、本人が気にしている、親が疲れている、というときは、「そのうち治るから」とがまんせず、小児科で相談してかまいません。スウェーデンの研究(Hägglöfら、1998年)では、治療を受けた子の自己評価は、半年後に、おねしょのない子と同じくらいになっていました。
昼間もおもらしがある、おしっこのときに痛がる、いったん半年以上おさまっていたのにまた始まった、といったときも、早めに小児科に相談してください。
まとめ
- おねしょが続いている子は、5歳で15%、7歳で10%、10歳で5%。1年に14%ずつ自然によくなる(夜尿症診療ガイドライン2021)
- 原因は、目を覚ます力・ぼうこうにためる力・夜のおしっこの量のかみ合わせ。しつけや心理の問題ではない(同ガイドライン)
- 親に経験があると5〜7倍、両親ともなら約11倍、続きやすい(同ガイドライン)
- 親の26%が、原因を「なまけ」と考えていた(Schlomer et al., 2013)。罰を受けていた子は、おねしょが多く、気持ちの落ちこみが強かった(Al-Zaben & Sehlo, 2015)。ただし、原因と結果は分からない
- 夜中にむりに起こす効果は分かっておらず、眠りをさまたげるおそれがある。水分は寝る2〜3時間前からひかえめに(同ガイドライン)
- 本人が動かせないことで責めない。動かせることをほめる。悩んでいれば小児科へ
あわせて読みたい
寝る前の「あと1冊!」「お水!」「トイレ!」が終わらない。引きのばしを減らす「1枚のチケット」を研究で調べた 「やってないよ」とすぐバレる嘘をつく子ども。叱る前に知っておきたいことを研究で調べた 小学生になるまでに知っておきたい「自己肯定感」の育て方。心理的安全性から考える 育児に真剣になりすぎて疲れないために。「ほどよい親」でいい理由を研究で調べた クエストログへ戻る学会のガイドライン:日本夜尿症学会「夜尿症診療ガイドライン2021」(Minds公開版)
学会の一般向け説明:日本小児泌尿器科学会「夜尿症」
国際的な指針:Nevéus et al. (2020) Journal of Pediatric Urology
イギリスの追跡調査:Butler & Heron (2008) Scandinavian Journal of Urology and Nephrology
親の経験との関係:Järvelin et al. (1988) Acta Paediatrica Scandinavica
親が考える原因:Schlomer et al. (2013) Journal of Pediatric Urology
罰と子どもの状態:Al-Zaben & Sehlo (2015) Child Abuse & Neglect/Sá et al. (2016) Journal of Urology
治療後の自己評価:Hägglöf et al. (1998) European Urology
管理可能性の考え方:Malmmose & Lydersen (2021) BMC Health Services Research